ビッグデータはどう活用できる? 改正された法律をチェック
─今回のテーマは「ビッグデータ」です。ここ数年、さまざまな業界でその活用が取り沙汰されていますね。ビッグデータとはそもそも何なのか、活用することでどんなビジネスが生まれるのか教えてください。
徳本●たしかに最近、よく聞くようになったよね。昔から企業でのデータの活用自体は、当たり前に行われていたことなんだけど。
中野●そうですね。僕のところにもビッグデータに関する相談がよく来るようになりましたよ。
徳本●へえ。それは面白いね。まずはビッグデータとは何かってことから話しておこうか。
中野●ええ。ビッグデータと一言でいっても定義がふわっとしていて、具体的に思い浮かばないかもしれません。
徳本●そのまま読んで字のごとく、「大量のデータ」ではあるんだけど、それだけじゃないんだよね。総務省の定義では、「ICTの進展で生成・収集・蓄積等ができるようになった多種多量のデータ」とされているようだよ。
中野●つまり、データの種類については限定的ではないということですね。
徳本●そうだね。自社で持っている顧客の購買データもビッグデータだろうし、WEBサイトに蓄積されたアクセスのデータもそう。あるいはパブリックであるソーシャルメディアのデータだって、収集して分析すれば立派なビッグデータだ。
中野●最近流行なのはセンサデータですね。位置情報センサや温度センサなど、さまざまなセンサから得られたデータを集めて分析する企業が増えています。
徳本●そう考えると、ビッグデータ活用は業界を問わないよね。なぜ近年になって急に流行り始めたんだろう?
中野●先ほどの総務省の定義にもあったように、「ICTの進展」が一番の理由でしょうね。データ収集のためのセンサ類は、それなくして誕生しえなかったでしょうから。収集だけでなくデータ分析についても、ICTは活かされていますよね。昔は人の手でやっていたものですが、今はコンピュータで処理できるので、大量のデータも瞬時に分析できます。
徳本●うん。あらゆるものが分析されて当たり前の時代がやってきたということだね。ところで、中野くんのところに来るビッグデータがらみの法律相談ってどういうものなの?
中野●個人情報に関する相談が多いですね。
徳本●そうか、ビッグデータといってもその中身の多くは個人情報だから…。
中野●ええ。集めたデータを別の企業に売ったり、別の企業から買ったデータと掛け合わせて分析するということは今も普通に行われていることですが、もちろんそのままでは個人情報の漏えいになるので、データを加工しなければなりません。
徳本●加工って?
中野●個人を特定できなければいいので、たとえば「東京都在住の30代の男性は平日ランチにそばを食べる」というところだけを残して、住所や氏名は削除するわけです。これを“匿名加工情報”といいます。こうすると個人を特定できない属性のデータになるので、ほかの企業など第三者へ提供しても個人情報漏えいにはならないのです。
徳本●なるほど。でも、どこまで消せば個人を特定できないかという基準はあるの?
中野●実は今まで、そこが曖昧だったのです。各企業の裁量に任されていたので、「だいたいこれくらい消しておけばいいだろう」という感じで基準があやふやでした。しかし、個人情報に厳しいヨーロッパから指摘されたこともあって、日本でもきちんとその線引をしようという話になり、法律が改正されたのです(注:施行は2017年5月30日より)。
徳本●どんなふうに変わったの?
中野●いくつかありますが、たとえば「個人情報と個別に関連付けられるID等の識別子は削除すること」や「分析対象のデータに一定の誤差(ノイズ)を付加すること」など、かなり具体的にガイドラインが定められました。さらに、「個人に関する情報の項目を公表する」という義務も規定されました。要するに、「どの項目を削除したのかを、ちゃんと公開しなさい」ということです。
徳本●しっかりしたガイドラインだね。逆にいえば、これを守ればいいわけだから、匿名加工情報のデータ活用はさらに進みそうだね。
中野●そうですね。政府もビッグデータの活用を推進して、産業が活性化することを狙っているようです。
徳本●ビッグデータを活用することで、どんなビジネスが生まれるだろう。少なくとも広告の世界はすでに大きく変わりつつあるね。
中野●広告はどんどんパーソナライズドされた方向に進んでいますが、それがさらに加速するということですかね。
徳本●うん、すでにアマゾンなんかはフェイスブックとインスタグラムのユーザ属性が違うことをデータ分析で把握していて、それぞれに別の広告を出している。フェイスブックならおじさん向け、インスタグラムなら若者向けというふうにね。今後はもっとユーザ一人一人にパーソナライズドされた広告になっていくだろうね。
中野●広告だけでなく、ユーザの傾向がより正確に把握できるようになれば、新しいビジネスチャンスが生まれそうですね。もちろん、個人情報の漏えいにならないよう、新しい法律についてしっかり学んでおきたいですね。
ビッグデータの活用事例
●事例1:城崎温泉
兵庫県北部の城崎温泉では、もともと外湯をめぐる際、行きたい外湯の枚数分、外湯券を持ち出す必要があった。これをバーコード付きの入浴券1枚(おサイフケータイまたはICカードでの利用も可能)で代替できるサービス「ゆめぱ」を導入。外湯券をデジタル化することでユーザの外湯の利用データが蓄積され、外湯の人気度合いや観光客の多い曜日や時間帯、観光客の年令や性別など細かいデータが取得できるようになった。このデータを温泉運営やサービスに活かすことで、さらなる顧客満足度の向上などにつなげている。
【URL】http://www.kinosaki-spa.gr.jp/yumepa/
●事例2:あきんどスシロー
大手回転寿司チェーンを展開するあきんどスシローは、すべての皿にICチップを取り付け、レーン上に設置したセンサで読み取ることで、流れている皿の数やどの皿がどれだけ食べられているかといったデータを収集。単にICチップをつけるだけではネタの種類まで把握できないため、レーンに流す際、サンプル札(寿司の写真を載せた皿)をセンサで読み取ることで、「サンプル札とサンプル札の間のネタ」を把握できるようにしているという。こうしたデータは、ネタの鮮度管理や注文管理などに役立っているほか、人気商品の把握やフェアの企画などにも活かされている。
【URL】https://www.akindo-sushiro.co.jp
●事例3:ローソン
ローソンが扱うPontaカードは、ユーザにとっては数あるポイントカードの1つだが、ローソンにとってはユーザの購買行動を把握できる重要な情報源だ。Pontaから収集されたデータは、ローソンの新商品の開発や仕入れに役立っている。たとえば、販売数だけ見るとあまり売れていない商品でも、実は買っている人が毎回同じであれば、それはリピーターを店に呼べる重要な商品ということになるわけだ。変化のスピードが速いコンビニ業界は、こうしたビッグデータ活用の重要性が特に高いビジネスといえる。
[みらいチャレンジ] 長年の広告会社勤務でマーケティング畑を歩んできた徳本昌大氏と、IT企業に特化した弁護士・中野秀俊氏が2016年4月に設立。企業経営にまつわるさまざまな課題をノンストップで解決し、「みらい」に「チャレンジ」する起業家・経営者を増やすのが同社のミッションだ。