Mac Studioの院内設置に対応、患者情報を外に出さない生成AI – GENSHI AIが「1stRound」採択

2026.10.14 早川厚志 約5分
Mac Studioの院内設置に対応、患者情報を外に出さない生成AI – GENSHI AIが「1stRound」採択

GENSHI AIは10月5日、東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)が運営する創業成長支援プログラム「1stRound」の第15回支援先に採択されたと発表した。同社は、患者情報を院外に出さずに生成AIを使える閉域LLM基盤「MedLocal」などを開発しており、院内に置く機器としてNVIDIA DGX Sparkと並んでMac Studioを挙げている。

1stRoundは、大学に関連する技術や着想の事業化を支援するアカデミア共催型のプログラムで、採択先に資金支援や事業連携、専門家によるサポートを提供する。

 

 

同社が挙げる医療現場の課題

同社が背景に挙げるのは、2024年4月に始まった医師の時間外労働の上限規制だ。同社によると、医療現場では業務効率化が急務になっており、なかでも退院サマリーや診療情報提供書、日々の経過記録といった文書作成が、医師や看護師の業務時間の大きな部分を占めている。

生成AIを使えばこの負担を減らせる可能性があるが、多くの医療機関で本格導入は進んでいないという。同社はその要因に、患者情報を院外のクラウドへ送信することへの懸念、「3省2ガイドライン」への対応、日本の診療実態に即した精度の確保を挙げる。診療記録は電子カルテの中にあるため、カルテと連携せず手作業でコピー&ペーストして使う生成AIでは、現場の手間はあまり減らないとも指摘している。

GENSHI AIが挙げる、医療現場での生成AI活用を阻む3つの課題

閉域LLM基盤「MedLocal」

MedLocalは医療機関向けのLLM基盤で、院内に設置したマシンか国内の閉域クラウド上で動く。電子カルテの画面からワンクリックで呼び出すと、経過記録や処方、検査結果をカルテから集め、前回までの経過要約、退院サマリー、診療情報提供書、看護記録などの下書きを作る。紙やFAXで届いた紹介状をOCRで読み取り、病名や処方、検査値を取り出す機能もある。

医療機関向け閉域LLM基盤「MedLocal」

同社は、認証(OIDC)、監査ログ、自動バックアップを含め、3省2ガイドラインに沿った運用を前提に開発しているという。

3種類の設置形態とMac Studioでの検証

同社は、病院の規模や環境に応じて設置形態を3種類用意している。

  • 院内設置型:NVIDIA DGX SparkやMac Studioを院内に設置
  • 国内閉域クラウド型:国内のデータセンターと閉域網で稼働
  • 病院が契約済みのクラウド:VPC内で稼働
MedLocalの3つの設置形態。院内設置型ではNVIDIA DGX SparkやMac Studioを利用できる

同社は、閉域環境でのAI活用に関する検証結果も自社サイトで公開している。Mac Studio 1台をインターネットに接続しない状態で使い、オープンウェイトのLLMを動かしたところ、第120回医師国家試験の一般臨床問題で正答率は89.7%だったという。

音声認識「GENSHI Voice」

診察時の音声入力を担うのがGENSHI Voiceだ。同社が自社開発した音声認識で、医療用語に強いとしている。問診や診察時の会話を話者ごとに分けて文字にし、要約やSOAP形式の記録まで作って、カルテ記載や文書作成に回す。

同社はこれを、iPhoneアプリ、Chrome拡張機能、WindowsとMac向けのデスクトップアプリ、APIとSDKの4つの形で提供する。Secureモードでは国内でデータ処理を完結する。

医療特化型の音声認識「GENSHI Voice」。iPhoneアプリでは診察時の会話を文字起こしし、要約やSOAP形式の記録を作成できる

医師個人向けのエビデンス検索「CHUBEN」

CHUBENは医師個人向けのサービスで、日本の診療ガイドラインに基づくエビデンス検索とノート機能を備える。国内の診療ガイドライン5,000本超に加え、PubMedとOpenAlexの論文も横断して回答し、回答の一文ごとに根拠を示す。

GENSHI AIの体制と導入状況

GENSHI AIは、医師免許を持つAIエンジニアの長嶋大地氏が2025年11月に創業したスタートアップ。医療向けAIモデルの開発から、電子カルテと連携するアプリケーションの実装、院内での運用までを自社で手がける。医療特化の文章埋め込みモデル、OCR、軽量言語モデル、音声認識といった技術も自社で開発しているという。

2026年8月には、自社開発の軽量OCR基盤モデル「Baberu OCR」で、同社が経済産業省とNEDOの「GENIAC-PRIZE」国産基盤モデル開発事業者リストに掲載された。

同社によると、MedLocalには事業の立ち上げ直後から20件以上の問い合わせがあり、現在は複数の医療機関でパイロット導入の準備を進めている。

今後の計画

同社は今後、MedLocalの院内設置型と国内閉域クラウド型の提供拡大、電子カルテ連携の強化、CHUBENの本格提供を進める。GENSHI Voiceと組み合わせ、診察時の会話の記録から文書の下書きまでを一続きで処理するワークフローの提供も目指す。

GENSHI Voiceで診察時の会話を記録し、MedLocalでカルテ情報を集めて文書の下書きまでつなぐワークフロー(画面は開発中のもの)

さらに、文書の下書き作成に加え、電子カルテから必要な記録を取得して次の作業を準備するAIエージェントへと機能を広げる方針だ。

IT担当者が押さえておく点

院内設置型の機器にはMac Studioが含まれ、同社は1台でオフラインのLLMを動かした検証結果も公開している。音声入力にはiPhoneアプリとMac向けデスクトップアプリが使える。

GENSHI VoiceとMedLocalを組み合わせたワークフローには開発中の機能が含まれる。価格やMac Studioの具体的な構成は、今回の発表では示されていない。

TAGS #医療