USB 3.0 Promoter Groupは今年7月25日、USBの最新規格となるUSB3.2を発表した。従来のUSB3.1の2倍の最大20Gbpsに対応するのが特徴で、その条件としてUSB Type-C(USB-C)コネクタおよび同ケーブルの使用が前提となる。
USB-Cを前提とした高速化
USB3.2では最新のUSB Type-C(USB-C)コネクタおよび同ケーブルを用いて、USB3.2対応機器同士の接続において従来の2倍となる最大20Gbpsのデータ転送速度を実現する。USB-CコネクタおよびUSB-Cケーブルが(リバーシブルな接続をサポートするために)高速伝送レーンを2系統有していることを利用し、2レーンのUSB3.1 Gen.2(最大10Gbps)を束ねて扱うことで最大20Gbpsの伝送を可能とする。
同様のアプローチはかつてサンダーボルト2(Thunderbolt 2)で採用されていた。もともとサンダーボルトはミニディスプレイポート(Mini DisplayPort)をそのコネクタに利用した高速インターフェイスだが、ディスプレイポートを構成する4レーンの伝送路(ディスプレイ用のため全て単方向伝送)を送受信独立(双方向伝送)の2レーン構成として利用し、最大10Gbps×2レーンのインターフェイスを実現していた。サンダーボルト2ではこの2レーンのサンダーボルトを束ねて1レーンの20Gbpsインターフェイスとして使えるようにアップデートしたものだ。伝送路そのものを高速化する従来のアプローチではなく、すでにあるものを複数束ねてその数だけ高速化するという点で共通のアプローチと言えるだろう。
USB-Cに実装された2系統のレーンをすべて活用しようというアイデアは、実はUSB3.2が初めてではない。もともとUSB-Cには「オルタネートモード(Alternate Mode)」と呼ばれる機能があり、USB-Cの信号レーンの一部あるいはすべてを他のインターフェイスをサポートするために利用することが認められている。
たとえば2015年に初めてUSB-Cを搭載して登場したMacBookでは、1つしかないUSB-Cポートには3つの機能が割り当てられていた。1つはUSB PDに対応した電源ポートとしての機能、USB3.1 Gen.1(最大5Gbps)ポートとしての機能、そして「ディスプレイポート・オルタネートモード(DisplayPort Alternate Mode)」と呼ばれるディスプレイポートインターフェイスとしての機能だ。この機能のおかげでMacBookはUSB-Cポートに4Kディスプレイを接続して使用することが可能となっている。なお、オルタネートモードには現在ディスプレイポート以外にも、MHL(Mobile High-definition Link)、HDMI(High-Definition Multimedia Interface)などの各ディスプレイインターフェイスが追加されているほか、MacBookプロやiMacに搭載されたサンダーボルト3もUSB-C上のオルタネートモードで動作するインターフェイスの1つだ。
USB-C(USB Type-C)は現在、2 in 1や軽量モバイルパソコンを中心に、その普及が急速に進みつつある。その規格は最大5GbpsのUSB3.1 Gen.1、最大10GbpsのUSB3.1 Gen.2に加えて、最新のUSB3.2ではGen.2を2本束ねて最大20Gbpsを実現する見込みだ。【URL】http://www.usb.org/
USB3.2はUSB3.1 Gen.2の10Gbps伝送ラインを2系統束ねることで最大20Gbpsを実現する。一方、Thunderbolt 3は専用ケーブルを使えば最大40Gbps、Thunderbolt認定のUSB3.1ケーブルを使っても最大20Gbpsを実現できる。速度面でのUSB3.2の優位性は低いといえる。
USB Alternate Modeの代表例としては、2015年リリースのMacBookでも採用されているDisplayPort Alternate Modeがある。この機能のおかげでMacBookでは専用のポートを設けることなく、USB-C接続のみで4Kディスプレイをサポートすることができる。【URL】http://www.lg.com/us/monitors/lg-22MD4KA-B-4k-uhd-led-monitor
サンダーボルト規格との競合
では果たしてUSB3.2は今後USBインターフェイスの主流となるのだろうか。それを判断するのは現時点ではまだ難しいが、少なくとも過去のUSB規格とは異なり、険しい道のりが待っていることは間違いないだろう。USB-Cを採用する高速インターフェイスとしては、すでにインテルとアップルが共同開発したサンダーボルト3規格が実用化されているためだ。さらにサンダーボルト3は対応ケーブルを使えば最大40Gbpsとより高速で、USBインターフェイスでは実現できないPCIエクスプレスエクステンダとしての機能も併せ持ち、高速性と汎用性を兼ね備えた特徴を持つ。少なくともスペック面でUSB3.2に勝ち目はない、と言えるだろう。
では、コスト面はどうだろうか。USB3.2が従来のUSB3.1に置き換わるには、その実装コストが従来のUSB3.1と同等か、それに近い必要がある。USB3.2に対応するためにはまずパソコン側に採用されるホストコントローラが必要不可欠だが、従来のUSB3.1とは扱うレーン数が異なる点や上位インターフェイス(PCIe)の高速化も必要となる(いずれも信号ピン数が増える)ことから、コントローラチップの新規開発が必要になることは間違いない。USB2.0や同3.0がそうであったように、インターフェイスが普及するかどうかのターニングポイントは、ホストコントローラがチップセットあるいはプロセッサに統合されるかどうかに掛かっていると言っても過言ではない。なぜならUSB3.2のホストコントローラがチップセットやプロセッサに統合されれば、放っておいてもそれを搭載するパソコンは(追加部品の必要なく)USB3.2対応になるからだ。USB3.2に対応するための追加コストがほとんど不要になれば、新規格はUSB3.1を淘汰してごく自然に普及する。USB 3.0プロモーターグループはそう考えているに違いない。
険しいUSB3.2普及への道
だが現実はそれと逆行する流れを見せている。MacやウィンドウズPCのプロセッサを提供するインテル社は今年5月、「サンダーボルト 3 =The USB-C that does it all」のコンセプトのもと、次期プロセッサにサンダーボルト3コントローラ機能を統合すると発表した(キャノンレイク=Cannon Lake向けのZ390が最初のサンダーボルト 3統合チップセットになると思われる)。さらに来年にはサンダーボルト3の仕様をロイヤリティーフリーで公開し、他社も対応チップを開発できるようにする、としている。サードパーティー製のサンダーボルト3対応チップが増えれば、周辺機器や専用ケーブルの低価格化が期待できる。アップルやマイクロソフトもこれに賛同しており、今後サンダーボルト3デバイスのサポートを強化していくことを表明している。USB3.2をスペックで上回るサンダーボルト3がプロセッサに統合されその実装コストが低くなれば、USB3.2自体の存在意義が問われかねない状況になるのは想像に容易い。
ただし、将来的にサンダーボルト3自体がUSB3.2をサポートする可能性は残されている。現時点ではサンダーボルト3コントローラチップ「アルパインリッジ(Alpine Ridge)」の統合するUSBホストコントローラはUSB3.1Gen.2対応だが、もともと2レーン両方を使い上位インターフェイスも広いサンダーボルト3コントローラにとって、将来のアップデートでUSB3.2に対応すること自体はさほど困難ではないだろう。USB3.2が本格的に普及するかどうかは、USBハブや周辺機器がUSB3.2に対応するかどうかにも掛かっている。だが一方で、USB3.2対応機器の普及よりもサンダーボルト 3対応機器の普及が先行すれば、USB3.2は実用化されない幻の規格となる可能性も否定できない。そういった意味では、USB3.2の行く末はインテルの今後の戦略に掛かっていると言っても過言ではない。
USB-Cはリバーシブル接続を実現するために2系統の高速伝送レーンを備えており、USB-Cポート同士の接続時のみ2系統を同時に使った伝送が可能となる。その2系統の両方を使うのが今回のUSB 3.2の特徴だ。同じアプローチはUSB Alternate Modeでも使用されている。
2016年9月に発表されたHDMI Alternate Modeでは、ついにHDMIもUSB-Cコネクタ経由で出力できるようになった。この機能を使ってテレビや外部ディスプレイにHDMI接続できるスマートフォンやタブレットも登場している。【URL】 http://www.hdmi.org/manufacturer/hdmialtmodeusbtypec.aspx
インテルのThunderbolt 3に対する本気度が垣間見えるインフォメーション。40Gbpsの高速伝送、フルスペックのUSB3.1、DisplayPortに加えてPCI Expressの伝送機能も備え、高速性および汎用性のいずれでも頂点に立つインターフェイスだと訴える。【URL】https://thunderbolttechnology.net/thunderbolt-3-infographic