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「MacVision」の登場。Macintoshがビデオデジタイザになったあの頃

著者: 大谷和利

「MacVision」の登場。Macintoshがビデオデジタイザになったあの頃

※この記事は『Mac Fan』2018年1月号に掲載されたものです。

1985年、新風を吹き込んだ画像入力装置「MacVision」

別の記事で、ImageWriterとThunderScanを組み合わせることで、Macが写真や印刷されたイメージを画面内に取り込んで加工する能力を手に入れた話をした。しかし、広がるMacの応用分野は、さらに新しいタイプの画像入力装置を必要としていた。

そこに登場したのが、コアラ・テクノロジーズというAppleと並んで奇抜な社名を持つ会社のMacVisionである。同社は、元々、Apple II用の入力装置メーカーとして知られ、Koala Padと呼ばれる小型で安価なグラフィックタブレットや、モニタ画面上に直接絵などが描けるライトペン装置を開発・販売していた。

MacVisionはアメリカでは1985年に発売されたのだが、僕が日本で入手できたのは1986年のことだった。MacVisionの本体は中版の辞書ほどのサイズを持つインターフェイスボックスであり、その色や角を面取りしたデザインはMac本体とマッチしていた。

このボックスのビデオ入力端子にビデオカメラやビデオデッキなどの映像機器をケーブルでつないで再生すると、内蔵の回路によって映像のアナログ信号がデジタル信号に変換され、シリアルポート経由でMacに送られる。ボックス上面にある2つの丸いダイアルは、それぞれ明るさとコントラストの調整ボリュームになっていた。

専用の取り込みソフトウェアは、ほかのソフトウェアを使用中であっても、自由に呼び出して利用することができるように、デスクアクセサリ(シングルタスクだった当時にMac上でほかのソフト実行時に呼び出して使える電卓やメモパッドなどの小さなユーティリティソフト)の形式を採っていた。MacVisonで取り込まれたイメージは、たいていペイントソフトのMacPaint上で編集を加えたり、ワードプロセッサの文書内に直接ペーストして使用することが多く、デスクアクセサリとして使える点は作業効率からいっても都合が良かった。

Macユーザの心を奪った初代MacVisionシステム

一方でMacVisionでの画像取り込みは、Thunderscanよりはるかに高速だが、シリアルポートのデータ転送レートの制約などから512ドット×342ドットのイメージで約5秒ほどかかった。しかし、逆に、1回のスキャンが上から下にゆっくり行われることを利用して、取り込み途中でビデオカメラをわざと移動するなどしてイメージを引きずったような特殊効果を出すアート指向の利用法を楽しむユーザもいた。

僕個人は、MacVisionと組み合わせるのに適した映像機器を探すうちに、スティルビデオカメラに行き当たった。それはデジカメの元祖のようなデバイスだが、2インチのマイクロフロッピーディスクを利用して静止画をアナログデータとして記憶し、テレビなどにビデオ出力できた。その画質は、ショップの店員ですら「本当に買うんですか?」と念を押すほど悪かったが、モノクロで解像度もそこそこのMacVisionとは相性が良く、ブレのないスキャンの強い味方となってくれた。

その後、拡張スロットのあるMacが登場するとMacVisionシステムもありきたりの拡張カードタイプとなり、製品としてのユニークさを失う代わりに、カラーがサポートされ画質も向上した。しかし、初代のMacVisionは、原始的ではあっても、その頃のMacユーザの目に、現在のiPhoneのカメラ機能以上に魅力的なものとして映っていたのである。

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著者プロフィール

大谷和利

大谷和利

1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。

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