手にしてわかる最高品質
11月16日、アップルから突如発表された“新製品”『Designed by Apple in California』は、同社の過去20年間のプロダクトデザインを450枚の写真で記録した写真集だ。同様のコンセプトを持つ書籍は過去にも数社から刊行されているが、本書はアップルのCDO(最高デザイン責任者)ジョナサン・アイブ氏など関係者が中心となって企画したもの。アップル自身が出版した初の「公式写真集」であるという点で、注目すべき書籍だろう。
内容は1998年にリリースされた初代のiMacから始まり、iPodやPower Mac、iBookシリーズといった懐かしのモデルから、iPhoneやiPad、アップルウォッチ、アップルペンシルといった最新のモデルまで、さまざまな世代の製品群が収録されている。
撮影はアンドリュー・ザッカーマン氏。OS Xのアイコンにあったネコ科の動物写真の撮影でも知られており、アップルと縁の深い写真家だ。氏による極限まで無駄を削ぎ落としたスタイルの写真は、製品の完成形を撮影したもののみならず、その内部や素材が実際の筐体へと仕上がっていくプロセスにも及ぶ。デザインの意図から最終形に至るまで、アップルのデザインチームが辿ってきた旅路を知ることができる構成になっているのだ。
内容的にも素晴らしい1冊だが、なぜあえて紙の本なのかという疑問の声もあるかもしれない。アップル自身、電子書籍を推進する立場にあるリーディングカンパニーの1つであり、本書をiBooksストア経由で販売すれば、話題にもなり多くの人たちに安価に提供することも可能だっただろう。しかしそんな疑問も、本書を実際に手に取り、目にしてみれば、たちどころに吹き飛んでしまうはずだ。高さ約40センチ、見開きで60センチを超える大判サイズは、視界いっぱいに鮮明なビジュアルが飛び込んでくる体験を提供してくれる。また、触れてみるほどに桁違いに手のかかった装丁にも驚かされる。
この「紙」という“ハードウェア”こそ、20年という歴史を体験するために必要なフォーマットであり、所有することを裏切らない満足感のある仕上がりを実現している。購入を迷っているのであれば、完売する前に踏み切っておくことを強くおすすめしたい。本誌読者であれば、マストバイに挙げられる逸品だ。
本書は幅33センチ高さ41.3センチの大判と、幅26センチ高さ32.4センチの中判の2サイズで提供される。その重厚な製本クオリティは、写真集というよりも海外の美術書が持つテイストに近い仕上がりになっている。ここにも、ハードウェアの材質には強いこだわりを持つアップルのセンスが垣間見える。日本で販売されているものには、アイブ氏による序文の日本語訳と製品解説が記載された折り込み冊子が付属する。
本書のこだわり
被写体
被写体になるのは完成した製品だけではない。モジュール単位であったり、筐体内部、素材を加工する過程といったものも撮影されている。そのどれもが美しく、またストーリーを感じさせるものばかりだ。
色
精緻さを再現するために、印刷にも工夫がある。280線のスクリーン印刷による高精細化はもちろん、8色(CMYK+特色4色)印刷で出力することにより、鮮明で立体感が強く感じられる仕上がりに。
紙
重厚感の要ともいえる全300ページに使用された紙も、非常に厚みがあり耐久性の高いものが採用されている。縁にはマットシルバーによるコーティングがされており、閉じた状態で置いたときにもその光沢が美しい。
カバー
リネン(亜麻糸)で加工されたハードカバーも、このクオリティを出すために8年以上の制作期間をかけたというものを採用。エンボスで加工された表紙のアップルロゴや背の題字の質感は見飽きないほど。