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カタにハマり過ぎていては未来はつくれない

著者: 林信行

カタにハマり過ぎていては未来はつくれない

テクノロジーだけでは世の中は変わらない。iPadは農業や漁業、旅行業などそれまでIT化が遅れていた業界を大きく変えた画期的なテクノロジーだ。一方でそのiPadに外付けキーボードをつなぎ、マイクロソフト・オフィスを入れ、それまでパソコンでやっていたのと同じスタイルで使う人々の仕事ぶりはノートパソコン時代と大して変わっていない。

よくイベント参加申し込みのワード書類を受け取る。氏名、所属、住所といった欄の横に、空白で埋めた括弧が書かれていたりする。名前を打ち込むと閉じ括弧が次の行に溢れてしまうので、空白を4~5文字分消去して名前を記入する。受け取った側はおそらくワードで開いて見た内容を、パソコンの別のソフトに打ち直す無駄な作業を続けていそうだ。

こういう書類を送ってくる会社には、それだけで「ダメ会社」の烙印を押している。だが、こんなダメ書類をなぜメールしてくるのか。私の推理はこうだ。おそらく、これはインターネット普及のはるか前に、人々がファクスで出欠の返答をしていた時代の名残。つまり、申し込み書はプリンタで印刷してファクスで返答するためにつくられている。

おそらくダメ会社にもこの20年ほどの間に「今は簡単に情報を集計できるグーグルのアンケート機能がありますよ」などと進言した若者が数人はいただろう。しかし、「ウチは昔からこうやっている」と一蹴したダメ上司がいたのではないか。

おそらくそうした上司が幅を利かせる会社では、新しいテクノロジーを導入したところで、変えるつもりのない従来のやり方を新しい道具に無理矢理合わせなければならないため、かえって社員たちの負担が増えてしまいそうだ。

会社の出世の仕組みのせいで、慣れてもいない中間管理の職に無理矢理つかされたダメ上司も被害者かもしれない。出世の時点で新しいことを熱心に学び、会社の外とも交流が広い人ならある程度の柔軟性を持って対応できそうだが、会社の中の世界しか知らない人だと、自分が唯一知っている慣れ親しんだやり方でないと管理ができず、時代遅れのやり方を踏襲してしまうのはわからないでもない。

中規模以上の企業には組織のそこかしこにこうした「仕組み」の悪魔や「慣習」の悪魔がはびこっていて、直感力が鈍らされる。時間が無駄に奪われ、外部と交流が減り、「感性」も奪われる。そんな大企業病に感染するのが嫌な人は、とにかく外部に多様な分野、多様な背景の友だちをつくり交流を絶やさないことだ。

仕事が忙しく交流の時間がない、という人もいるかもしれない。しかし、社内だけでなく社外でも活躍している筆者の「大物」な友人たちを見るに、周りから「彼は(彼女は)しょうがない」と言われるキャラさえ確立できれば、疎まれはしても大きな問題にはならない(ノルマ以上の仕事をこなしている必要はあるが)。

デスクに座って「昨日のつづきの仕事」ばかりをするのではなく、「そもそも顧客目線で考えたらどうか」とか、「これからの時代の変化を考えるとどうか」とか、「物事の全体像を見るとどうか」とかを考えることで養われる「感と勘」は、長い目では会社にも還元されることになるはずだ。それがわかる上司がいない会社なら今のうちに辞めたほうが人生へのダメージが少ない。

なお、その価値がわかっているにも関わらず、有能な社員が次々と大企業病になり困っている経営者の方に少しだけ宣伝をしたい。幹部候補生のために「仕事の『感』と『勘』を磨く。」をコンセプトとした新しい社会人学校「カタヤブル学校」を始めます。興味のある方はこちら(http://bit.ly/katayaburu)を参照。

Nobuyuki Hayashi

aka Nobi/デザインエンジニアを育てる教育プログラムを運営するジェームス ダイソン財団理事でグッドデザイン賞審査員。世の中の風景を変えるテクノロジーとデザインを取材し、執筆や講演、コンサルティング活動を通して広げる活動家。ツイッターアカウントは@nobi。