同じ組織のMacでありながら、利用するAIや接続先、セキュリティ設定は一様ではないのが現状です。企業はその利用実態を、どこまで正確に把握できているでしょうか。
こうした課題に取り組んできたJamfが、AI管理の守備範囲をさらに広げようとしています。同社は、6月にMac向けの「AI Governance」の一般提供を発表。9月23日~25日に開催された年次カンファレンス「JNUC 2026」では、MacへのローカルAIモデルの配布や、アプリからローカルモデルやクラウドAIへ接続するための仕組みを披露しました。利用状況の可視化やアクセス制限にとどまらず、会社が承認したAIと、その利用環境を社員の手元へ届ける領域まで支援を広げる動きといえます。

社員のAI利用に追いつかない企業の管理体制
JamfがAI Governanceを提供する背景には、AIがさまざまな経路から日々の業務へ入り込む一方で、企業の管理体制がそのスピードに追いついていない現状があります。
警戒すべきは、会社が承認していないAIを社員が使う、いわゆる「シャドーAI」だけではありません。エディターの拡張機能やコマンドライン・ツールなど、IT管理者が目を配るべき対象は増え続けています。
Jamfが6月に公表したIT・セキュリティ責任者687人への調査では、22%が予想外の費用やセキュリティ問題のトラブルを経験したと答えました。自由回答では「シャドーAI」「AIエージェントや開発者向けツール」「既存製品へのAI機能の追加」「不透明な利用コスト」という4つの課題が浮き彫りになっています。

なかでも「AIエージェント」の普及は、管理の難易度を一段と引き上げています。エージェントは文章で答えるだけでなく、与えられた権限の範囲でファイルを読み、コマンドを実行し、外部サービスにつながります。同じツールを使っていても、設定ひとつでアクセス範囲や実行できる操作が変わってしまいます。
したがって「会社が契約・承認したサービスを使っているか」を確認するだけでは、十分なガバナンスとは言えません。そのAIがどのデータにアクセスし、何をどこまで実行できるかまで把握する必要があります。Mac上で動くエージェントでは、推論処理がクラウド側で行われても、ローカルファイルへのアクセスやコマンド実行は端末上で行われます。ネットワークの通信ログだけでは捉えきれないこうした挙動を把握・制御するために、Jamfはエンドポイントでの可視化と制御を重視しています。

企業のセキュリティ方針をMac端末の設定へ落とし込む
6月30日に一般提供が開始されたAI Governanceは、Mac上で使われているAIツールを検知し、対応ツールに対して利用ポリシーを適用するとともに、その監査レポートを生成する仕組みです。
当初の対応ツールはClaude Code、Claude Desktop、OpenAI Codexの3つでした。モデルへのアクセス、ネットワークやファイルシステムの利用、AIと外部のデータやツールをつなぐMCPサーバーの制限など、ツールごとの設定を管理できます。
注目したいのは、AI Governanceが当初から「禁止・排除するためだけのツール」として設計されたわけではない点です。6月の発表時点でJamfは、パートナー企業のAIソリューションを展開・管理する用途を掲げ、Oktaとの連携をモデルケースとして示しました。どのMCPサーバーをMac上で動かしてよいかをJamfが決め、そのMCPサーバーがどのクラウド資源にアクセスできるかをOktaが認可する。エンドポイントとID管理による明確な役割分担です。

モデル配布からルーティングまで、業務環境として届けるオンデバイスAI
今回のJNUCで披露された拡張は、この枠組みをさらに推し進め、ローカルAIを「標準の業務環境」として社員へプロビジョニングする領域にまで踏み込んでいます。
たとえば、機密性の高い社内文書から情報を抽出する作業を、データを外部に出さずに済ませたいとします。要件に合致するオープンなモデルを見つけたとしても、それだけで現場の社員が使いこなせるわけではありません。モデルを動かす推論エンジンをセットアップし、大容量のモデルファイルを配置し、普段の業務アプリから呼び出せるように環境を整える必要があります。
IT担当者が自身のMacで検証するのと、組織全体のMacへ安全かつ均一に展開するのとでは、運用のハードルが根本から異なります。Jamfによると、オンデバイスAIを検討している顧客からは、その価値を実感しつつも、実運用における配布・設定・コンプライアンス対応が難しいという声が多く寄せられているそうです。
そこで今回Jamfが示したのが、設定・配布の仕組みである「Blueprints」でアプリとAIモデルを配布し、「on-device AI gateway」でそれらをつなぎ、AIポリシーで全体を管理するアーキテクチャです。
このgatewayは、社員が使うアプリと、処理を担うモデルやサービスの間に入り、プロンプトを設定に応じた接続先へ送る役割を担います。


さらにJNUCでは、消費されたトークン量に基づき、ツールやモデルごとの推定コストを可視化する機能も発表されました。トークン利用量と公開価格をもとに推定し、プロンプトや応答の中身は取得しないとしています。
こうしたオンデバイスAIの仕組みと、利用量・費用の把握機能は、いずれも2026年第4四半期の一般提供を予定しています。
IT管理の対象に加わる「AIモデル」と「実行環境」
Jamfの一連の動きから見えてくるのは、企業が管理する対象に、AIモデルとその実行環境が加わろうとしていることです。
これまで企業のAI導入といえば、クラウドAIサービスを契約し、社員にアカウントを割り当てる運用が主流でした。そこに、業務内容に適したモデルを評価・選定し、Macに配布して使える状態に整えるという新たな選択肢が加わります。
これに伴い、AIモデルも一般的な業務ソフトウェアと同様、導入後のライフサイクルを見据えた運用管理が求められます。日本語の処理精度や商用ライセンス条項の確認はもちろん、モデルを動かす推論エンジンの更新や、トラブル発生時のサポート体制も視野に入れる必要があります。
同時に、ハードウェアとしてのMacの選定基準も変わってきます。ローカルAIを仕事に組み込む場合、日常的なオフィスアプリが快適に動作するかどうかに加え、承認されたモデルを実用的な速度で動かせるかも、機種選定の重要な指標になります。
Appleもこの方向を後押ししています。同社は開発者向けポータルなどを通じて、Foundation Models、Core AI、MLXといったオンデバイスAI技術の普及に注力しています。AppleがシリコンとOSレベルで実行基盤を整備し、Jamfのような管理ソリューションが配布と統制を担う。両者の役割分担が噛み合い始めています。
もちろん、推論をローカルに移行すれば無条件にコスト削減やセキュリティ強化が図れるわけではありません。 クラウドAPIの利用料は抑えられる一方、端末スペックの増強や、モデルの選定・検証工数、日々の保守運用には相応のリソースが伴います。
すべてをローカルに置き換えるのではなく、機密性やレスポンス、コストのバランスを見極めながら、クラウドとローカルを適材適所で使い分ける。その判断を支え、社員が安心して使える環境に落とし込むところに、これからのエンドポイント管理ツールの役割があります。
JamfがJNUCで示したのは、そのための実践的なロードマップです。企業がAIを契約することに加え、業務に合ったモデルを選定・配布し、使える状態を維持する。その環境を支えるところへ、JamfはMac管理の役割を広げようとしています。

