近未来的すぎる見た目
15万円のiPhoneケース「スクエア(SQUAIR)」でユーザの度肝を抜いた株式会社SQUAIRが、ついにアップルウォッチのケースを発売した。その名も「ザ・ウォッチ(The Watch)」。価格は実に30万円である。「高い」と思ったのであれば、それは本製品を単なる保護ケースとして見ているからだろう。しかし、これは単なるケースではない。アップルウォッチを本当の意味での「時計」へと進化させるプロダクトなのだ。
「時計愛好家が口をそろえて言うのは、アップルウォッチの形に対する不満なんです」
同社でCEOを務める後藤鉄兵氏は、もともとアパレル業界で活躍していた人間だ。それゆえに彼は「時計愛好家から見たアップルウォッチ」の印象を知り尽くしている。
「高級腕時計は100年以上に及ぶ文脈を受け継いで今の形になっています。腕時計愛好家たちからすれば、アップルウォッチの形は近未来すぎて時計として見れないのです」
アップルウォッチが時計になれないのなら、その原因を取り除けばいい。そのためにはケースの力でアップルウォッチを腕時計の文脈にのせる必要がある。後藤氏の号令で一大プロジェクトが動き始めた。
ガジェットから高級腕時計へ
アップルウォッチが時計らしくない理由は何なのか。SQUAIRメンバーは何度も検討を重ね、1つの結論を出した。それは「ラグ」である。ラグとは腕時計の本体とベルトをつなぐ部分につき出した左右の“爪”のことだ。腕時計の形はさまざまだが、基本的にラグはすべての製品に付いている。アップルウォッチはベルトと本体の構造上、このラグがない。そのことが腕時計として見たときの違和感につながっているのだとSQUAIRは判断した。
「ラグを作るためにはアップルウォッチを上下から覆う必要がありました。しかし、もともとアップルウォッチのヘッドはかなり大きいので、そこにケースをかぶせるとさらに大きくなってしまう。ケースで覆いながらいかに大きく見えないようにするかを試行錯誤しました」
その結果、絶妙な角度の流線を重ねたデザインが誕生した。実物を見たならば、もとのアップルウォッチとさほど変わらない大きさに収まっていることに驚かされるだろう。
次に取り組んだのは「ベルト」だ。高級腕時計として販売する以上、ベルトは避けては通れない大事な要素である。しかし、腕時計のベルトのノウハウを持たないSQUAIRとしてはパートナー企業を探す必要があった。最高の腕時計を作るためには、最高のベルトでなければならない。そんな思いで後藤氏が白羽の矢を立てたのが、世界有数のハンドメイドレザーブランド「ジャン・ルソー」た。
「ジャン・ルソーは世界中の高級腕時計の革ベルトを作っている2大メーカーの1つです。アップルウォッチを最高の腕時計にするために、ベルトを作るならジャン・ルソーしかありませんでした」
ジャン・ルソーからすれば、発注元はこれまでまったく付き合いのなかった日本企業、しかも出荷台数も見込めない未知のプロジェクトである。無謀とも思われたプレゼンだったが、後藤氏はジャン・ルソーを動かすことに成功した。それだけではない。ジャン・ルソーからもアイデアやノウハウが提供され、まさに異色のタッグによる共同開発が実現した。
「数十年後、アップルウォッチが時計の歴史を変えた逸品として時計博物館に並ぶんじゃないかと思うんです。そのとき、隣にザ・ウォッチが置かれているのが理想ですね」
2016年9月8日、アップル2世代目となる「アップルウォッチ・シリーズ2(Apple Watch Series 2)」を発表した。防水機能やGPSを搭載し、着実に進化するアップルウォッチだが、デザインは据え置き。アップルウォッチを「高級腕時計」に進化させるのは、やはりザ・ウォッチだけなのだ。
【News Eye】
ザ・ウォッチのベルトはバッファロー革を最高級のワニ革と汗に強い牛革で挟んでおり、ヘッドに近づくに連れて太くなるラインは職人が手で削って作り上げている。革を傷つけないようDバックルを採用したのもポイントだ。