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アップルサポートがボットになる日が来るのか?

著者: 牧野武文

アップルサポートがボットになる日が来るのか?

チャットサポートが快適すぎる!

アップルのサポートで従来の電話、メールに加えて、チャットが利用できるようになった。これがきわめて便利で快適だ。

電話サポートと比べて圧倒的に便利なのが、“ながら”でサポートが受けられること。電話だと通話中はほかのことはほとんどできないが、チャットだと数分放置しても問題ない。オペレータが入力すると通知が出るのですぐにわかる。そのため、別の仕事をしながらついでにサポートが受けられるわけだ。さらに、画面のスナップショットを送信できたり、詳しい手順の説明などをリンクで送ってもらえるなどの利点がある。

このようなチャットによるサポートは、法人向けサービスでは当たり前になりつつある。企業とユーザの両方にとって貴重な時間を節約できる最適な方法だからだ。それどころか、いまやシリコンバレーでは、このチャット技術が大きな注目を浴びている。2015年末のスタートアップ・アクセラレータプログラム「Yコンビネータ」でも、Chatfuel、Prompt、Msg.ai、SendBirdなどチャットボット関連の開発チームが目立っていた。

チャットボットとは、その名前のとおりチャットを人間が応答するのではなく、機械が応答を自動で行うものだ。サポートに寄せられる質問の90%以上は、RYFM(マニュアルを読め!)という内容のもの。このような質問はボットが自動応答してしまい(電子マニュアルの該当ページのリンクを送るだけいい)、ボットで処理しきれない問題だけを人間のオペレータが対応するようにする。それには自然言語解析や人工知能などの技術的ハードルがあるが、理想的なチャットボットが構築できれば「1人のオペレータで1億人のカスタマーに対応できる」ともいわれている。

チャットで成長した中国のタオバオ

法人サービスだけでなく、コンシューマの世界でもチャットボットが注目されている。そのきっかけになったのは、中国のECサイト「タオバオ」だ。タオバオではアーリーワンワンというチャットソフトを開発、出店する全店舗に加入を義務づけた。これにより、タオバオは飛躍的に業績を伸ばし、2003年の開設からわずか2年で中国ECサイトのシェアの70%を握り、現在では年間売上3兆円、シェア80%という圧倒的な強さを見せている。アマゾン(日本)が1兆円、楽天が7135億円、ヤフーショッピングが2669億円(いずれも2015年)という数字を見れば、タオバオがいかに巨大であるかがわかるだろう。

各店舗のチャット対応はまちまちだが、衣類、化粧品などの女性向き商品では、店舗スタッフと同じように購入相談に乗ってくれる。「春物セーターでおすすめは?」「今、流行っている商品はどれ?」といった漠然とした質問から入ってもまったくかまわない。中にはウインドウショッピングのようにスタッフとの会話を楽しんで、結局何も買わないという“冷やかし”を楽しみにしている人もいるという。荷物の発送時期や返品などに関しても、チャットですぐに連絡がとれ、ネットショッピング特有の「連絡がつかない不安」が解消される。このようなチャットの利点を最大限に活かしてタオバオはトップランナーとなった。

次に来るのはチャットインターフェイス

さらに、コンシューマ寄りの「チャットインターフェイス」が注目を集めている。アップルの「メッセージ」のようなアプリ画面だが、ボットに「タクシーを呼んで」「銀行口座の残高は?」「プリンタのインクを購入して」などとメッセージを送ると、外部サービスに接続して、適切な処理をしてくれるというものだ。

同じことを既存のアプリでやろうとすると、アプリの起動→ログイン→操作と非常に手間がかかる。特に効果が高いのが「いつもの手順」だ。自宅でタクシーを呼ぶ、いつもの店で出前をとる、いつものECサイトで過去に購入した消耗品を再度注文するなど、同じことを命じるのであれば、固有名詞などを省けるので1行のメッセージでことが済んでしまう。

このチャットインタフェイスは、容易に音声入力と接続ができる。米国ではアマゾンが人工知能スピーカ「Amazon Echo」を発売して大きな話題となっている。現状でできるのは音声で音楽を流したり予定を確かめることくらいだが、機能追加も対応可能なので家電製品を音声で制御したり、ウーバーの配車を頼む、ドミノピザの注文などもできるようになる。将来的には音声でアマゾンの注文もできるようになるのだろう。

次のiPhoneで注目される新機能

ティム・クックCEOが米国テレビ局CNBCのインタビューで、次期iPhoneには「今は必要とは思ってはいないけど、それなしでは生きていけない」機能が搭載されると答えて大きな話題になっている。常識的に考えるとPoWi-Fi(Power over Wi-Fi)ではないかと考えられる。このPoWi-Fiは、Wi-Fiの電波をエネルギー源として充電する技術だ。Qi(チー)のような充電台の上に置く方式のワイヤレス充電では「ケーブルを挿す」が「置くだけ」になるだけで利便性が向上するわけではない。一方で、Wi-Fiは自宅や職場にPoWi-Fiルータを置いておけば、そこにいるだけで充電でき「充電」という作業そのものが不要になる。ただし、充電量の問題や、人体や電子機器への影響など課題もまだまだ多く市場投入できるだけのブレイクスルーがあったのかどうかは不明だ。

さらに、PoWi-Fiだとすると「今は必要と思っていないけど」という部分がひっかかる。とすると、意外にヘイシリ(Hey Siri)の大幅拡張ではないかという気もする。今のところ私の周囲で使っている人は少ないが、iPhoneに触れずに声でシリが操作できるという便利な機能だ。かなり感度がよく、私はデスクの端にiPhoneを置いているが、普通の音量で話すだけでシリのさまざまな機能を利用できる。たとえば、「ヘイシリ! 中華料理が食べたい」と声をかけると、近所の中華料理店をリストアップし、おすすめの店を提示してくれる。そこで「電話して」と声をかけると、その店に電話がかかり、スピーカフォンのまま予約が入れられる。一度使うと、もう「これなしには生きていけない」と思わせてくれる。これが電話ではなく「6時に2名で予約を入れて」と声をかけ、外部サービスを利用して予約を入れられるようになったら、さらに手放せなくなるだろう。

あくまでも個人的な予想なので、正解は次期iPhoneが発表されてからのお楽しみだが、いずれにしても「チャット(文字+音声)」+「ボット、人工知能」という組み合わせが今後の大きなトレンドになるのは間違いない。Macの操作でわからないこともiPhoneに向かって話しかければサポートが音声で返してくれるという世界もそれほど非現実的ではない。WEBファーストの時代は終わり、現在はモバイルファーストの時代。だが、間もなくAIファーストの時代に変わろうとしている。

チャットサポートは、サファリの別ウインドウで行う。確証はないが、最初のチャットは定型文を自動入力しているように見える。

アップルのサポートでは、電話、チャット、ジーニアスバーの予約が選べるようになった。チャットサポートを受けるには、アップルIDと機器のシリアル番号の入力が必要。なお、電話サポートも電話番号を入力して、向こうから電話してくるのを待つ方式に改善されている。

おそらくオペレータは、複数のユーザに対応しているのだろう。チャットのレスポンスは数十秒以上かかる。しかし、だからこそこちらは別の仕事をしていられる。オペレータがチャット入力すると、通知がポップアップされる。

中国最大のECサイト「タオバオ」。すでに日本のアマゾンの3倍の売り上げがある。急成長の秘密は、チャットサポートと翌日配送だ。

【知恵の実の実】

米国で大きな話題になっているAmazon Echoは、普段はスピーカだが「アレクサ!」と声をかけると音声でさまざまなことができる。家電の制御のほか、ドミノピザ、ウーバーの注文ができる。179ドル99セント(約2万円弱)で、日本発売は未定だ。

【知恵の実の実】

まだ使い始めたばかりなので、どの程度実用性があるかわからないが、iPhoneアプリ「SELF」が面白い。生活パターンを把握して適切な応答をしてくれる人工知能で、ライフログも自動的につけてくれる。将来、有用なチャットインタフェイスになるかもしれない。