まったく新しいソフト
デジタルにおけるムービーの進化は、ビデオコーデックを抜きに語ることはできません。フレーム数(1秒を何枚の静止画で構成するか)や画像解像度といった画質の決め手になる要素が高くなるほどデータが乗数的に大きくなるビデオファイルは、普段はサイズを小さくするためにエンコード(圧縮)しておきながら、再生時にはオリジナルに近い美しさでリアルタイムにデコード(復号)する必要があります。
このためコンピュータ黎明期からさまざまなアルゴリズムが生み出され、効率の良い方法が「コーデック」として提供されてきました。2002年にリリースされたクイックタイム6で採用されたMPEG-4、そしてクイックタイム7からはH・264(MPEG-4 AVC)が登場すると、徐々にこれらのコーデックが業界全体の標準規格とされてきました。
iOSでは当初からMPEG-4シリーズのみサポートしていた背景から、Mac版のクイックタイムもその設計が見直されました。初期バージョンは今から25年前に作られたもので、増改築を繰り返して来たままでは最新のハードウェアの性能を活かせなくなりつつあったのです。現在のmacOSシエラで使われているクイックタイムは名前こそ同じものの、まったく新しい世代のソフトウェアに生まれ変わっています。
【検証1】現役のコーデックをチェック
macOSシエラに付属する世代の「クイックタイムプレーヤ」は、現在ではあまり使われていないコーデックをサポートしないことで軽量で高速な動作を実現しています。現在の主流はMPEG-4とH・264で、クイックタイムが読み出しと書き出して推奨されているこのコーデックを持つムービーは、ダブルクリックするだけで問題なく開くことができます。一般的な用途では不自由はないと考えてよいでしょう。
また、クイックタイム・プレーヤはビデオ編集ソフトとして人気も高く、長年開発を続けている「iMovie」を支えるフレームワークとしての役割を持っています。このため市販のデジタルカメラが利用しているモーションJPEGやフォトJPEGといったH・264以外のものや、デジタルビデオカメラで使われているDVCPROやHDVといったものから、MPEG-2、XDCAMなどまで、ムービー素材の読み込みや編集に必要なコーデックもサポートされています。
更新の早いIT分野において、10年以上安定した人気を誇るH.264。オンラインも含め標準規格となり、普段私たちが目にするムービーのほとんどにこのコーデックが使われています。
ビデオカメラで撮影したデータの取り込みや編集、再生といった仕事もクイックタイムが持つ大切な役割の1つです。このため家庭用・業務用ともにさまざまなコーデックが残されています。
【検証2】旧来のコーデックを利用してみる
MPEG-4シリーズが主流になる以前は、クイックタイムでもさまざまなコーデックが再生に用いられました。たとえばソレンソンメディア社の「Sorenson Video 3」コーデックは2000年ごろまでは高いシェアを誇り、当時はこの形式でエンコードされたムービーが多く残されています。
macOSシエラのクイックタイムは、こういった旧世代ムービーも再生サポートする機能を備えています。ファイルをダブルクリックして起動すると、クイックタイムがコーデックを読み取って最適な形にデータを変換してくれます。出来上がったデータは、現在のクイックタイムで読み込めるファイルとして保存してくれます。
また、DVCPRO HDやMPEG-MXといった業務用のビデオカメラで使われたコーデックは、ファイナルカット・プロなどのアップルのプロ向けビデオ編集ソフトをインストールすると提供される「ProApps QuickTime コーデック」をインストールすることで再生できるようになります。
2000年頃までムービー再生に頻繁に使われていた「Sorenson Video 3」コーデック。これをmacOS シエラのクイックタイムで開くと、自動的に変換が始まります。
今回検証したムービーは、変換後のコーデックをチェックするとH.264になっていました。画質を比較しても元のファイルとの劣化は「ほぼない」といっても差し支えない良好な結果が得られました。
【検証3】QuickTime 7をインストールしてみる
以前のクイックタイムは幅広いコーデックの読み込みサポートだけでなく、豊富な書き出しオプションや字幕トラックの作成など、現在のクイックタイムにはない特徴を持ち合わせていました。実は、macOSシエラでこれらの機能を使う方法がまだ残されているのです。アップルの公式サイトでは10・6以降のOS向けのクイックタイム7の配布が継続されており、これをインストールすると古いファイルを変換せずに再生できます。ほかにも、過去にクイックタイムプロのライセンスキーを購入して持っている場合には、これを使ってオーサリング機能を利用することも可能です。
またクイックタイム7をインストールするとフラッシュビデオ(.flv)といったクイックタイムが本来サポートしていないコーデックを再生支援する「Perian」や、ウィンドウズメディア(.wmv)をクイックタイムで再生できるようにする「Flip4Mac」といったサードパーティ製のツールを組み込んで利用できます。
アップルの公式サイトからクイックタイム7をダウンロードしてmacOSシエラへインストール。起動して確認したところ問題なく動作しました。もちろんプロ機能も正常に利用できます。
PerianやFlip4macなど、新しいクイックタイムでは利用できないといわれているツールもクイックタイム7をインストールしておくと、そのままプラグインとして動作することがわかりました。
クイックタイム・プレーヤで再生できる
コーデック一覧
●無変換で再生できたもの
モーションJPEG、OpenDML(.avi)、MPEG-1(.mpg)、MPEG-2
(.mpg)、MPEG-4(.mp4/.mov)、H.264(.mp4/.mov)、DV/DVCPRO(.mov)、フォトJPEG(.mov)、TGA(.mov)、非圧縮 8bit(.mov)、非圧縮 10bit(.mov)、なし(.mov)、XDCAM(.mov)、HDV(.mov)、Apple ProRes
●変換で再生できたもの
Sorenson Video 3(.mov)、Sorenson Video(.mov)、Apple Intermediate Codec(.mov)、Apple Pixlet Video(.mov)、FLCアニメーション(.flc)、シネパック(.avi/.mov)、アニメーション(.mov)、MotionJPEG-A(.mov)、MotionJPEG-B(.mov)、JPEG2000(.mov)、H.261(.mov)、H.263(.mov)、ビデオ(.mov)、Planar RGB(.mov)、ビデオ(.mov)、コンポーネントビデオ(.mov)、BMP(.mov)、TIFF(.mov)、グラフィックス(.mov)
●コーデックが必要なもの
DVCPRO HD(.mov)、MPEG IMX(.mov)、Apple Inter mediate Codec(.mov) ※コーデックを追加すると変換不要に
●クイックタイム7をインストールして再生可能だったもの
QTVR(.mov)、FLV(.flv)+Perianが必要、QT7が入っていればQTXでも変換して再生が始まる、Windows Media(.wmv)+flip4macが必要