業務端末の「従業員選択制」は有効か? 企業にもたらすメリットと効果

2026.06.16 更新 2026.06.04 水川歩 約8分
業務端末の「従業員選択制」は有効か? 企業にもたらすメリットと効果

企業で利用する業務端末を従業員自ら選択できる「従業員選択制」が、国内でも広がりつつあります。従業員が自ら端末を選べる環境は、EXや生産性の向上といった効果が期待されるとともに、管理・運用・人材戦略など企業経営の幅広い領域にも影響を及ぼします。

従業員選択制によって期待される4つの効果

従来、企業の業務端末は「全社統一」が基本でした。管理効率やセキュリティ統制の観点から、同一スペック・同一OSの端末を一律配布することが合理的とされてきたためです。キッティング、ソフトウェア配布、OSアップデート、セキュリティポリシー適用などを一元化できることは、IT部門にとって大きなメリットでした。

しかし現在では、その前提が大きく変わりつつあります。SaaSやクラウドサービスの普及により、業務アプリケーションの多くがWebベースへ移行し、OS依存性は大幅に低下しました。Microsoft 365やGoogle Workspace、Slack、Zoom、Salesforceなどの主要ツールは、特定の端末に依存せず利用できます。

こうした環境変化を背景に、近年広がっているのが、従業員が業務端末を選択できる「従業員選択制(Employee Choice Program)」です。従来のようにWindows PCを一律支給するのではなく、Macなど複数の選択肢を用意し、従業員が自身の業務スタイルに合わせて選べる仕組みです。

では、この従業員選択制は企業にとってどのような経営メリットをもたらすのでしょうか。主なポイントは次の4つに整理できます。

デバイス選択がもたらす従業員体験の変化

まず、従業員選択制の直接的な効果として挙げられるのが、従業員体験(EX)の向上です。リモートワークやハイブリッドワークの定着により、業務端末は単なる社内IT機器ではなく、従業員が日常的に長時間利用する“仕事環境”そのものへと変化しています。

そのため、起動速度やバッテリ持続時間、処理スピード、静音性、Web会議の快適さ、携帯性といった要素は、単なる使い勝手ではなく、日々のストレスや業務の中断頻度、集中度にも影響します。従業員が自分に合った端末を選べることは、こうした負荷を減らし、働きやすさそのものを底上げすることにつながります。

さらに、従業員自身が使いやすいと感じる端末を選択できることは、「自分で仕事環境を選べる」という自律性にも直結します。慣れた操作環境を利用できることで、学習コストや環境適応によるストレスを抑えやすくなるほか、普段利用している私物デバイスとの体験ギャップも小さくなります。こうした積み重ねが、従業員満足度やエンゲージメントにも影響を与えるようになっているのです。

2023年9月にJamf社が公開した記事によると、Ciscoでは99カ国・13万人規模の従業員を対象に従業員選択制を導入した結果、全体の約60%がMacを利用。導入後12カ月間に実施した調査では、MacとiPhoneを利用している従業員のIT環境に対する満足度は83%に達しており、従業員が自分に合ったデバイスを利用できることが、日々の業務体験やエンゲージメントに影響していることが示されています。

Jamf社の記事「Mac in the Enterprise: A CIO’s Perspective by the Numbers」では、Ciscoが従業員選択制を導入したことによる効果がデータとともに紹介されています。
【URL】https://www.jamf.com/blog/mac-in-the-enterprise-employee-choice/?utm_source=chatgpt.com

使いやすいデバイスが業務効率を高める

従業員選択制は、単なる“働きやすさ”にとどまらず、生産性や業務成果にも影響を与えることも明らかになりつつあります。従来、業務端末は「標準化による管理効率」が重視されてきました。しかし現在では、「従業員が最もパフォーマンスを発揮しやすい環境を提供すること」が、生産性向上につながるという考え方が広がりつつあります。

前述したJamf社公開のCisco事例では、Mac利用者はWindows利用者と比較して、営業部門では案件創出数が9.8%増加、受注額は10.9%向上、契約締結までのスピードは9.9%高速化したと報告されています。さらにソフトウェアエンジニアでは、コード出力量が11.5%増加したとされています。

CiscoのSVP兼CIOであるFletcher Previn氏は、「従業員が日常的に利用するデバイスを気に入っているかどうかは、仕事への関わり方や成果に大きな影響を与える」と言及。従業員選択制は単なる福利厚生ではなく、組織全体のパフォーマンス向上につながる施策として捉えられ始めているのです。

採用競争力と人材定着にも影響あり

従業員選択制は、人材採用や定着率の観点からも注目されています。現在、多くの企業が直面しているのが、高度IT人材やデジタル人材の獲得競争です。特にエンジニアやクリエイティブ職では、「どのような環境で働けるか」が企業選択の重要な判断材料になりつつあります。

特に近年はコンシューマー市場での利用拡大により、「普段からMacを使っている」従業員も増えています。学生時代や前職で使い慣れたデバイスを、そのまま業務でも利用したいと考える人は少なくありません。そのため、「会社支給の端末に自分が合わせる」のではなく、「自分がもっともパフォーマンスを発揮しやすい環境で働きたい」という価値観が広がりつつあり、従業員選択制は、こうしたニーズに応える仕組みとして受け止められています。つまり業務環境そのものが、採用競争力や人材定着を左右する要素になりつつあるのです。

また、従業員選択制は企業ブランドや組織文化にも影響を与えます。日常的に使用する業務端末は、その企業がどのような働き方や価値観を重視しているかを象徴する存在だからです。実際に、Appleが同社サイトで公開している導入事例では、ウォンテッドリー(Wantedly)社が「Macを利用していること自体が企業イメージ向上につながっている」と述べています。

Appleが公開するウォンテッドリー(Wantedly)社の導入事例記事では、Macの活用が企業イメージ向上にもつながっていることが紹介されています。
【URL】https://www.apple.com/jp/business/small-business/success-stories/wantedly/

Mac導入によるIT運用の合理化

従来、端末の多様化は「IT管理負荷の増大」につながると考えられてきました。しかし現在では、その前提も変わりつつあります。SaaSやクラウドサービスの普及によって、業務環境のWeb化が進んだほか、MDM(モバイルデバイス管理)などの管理基盤が普及したことで、異なるOSを混在させた環境でも一元管理しやすくなっているためです。

従来のWindows PCに代わり、従業員選択制で導入が進むMacは、OSレベルでセキュリティ機能が標準搭載されているほか、MDMを活用したクラウドベースの管理との親和性も高く、ゼロトラスト型のセキュリティ運用にも対応しやすい環境が整っています。その結果、従来のように「Macは管理が難しい」という認識も変わり始めています。

実際に、前述したJamf社公開のCisco事例では、Mac利用者を支援するために必要なIT管理者数は、Windows PC利用者と比較して約3分の2で済んだとされています。また、マルウェア関連インシデントも大幅に少なく、生体認証利用率も高いことから、セキュリティ対応負荷の低減にもつながっていると報告されています。さらに、macOS Venturaへのアップグレードは約1カ月で完了した一方、Windows 11への移行には約6カ月を要したとされ、OS更新に伴う運用負荷差も示されています。

このように現在では、端末選択の自由度を高めることが、必ずしもIT運用負荷の増大につながるわけではありません。むしろ、運用効率やサポート負荷、TCO(総所有コスト)を含めた観点からも、合理的な選択肢として評価され始めているのです。

「標準化」から「最適化」の時代へ

ここまで見てきたように、従業員選択制はEXの向上、生産性の改善、人材獲得・定着への寄与、IT運用の効率化など、複数の側面で企業に影響を与えています。単なる端末選択の自由度ではなく、企業ITの設計思想そのものに関わる取り組みだといえます。

その本質は、画一的に管理する「標準化」から、成果を最大化するために設計する「最適化」へと、発想の軸足が移りつつある点にあります。業務端末は今、単なるIT機器ではなく、企業の競争力を左右する“働き方そのもの”になりつつあるのです。

国内の事例としては、「仕事で使うパソコンは会社が一律に決めるのではなく、従業員自身が選ぶべきだ」という考え方を示したサイボウズ社の取り組みが知られています。同社では、従業員が最も使いやすい環境を選択できることが、生産性や幸福度、ロイヤリティ、企業成長につながると位置づけています。
【URL】https://www.jamf.com/ja/resources/case-studies/cybozu-inc/

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