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次世代アプリ/サービスでAIの現在を体験してみよう

次世代アプリ/サービスでAIの現在を体験してみよう

開発者へ扉が開かれた

2017年6月に開催されたWWDC(世界開発者会議)で、アップルは「コアML(Core ML)」という新しいフレームワークを発表。アプリ開発者が、機械学習機能を簡単にアプリに実装できるようにした。コアMLを使えば、機械学習の専門的な知識がなくとも、それらを活用した先進的でインテリジェントなアプリを開発できるようになる。

機械学習といっても、その機能は多岐にわたる。たとえばコアMLの「ビジョン(Vision)」では、顔検出、フェイストラッキング、テキストやバーコードの検出など、人間の目のような役割を果たすコンピュータビジョン機能に対応している。

また、コアMLにはさまざまなモデルがあり、アプリに組み込むことができる。たとえば、木や動物、食べ物、乗り物、人々など、1000のカテゴリセットから、画像に存在するオブジェクトを検出するモデル、空港のターミナルや寝室、森林など、205のカテゴリから画像のシーンを検出するモデルなどだ。それらを活用すれば、機械学習を用いた画像認識アプリが簡単に開発できる。

さらに、新機能「トゥリ・クリエイト(Turi Create)」を使うことで、自分の機械学習モデルまでも構築できるようになった。コアMLによって、開発者の前に立ちはだかっていた機械学習の扉が開かれたのだ。今後は機械学習を採り入れたアプリがますます増えるだろう。とはいえ、このような開発フレームワークは他社にも存在する。コアMLがほかと大きく異なる点は、ハードウェアとの連係が密接なことと、デバイス上だけでローカルに実行されることだ。

AppleはWWDC 2017で「Core ML」を発表。このフレームワークを使えば、開発者は専門的な知識を持たずとも、機械学習の学習モデルを扱えるようになる。

搭載アプリが少しずつ登場

アップル製品の強みといえば、ハードウェア、ソフトウェア両方の一体的な開発である。ハードとソフトを連係させることで、より安定的で高性能なパフォーマンスが実現できるのだ。コアMLでもその強みが活かされており、CPUとGPUをシームレスに活用。機械学習の能力を、効率的に最大限のパフォーマンスで発揮できるようになっている。

また、アップルはプライバシー保護の観点から、AIの学習に必要なデータは最小限の収集に留めている。コアMLでも同様に、機械学習モデルはデバイス上でローカルに実行し、ユーザのプライバシーを保護するよう努めている。機械学習ではビッグデータの活用がキーポイントとなるため、この戦略が吉と出るか、凶と出るかは現段階ではわからない。

しかし、コアMLを活用したアプリにおいては、「インターネット接続がなくとも利用できる」という1つの強みに転換できるだろう。自然言語処理を用いた旅行先で使える翻訳アプリなど、通信環境にとらわれないアプリの誕生が期待できるともいえる。コアMLだからこそ実現する先駆的なアプリによって、私たちの生活がより豊かになる未来に期待したい。

アップストアには少しずつコアMLフレームワークを活用したアプリがリリースされつつある。中にはARと組み合わせているものもあり、次世代のアプリ体験を予感させてくれる。あなたもアプリをダウンロードして、一足先に体験してみてはいかがだろうか。

Core MLはローカルでの処理に最適化されており、メモリ占有量とバッテリ消費を抑える。【URL】https://developer.apple.com/videos/play/wwdc2017/703/

WWDC 2017のCore MLセッションでは、バラの写真を機械学習モデルを使って判別する例が紹介された。名称は「バラ」、信頼度は「95%」といったように、機械学習によって画像認識する。 

 

Core ML搭載アプリを使ってみよう!

[macOS]Pixelmator Pro

【開発】 Pixelmator Team

【価格】7400円

【場所】Mac App Store>グラフィック&デザイン

「フリーの画像編集アプリでは物足りないけれど、Photoshopほどの高機能は不要」。そんなユーザからの支持を集めるのが、macOS/iOS向け画像エディタ「Pixelmator」。その強化版となるMac向けアプリ「Pixelmator Pro」では、Core MLを活用した編集編集機能が利用できる。

たとえば、修復ツールでは写真の不要なオブジェクトを素早く取り除き、その領域を自然な形で修復する。Photoshopにも同様の機能はあるが、Core MLを使うことで、以前に比べてよりスムースな作業が実現したことを開発チームが語っている。

ほかにも、追加するレイヤーにわかりやすい名前を自動的にラベル付けしたり、水平検出機能によって画像をまっすぐにしたり、簡単に正確な選択を素早く行ったりと、作業の効率化に機械学習が一役買っている。画像編集アプリで機械学習の能力を手軽に体験してみたいユーザにとって、最適なアプリの1つといえるだろう。

なお、このアプリはAppleのプログラミング言語「Swift 4」を使って開発されており、AppleのグラフィックスAPI「Metal 2」や「Core Image」などにも対応する。Macの性能を最大限に活かす工夫がなされており、まさしくMacユーザのために作られた画像編集アプリといえるだろう。

機械学習のフレームワーク「Core ML」を活用した修復ツール。手前に写る邪魔なものを、ドラッグして選択するだけで簡単に取り除くことができる。ほかにも、自動水平調整機能、人物やオブジェクトのクイック検出機能などでCore MLが利用されている。

新しい画像フォーマット「HEIF」ファイルやPhotoshopファイルをサポートし、Pixel mator Pro内のRAW画像も直接編集できる。iCloudとの同期およびバックアップ、MacBook Proのタッチバーのカスタムキーレイアウトも完全サポートしている。

[iOS]DeepVision for Core ML

【開発】Pedro Jose Pereira Vieito

【価格】120円

【場所】Mac App Store>グラフィック&デザイン

Core MLを使い、カメラに映るものを認識できるアプリ。アプリ名にも「Core ML」と入れるほど、機械学習を大々的にアピールしている。

最初にアプリを起動すると、設定画面が表示されるので、Appleのデベロッパサイトにアクセスする。そこで[Download Core ML Model]を選択し、アプリ内にモデルデータをダウンロードすればOKだ。モデルデータの「SqueezeNet」では、1000種類のオブジェクトを検出できるようになっている。

使い方はいたって簡単で、デバイスのカメラを目の前の物体に向けるだけ。機械学習によってそれが何なのかをリアルタイムで解析し、画面下にその名前と認識率をパーセンテージで表示する。

また、Core MLはデバイス内で処理を実行するため、通信環境にとらわれずアプリを使用できる。海外旅行先で何かわからないものを見つけたときに、インターネット接続していないiPhoneでも調べられるので、使い方次第では便利に利用できる。現時点では日本語未対応のため、日本語で使いたい場合は後述の「話すカメラ」をおすすめする。

なお、MacのFaceTimeカメラを使った同名のアプリ(120円)もMac App Storeで配信されている。機械学習による画像解析技術をいち早く体験できるアプリの1つだ。

アプリを起動すると、まず設定画面が表示される。その中にある[Get more models]をタップすると、Appleのデベロッパサイトに接続されるので、そこから[Download Core ML Model]を選択すると、カメラが起動する。

認識させたい物体にカメラを向けると、画面下に物体名が認識率(%)とともに表示される。身の回りのものを認識させて、AIアプリの現在を肌で触れてみよう。

[iOS]アメミル

【開発】Shimadzu Business Systems Corporation

【価格】無料

【場所】App Store>天気

「アメミル」は、降雨情報をリアルタイムで確認できる人気アプリ。バージョン7.0ではCore MLに対応し、ユーザの現在地点とその周辺に迫りくる雨を人工知能が解説する。開発元の島津ビジネスシステムズによると、2万以上の降雨パターンと、気象予報士による解説を機械学習させて、AIモデルを構築しているという。

また、iOS向けのARフレームワーク「ARKit」にも対応。「サテライトアイ」機能では、上空の衛星地図から日本全国の降雨状況を確認できる。iPhoneを動かすことで、まるで鳥の目となって天気を見るようなリアルな映像体験が可能だ。

現在はAIによる雪の解説機能も追加されており、雪のアニメーションがARで表示される。iOS 11のCore MLとARKitをフル活用した、新しい体験型の気象アプリとなっている。

[iOS]Pixave for iPad

【開発】The Smartest Image Organizer

【価格】720円

【場所】App Store>仕事効率化

「Pixave for iPad」は、iPadで大量の写真や画像をスマートに管理できるアプリ。Core MLが用いられたのは、画像へのタグ付け機能だ。機械学習によって、画像内のさまざまなオブジェクトを検出、理解し、タグを自動的に作成または追加する。ユーザ側の面倒なタグ付け操作が減り、目的の画像へより簡単にアクセスできるようになった。

また、iOS 11のドラッグ&ドロップ機能に対応し、複数のファイルを一度に読み込むことが可能。GIF、JPEG、PNG、TIFF、RAWなどさまざまなメディアフォーマットに対応するため、イメージビューワとしても便利なアプリである。なお、PixaveにはMac版もあり、iCloudでの同期が可能。MacやiPad内にある膨大な写真に、毎回タグ付けする手間を減らしたいなら、このアプリの機械学習に任せてみてはいかがだろうか。

[iOS]Komp Create

【開発】ANDREA SANGIORGIO

【価格】無料

【場所】App Store>ミュージック

外出先でふと頭の中にメロディが流れたとき、簡単にスコアを残せるiPad向けアプリが「Komp Create」だ。iPad ProとApple Pencilを使えば、紙とペンで手書きする感覚で、スコアを作成、編集できる。五線譜上に手書きした音符は、アプリが認識して自動的に音符記号に変換する。再生ボタンを押せば、すぐに演奏を確認することも可能だ。直感的に操作できるため、音楽クリエイターだけでなく、初心者でも簡単に作曲できるようになっている。

具体的にどこで機械学習が使われているかは明言されていないが、おそらく手書きから音符記号に変換するにあたっての画像認識技術を、Core MLによって活用しているものと思われる。なお、アプリを最初に起動すると、音声つきのチュートリアル動画が流れるため、外出時にはご注意を。

[iOS]犬種判別 – Dod Identify

【開発】Phairin Chailert

【価格】無料

【場所】App Store>辞書/辞典/その他

犬の種類を調べたいときに便利なのが、犬種判別アプリ「Dog Identify」だ。アプリを起動してカメラを犬に向けると、機械学習によって140種類以上の犬種の中から、該当する犬種とその精度をパーセンテージで表示する。クラウドベースではなく、Core MLのフレームワークを活用しているため、インターネット接続がなくとも犬種を調べることができる。写りがよければ写真でも判別できるため、犬の写真を見ていて犬種が気になったときに使ってみるとよいだろう。

余談だが、Microsoftも「What Dog A Microsoft Garage Project」という犬種判別アプリをApp Storeで公開しており、こちらは同社の機械学習ツール「Azure ML」が用いられている。どちらのほうが精度が高いのか、使い比べてみるのもいいかもしれない。

[iOS]話すカメラ

【開発】HOBEEC

【価格】120円

【場所】App Store>ミュージック

iPhoneやiPadのカメラに映ったものを認識し、音声で伝えるアプリ。物体の前にカメラをかざすと、それを機械学習によって判別し、音声で読み上げてくれる。画面には認識したものの名詞および、その精度がパーセンテージで自動的に表示され、カメラで毎回撮影する手間も不要。りんごのような果物から、自動販売機、公園のベンチまで、さまざまなものを自動で認識し音声にしてくれる。言葉を覚えたい子どもに使わせるなど、幅広い用途への活用が期待できそうなアプリだ。

[iOS]Camera Map Book

【開発】ANDREA SANGIORGIO

【価格】120円

【場所】App Store>写真/ビデオ

「Camera Map Book」は、その名のとおり、写真とその撮影場所を記録し、管理できる地図帳アプリ。写真の位置情報が自動取得され、現在地から写真の撮影場所までの経路や距離が調べられる。写真を機械学習で解析することによって、ハッシュタグが自動生成される機能が追加された。なお写真管理だけでなく、フィルタ機能といった画像編集や、SNSへのシェア機能もサポート。旅行先の写真など大量の画像に、位置情報とタグをつけて管理したい場合に活躍する。

[iOS]Magic Sudoku

【開発】Hatchlings, Inc.

【価格】120円

【場所】App Store>ユーティリティ

頭の体操として人気の数独パズルを、機械学習に任せて解くことができるアプリが「Magic Sudoku」だ。Appleの画像解析技術「Vision」を使用してパズルを読み込み、Core MLフレームワークによる機械学習で解く。さらに、ARKitを活用し、解答をパズルにオーバーレイ表示する仕組みだ。すべてiOSデバイス上に答えが表示されるため、数独本来の学習法には沿わないが、技術としてはARと機械学習を組み合わせた未来感のある仕上がりだ。

人工知能がYouTuberになった!?

身近な存在として受け入れられるAI

Core MLを活用したアプリ以外にも、さまざまな分野でAIや機械学習は使われている。その中でもしばしば話になるのが、「AI」と「かわいい女の子」の組み合わせだ。特にMicrosoftの女子高生AI「りんな」は、女子高生のような会話をしてくれるチャットボットで一躍有名となった。LINE公式アカウントは640万人以上が友達登録するほどだ。

そんな絶大な人気を誇るりんなに続く「女の子」が、AIによるバーチャルYouTuber「キズナアイ」だ。トークが高度なため、実際は“中の人”がいると思われるが、自称「インテリジェントなスーパーAI」の彼女は2017年末ごろからSNSを中心に話題となり、人気を集めている。

キズナアイは現在YouTubeチャンネル「A.I.Channel」および「A.I.Games」を運用しており、チャンネルの合計登録者数は200万人以上。人気は日本を越えて世界に広がっており、今では動画がアップロードされるやいなや、外国語字幕がつけられ、世界中からコメントが寄せられるほどだ。

テクノロジーはしばしば、理解度の低さゆえ恐れられる存在となる。しかし「かわいい女の子」のような身近な存在として見せることで、その技術が受け入れられることもある。人工知能の将来は、りんなやキズナアイのような存在が重要な役割を担うのかもしれない。

Microsoftの女子高生AI「りんな」は、2017年8月に2周年を迎えた。Twitterのフォロワーは14万人を突破し、現在は「りんなライブ」というライブ配信も行うなど、その活動の幅を広げている。

AIによるバーチャルYouTuber「キズナアイ」。動画ではりんなとガールズトークしたり、Siriを「先輩」と呼んだりすることも。近い将来、本当にAIを搭載し、自然言語処理を使って自然に話すバーチャルYouTuberが現れるかもしれない。