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新プロトコル「NVMe」採用でMacBookが加速する

著者: 今井隆

新プロトコル「NVMe」採用でMacBookが加速する

MacBook

【販売】アップルジャパン

【価格】下位モデル:14万8000円、上位モデル:18万4800円

ストレージとインターフェイス

MacにSSDが搭載されたのは今から8年前、2008年1月にリリースされた初代MacBookエアからだ。最初のモデルでは80GBのHDDと64GBのSSDからストレージを選ぶことができたが、そのインターフェイスにはPATA(パラレルATA)が採用されていた。これは当時の1.8インチHDDが採用するインターフェイスがPATAだったためだ。その年の暮れに刷新されたMacBookエアでは、インターフェイスはSATA(シリアルATA)に更新され、120GBのHDDまたは128GBのSSDを選択できるようになった。

このようにSSDのスタートはあくまでもHDDからの置き換えであり、そのインターフェイスやプロトコルはHDD用に作られた既存のものを使用していた。ハードウェアの設計や筐体の規格、OSなどのソフトウェア構造を変更することなく、HDDからSSDへのシームレスな移行を行うためには当然の流れだったといえるだろう。

そしてSSDが急速に普及した2010年以降は、MacBookエアやMacBookプロ・レティナディスプレイのようにHDDを搭載せず、初めからSSDを搭載したMacが主流になってきた。SSD専用機種であれば、その形状やインターフェイスをHDDに合わせる必要がないため、より薄型・軽量で小型なSSDを搭載できる。MacBookシリーズではスティック型と呼ばれる形のSSDが採用され、Mac本体の薄型化に大きく貢献したのはご存じのとおりだ。

インターフェイスもまた、SSDの高速化に合わせて進化してきた。最大転送速度が1.5GbpsだったSATAインターフェイスも、最新のSATA3では最大6Gbpsを実現している。SSDは採用するメモリチップ自体の性能向上と、複数のチップを並列動作させるインターリーブ動作によって高速化が可能であり、SATAインターフェイスの理論値を超える速度を出すことも技術的には可能だ。そこで、より高速なインターフェイスとして注目されたのがPCIe(PCIエクスプレス)だ。ここにSSDのコントローラを直結することで、さらに高速なアクセスを可能にしたのがSATAエクスプレスである。

Macも2013年以降に発売されたモデルのほとんどがSATAエクスプレスベースのSSDに更新された。SATAの抱えていた6Gbpsの壁すらをも突破し、さらなる高速化を実現したのである。

待望の新プロトコル

圧倒的に高速なSATAエクスプレス対応のSSDだが、実はソフトウェアから見た場合には従来と同じSATAデバイスとして認識されている。これは物理インターフェイスがSATAからPCIeに替わっても、そのうえでストレージを扱うためのプロトコルが依然SATAのままだからだ。使用されているプロトコルは「AHCI(Advanced Host Controller Interface)」といい、SATA2で採用されたSATAネイティブのプロトコルで、SATA接続のHDDに最適化されたコマンド体系が実装されている。

これはあくまでハードディスクなどの磁気ストレージデバイスの特性に合わせた設計となっており、フラッシュメモリで構成されるSSDには最適化されていない。このため、SSD本来の性能を発揮するには適しておらず、プロトコルがオーバーヘッドになってしまっていた。

そこで、よりSSDの特性に合わせた命令を整備し、その性能を存分に発揮させるコマンド体系を備えたプロトコルとして制定されたのが「NVMe(Non-Volatile Memory express)」である。同規格はインテル、サムスン電子、サンディスク、デル、シーゲートテクノロジーなどが参加する団体「NVMHCI(Non-Volatile Memory Host Controller Interface)Working Group」が規定している。

NVMeを初めて採用したMacが、去年登場したMacBook(Late 2015)だ。同モデルは、Macでは初めてロジックボード上に直接SSD(SSDコントローラチップとフラッシュメモリチップ)を搭載し、SSDコントローラチップのプロトコルにNVMeを採用した。このことはシステムプロファイルからも確認できる。

MacBookエアやプロ・レティナに採用されているスティック型SSD。もともとはSATAインターフェイスでスタートしたが、2013年モデルを境にPCIeインターフェイス接続のAHCIプロトコルに移行した。次のフルモデルチェンジではNVMeに移行する可能性が高い。 Photo●iFixit

AHCIとNVMeの比較

AHCIとNVMeの代表的な機能差。中でもコマンドキューに対する受容性が大幅に向上しており、たとえばアプリケーションごとに独立したキューを割り当てて処理の効率を高められるなど、並列処理に対するメリットが大きい。

スカイレイクの恩恵

そんなMacBookのSSDが、今年2016年5月に発売された新モデルでさらに高速化された。従来のSSDはPCIe Gen・2の4レーン接続だったが、新モデルではPCIe Gen・3の2レーン接続に変更されている。これは搭載プロセッサがブロードウェルからスカイレイクに変更されたことに伴って、プロセッサに統合されているPCH(周辺コントローラハブ)のPCIeがGen・2からGen・3に更新されたこと、これに合わせてより高速なPCIe・Gen・3対応のSSDが採用されたことによる。

レーンあたりの伝送速度が5GT/秒から8GT/秒へと高速化されていることからもそれがわかる。スペック上の速度向上が1.6倍にしかなっていないのは、物理層の転送速度が1.6倍であるためだ。しかしPCIeではGen・3の実現にあたり、従来の8b/10bデコードから128b/130bデコード方式に変更した。これにより、デコードに伴うオーバーヘッドを20%から約1.5%へと大幅に削減、伝送速度の理論値は4Gbpsから約7.88Gbpsへと約2倍に向上した。これはイーサネットにおけるジャンボフレーム(データをフレームに分割して転送する際に、最小フレームのサイズを大きくすることで通信効率を上げる技術)、それによるオーバーヘッドの低減と同様のアプローチだ。実際に計測してみると、新MacBookのSSDの性能は旧モデルに比べて大きく向上している。これは主に新しく採用されたSSDの性能向上によってもたらされたものだ。

MacBookのシステムプロファイルを見ると、SSDのデバイス情報が従来の「SATA/SATA Express」から「NVM Express」に変更されている。また2015モデルでは5.0GT/sだったリンク速度およびx4だったリンク幅が、2016モデルでは各8.0GT/sおよびx2に変更されている。

これからの内蔵ストレージ

NVMeに対応した最新のSSDを搭載し、ストレージの高速化とオーバーヘッドの低減を実現したMacBook。この流れは今後他のMacBookシリーズやiMacなどのデスクトップモデルにも波及し、従来のSATAエクスプレスベースのSSDは段階的にNVMe対応のSSDに置き換わっていくだろう。

一方でSSDデバイスの進化も著しい。NVMe対応SSDを開発するメーカーの1つであるサムスン電子は、今年5月、ワンチップで512GBの容量を持つNVMeコントローラ内蔵のSSDチップをリリースした。従来、2.5インチHDD型やスティック型で提供されていた大容量ストレージが、わずか16ミリ×20ミリのスペース、重さ1グラムの部品に集積されており、MacのみならずiPadなどの携帯機器への搭載も容易になると思われる。もはやストレージはロジックボード上に直接実装されるのが当たり前の時代になりつつあるのだ。

NVMe(PCIe・Gen.3ベース)では理論上の最大転送速度が4GB/秒と高速で、現状ではまだNANDフラッシュやSSDコントローラの改良による高速化のヘッドルーム(伸びしろ)が多く残されている。しかしそのヘッドルームも1~2年後には頭打ちになる。2017年には現在の2倍の転送速度を誇るPCIe・Gen・4がリリースされるが、これがPCHに採用されるにはまだ数年を要するだろう。

PCIeよりも高速で低レイテンシなインターフェイスといえば、もはやメモリインターフェイスしかない。シングルチャンネルで12・8GB/秒、デュアルチャンネルで25・6GB/秒を実現するメモリバスは、もともとメモリデバイスであるSSDにとっては親和性も高く理想の接続先だ。すでにエンタープライズ市場では「NV-DIMM」として規格化および実用化されており、その技術がコンシューマ市場にフィードバックされるのも時間の問題といえるだろう。サムスン電子のSSDのようにワンチップ化が進めば、メインメモリのHBM2(High Bandwidth Memory 2)化と併せて、Macのアーキテクチャを抜本から覆すようなエキサイティングな改革が実現しそうだ。

サムスン電子が5月末にリリースしたワンチップ構成のSSDチップ。256GbitのNANDフラッシュメモリを16枚、4GbitのLPDDR4 SDRAM、およびNVMe対応SSDコントローラをBGAパッケージに収め、1枚で512GBもの容量のSSDを実現している。従来であればハードディスクサイズ、もしくはスティック型のSSDで提供されていたSSDモジュールだが、このワンチップSSDを用いれば、わずか20ミリx16ミリのフットスペース、たった1グラムの重さで、容量512GBの高速大容量ストレージを搭載可能となる。

サンディスクの「ULLTRA-DIMM SSD」は、DDR3-SDRAM DIMMソケットに装着するメモリバス直結型SSDで、NVDIMM-Fと呼ばれるタイプ。1枚で200GBまたは400GBの容量を有し、複数併用で容量を増やせる。この技術がダウンサイジングされればSSDの市場が大きく変わる可能性がある。

用語解説

PCH

PCH(Platform Controller Hub)はインテルのチップセットに導入されているチップの1つで、CPUをサポートする。かつて「サウスブリッジ」あるいはICH(I/O Controller Hub)と呼ばれたチップの役割を継承しており、SATAやLAN、USBなどの機器とプロセッサとのやりとりを担っている。

PCIe

PCIe(PCIエクスプレス)は従来のシステムバスであるPCIの後継として、2002年に策定されたシリアル接続のインターコネクト。主にGPUなど高速デバイスの接続に使用されている。現在の最新規格は2010年に策定された「PCI Express Gen.3」で、1レーンあたりの物理帯域は8Gbps。

HBM

HBM(High Bandwidth Memory)はメモリチップを積層化して帯域幅を広げ、メモリの実装面積と消費電力を抑える技術。TSV(シリコン貫通ビア)技術によって1024本という超多ピン信号を積層し、広帯域幅と高速性を両立している点が最大の特徴。すでに2015年からGPU用のビデオメモリとして実用化されている。

【News Eye】

NVMe対応SSDを利用するためには、OSでのサポートが欠かせない。OS Xでは10.10.3以降、ウィンドウズでは8.1以降のバージョンでNVMeがサポートされている。

【News Eye】

NVMe対応SSDからOSを起動するためには、OS自身のサポートはもちろんのこと、動作させるマシンのファームウェアも対応している必要がある。現在Macで対応が確認されているのはMacBookのみ、ウィンドウズPCではUEFIでのNVMeブートサポートが必要となる。