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シェアNo.1のSansanが見据えるビジネスの未来

著者: 山田井ユウキ

シェアNo.1のSansanが見据えるビジネスの未来

「それ、早く言ってよ~」のTVCMでもおなじみ、名刺管理サービスのSansan株式会社。法人向けに「Sansan」、個人向けに「Eight」を提供しており、名刺管理にイノベーションをもたらした。そんな同社が見据える未来は、意外にも「名刺がいらなくなる世界」だという。

名刺をビジネスにして10年

「それ、早く言ってよ~」と俳優の松重豊さんがユーモラスにぼやくテレビCMをご覧になった方も多いだろう。クラウド名刺管理ソリューション「Sansan」と「Eight」を提供するSansan株式会社が業界の内外から注目を集めている。前者は法人向け、後者は個人向けのサービスで、いずれも名刺をデジタル化し、クラウドで管理するというものだ。なぜSansanは名刺管理に着目したのだろうか。また、今後の名刺のあり方がどうなっていくと考えているのだろうか。それを紐解くためには、Sansanのこれまでの歩みを知る必要がある。

Sansan株式会社は2007年創業、クラウド名刺管理サービス「Sansan」と、個人向け名刺アプリ「Eight」を提供している。名刺管理のパイオニア企業であり、Sansanは業界シェア約80%、導入企業は6000社を超える。また、個人向けのEightは200万ユーザに利用されている。

Sansanの創業は2007年。同年に名刺管理サービス「リンクナレッジ(Link Knowledge)」をリリースし、2012年には個人向け名刺管理アプリとして「Eight」をリリースしている。その後の翌2013年にリンクナレッジは「Sansan」という名称に変更。しかし、基本的な機能と思想は創業当初から常に一貫している。

それは名刺をデジタル化し、クラウドで管理することにより、「働き方を革新する」こと。その背景には、日本の名刺文化が持つ課題があったとSansan株式会社・ブランドコミュニケーション部広報担当の小池亮介さんは語る。

「せっかく名刺交換しても、その名刺は分厚いファイルに入れられたまま忘れ去られていないでしょうか。自分が持っていながら忘れていた名刺が、実は新たなイノベーションを生む人脈だったかもしれません」

名刺を管理できていないためにビジネスチャンスを失っているかもしれない─そんな課題に対するソリューションとして同社が出した答えが、名刺のデジタル化、そしてクラウドによる管理だった。

Sansan株式会社・ブランドコミュニケーション部広報担当の小池亮介さんは「目指しているのは名刺がいらなくなる世界」と話してくれた。

名刺入力は逆転の発想で

名刺をデジタルで管理するといっても、ただスキャナで取り込めばいいというわけではない。画像のままフォルダに突っ込むだけではあとから探すのも一苦労。結局、ファイルに挟んでいるのと変わらないのだ。デジタルで管理するからには、名刺の情報を検索などで簡単に探せるようにしておく必要がある。

しかし、日本のビジネスパーソンが交換する名刺の数は膨大な量であり、これまでに溜まった名刺もデジタル化すると考えると、何百枚何千枚という枚数になるだろう。これらの情報を一枚一枚、手入力するのはとても現実的ではない。

そこで、多くの名刺管理サービスではデジタル化した名刺の画像を文字認識(OCR)を使って読み取ることで、社名や氏名、肩書き、電話番号といった情報を自動で入力するやり方を採用している。Sansanもこの技術を用いて名刺の情報を読み取る。

ただ、文字認識には精度面で課題がある。シンプルな名刺なら比較的正確に読み取れるが、デザインが凝った名刺になると途端に認識率が下がり、結局後から手動で修正しなければならない。

多くの名刺管理サービスを苦しめていたこの課題を、Sansanは逆転の発想で解決した。すなわち、「手動での入力をオペレーターが行う」というやり方だ。

SansanおよびEightでは、名刺をSansanのサーバにアップロード後、情報を自動で認識。個人情報とならないレベルまでバラバラに分解する。その後、同社が採用する専門のオペレーターによって手動で正しい情報が入力される。

Sansanが名刺管理の世界にもたらした革新は単に「検索しやすい」というだけではない。Eightのユーザ同士であればSNSのようにつながることができ、相手の所属部署などが変われば自分が登録した名刺の情報も自動的に書き換わる。これにより、「名刺の情報が古くなって使えない」ということがなくなるのだ。

また、Sansanでは同じ会社の社員同士であれば、登録した名刺をお互いに参照し合うことができる。これまで個人が所有することが当たり前だった名刺という資産を、会社組織全体で活用できる世界がやってきたのだ。さらに自社や取引先に関するニュースが流れてくるフィードやSansan上で連絡がとれるメッセージ機能なども追加され、今やSansanは名刺管理サービスというよりも、名刺という情報資産を活かすためのビジネスプラットフォームとなりつつあるといえる。

法人向けクラウド名刺管理サービス

法人向けクラウド名刺管理サービス。2007年に「Link Knowledge」としてリリースし、2013年に「Sansan」へ名称変更。名刺をスキャンしてアップロードすると、自動認識とオペレーターの人力入力により名刺情報が100%の精度で登録される。登録した名刺情報をもとに、取引先や自社のニュースが流れてくるフィード機能や、相手が部署異動などした際に名刺情報が更新される機能なども搭載。さらに登録した名刺は社内で共有できるため、自分がこれからアプローチしたい相手と名刺交換した社員を探して紹介をお願いすることも可能だ。

管理機能

社員がいつ誰と名刺交換したのかという情報を社内で共有することができる。メモを残すことで名刺に書かれていない情報も共有することができ、ビジネスでのアプローチに役立つことだろう。

メール一括配信機能

登録された名刺のメールアドレスに一括でメールを配信することができる。氏名などの誤字がないことはもちろん、名刺情報は常に最新のものに更新されていくため、役職名などが古くなる心配もない。

個人向け名刺アプリ

個人向け名刺アプリ。2012年よりiOS、Android端末向けアプリケーションとして提供開始された。個人向けなので社内での共有機能などは省かれているが、ビジネスSNSとしての側面も持っており、ユーザ同士であればEightでつながることができる。名刺の登録方法はiPhoneで名刺を撮影するか、スキャナでスキャンすること(Sansanも同様)。これもSansanと同じく、アップロードされた名刺は各情報が分解された状態でオペレーターへと届くため、社名や肩書き、氏名などが紐付かず個人情報の観点からも安心して使うことができる。

メッセージ・スタンプ機能

名刺交換した相手もEightを使っている場合、Eight上でSNSのようにつながることができる。メッセージはもちろん、スタンプ機能を使えばよりカジュアルなコミュニケーションが可能だ。

電話帳連携機能

Eightに取り込んだ名刺の情報を、iPhoneの連絡先アプリに自動で登録できる機能。いちいち登録する手間もなくなり、名刺交換した相手に連絡帳アプリから直接電話ができる。

名刺の未来の姿

そんなSansanが見据える名刺の将来とはどんなものなのだろうか。この問いに小池さんは「目指しているのは名刺がいらなくなる世界です」と答える。名刺でビジネスをしているのに?と、少々意外に思えるが、よく考えるとたしかにSansanが目指す世界に名刺は必要ないのだ。大事なのは交流した相手の情報をしっかりと活用し、ビジネスチャンスを逃さないこと。名刺のデジタル化は、あくまでも起点にすぎない。たとえば最初からSansanでつながれるのであれば、名刺交換はもはや不要といえる。実際、欧米などのビジネスシーンではそうしたビジネスSNSが中心で、名刺交換という作業はなくなりつつあるといえる。

「とはいえ、日本では名刺交換はビジネスにしっかりと根付いた“文化”ですから、すぐにはなくならないでしょう」

小池さんが言うように、名刺を交換してからデジタル化してクラウドで管理するというやり方が、今の日本にはまだ合っていると思われる。しかし、今後さらに人脈情報のクラウド管理が進めば、名刺交換という“儀式”が過去のものになる時代がやってくるのかもしれない。