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アプリデザインから考える

THEME 19(最終回) 横? 縦? それとも…? 動画視聴のこれからを考える

著者: 宇野雄

THEME 19(最終回) 横? 縦? それとも…? 動画視聴のこれからを考える

最適な画面の比率は?

iPhoneをはじめとしたスマートフォンは縦に持って利用するシーンがほとんどだと思います。横で使うシーンというと、写真撮影や動画視聴くらいでしょうか?

でも、写真も動画も横位置じゃないといけないルールなんてありませんね。それを裏付けるように、今スマートフォン向けのメディアでは、「縦長」の動画を用いたサービスが増えてきているのです。

その一方で、テレビやパソコンは横長前提のまま。これからは縦長の時代なのか、それともこのまま横長なのでしょうか。

流行する縦長動画

誰しもが、横長の動画を縦持ちしたスマートフォンで視聴した経験があると思います。中には、上下に大きく黒い余白が出てしまうこともあり、これでは肝心の動画が小さく表示されてしまいますし、内容も伝わりにくくなってしまいますよね?。

特にiPhone 5から縦の長さが伸びて16:9(に近い)サイズとなったため、さらに上下の黒い余白の面積が広くなってしまっていました。もちろん、スマートフォンを横に持ちかえれば解決する話ではありますが、片手で持っていたものを両手を使って持ち直すのは、意外と手間になるものです。

こうした事情などから、先述のとおり、縦長動画を用いたサービスが出てきたわけです。特に投稿型のコンテンツは縦長の動画を重要視する動きが強くなっており、「musical.ly」という動画投稿サービスは縦長動画が大前提になっていますし?、ユーチューブもこうした動きを受けて、縦長動画の投稿に対応しています。また、動画ファッションサービス「C CHANNEL」?のようにユーザの投稿によるものだけではなく、プロが作成した動画を縦長動画で提供する動きも出てきました。

スマートフォンの画面全体に縦に動画が展開されている様子はとても迫力があります。通常、新しいことを試そうとすると、どうしても違和感やストレスを感じる人が一定数出るものですが、縦長動画の場合は、友人などから送られてくる写真や動画で見慣れているので、抵抗なく受け入れることができるのです。むしろiPhoneが発売されてからはや9年、こうした動きが起こるのが、遅すぎたくらいなのかもしれません。

? 従来、動画は横長前提で作られており、iPhoneで視聴する際には、本体を横に倒す必要が出てきます。

? musical.lyは楽曲に合わせて口パクで歌う動画を作成することができるアプリです。アメリカでブームになっており、日本でも若者を中心に、じわじわユーザが増えてきているようです。

musical.ly

【発売】musical.ly Inc.

【価格】無料

【カテゴリ】App Store>写真&ビデオ

? C CHANNELは、「クリッパー」と呼ばれる女の子たちが、人気のお店やファッションアイテム、おすすめスポットなどをスマホの縦型自撮り動画で紹介する役割を担います。1分間の動画で、ファッション、メイク、カルチャーなどの情報を発信します。

C CHANNEL

【発売】C CHANNEL CORPORATIO.

【価格】無料

【カテゴリ】App Store>カタログ

横長の良さ、縦長の良さ

さて、そうなると映画やテレビといった横長動画は廃れてしまうのでしょうか。筆者はそうはならないと思っています。縦長動画が最適化されるのは、あくまでもスマートフォンの中だけだからです。

そもそも人の目は横に2つ並んでいるので、当然、縦長よりも横長のほうがずっと広い視野角で見ることができます。同様に、大きな画面だとしても、視線の移動量は少なく、顔を動かさなくても済むので、人間工学的には横長の画面のほうがより適しているといえるでしょう。映画館に入ったときに、うしろのほうの席が観やすいという人がいますが、これはまさしく視野角の問題であり、ある程度離れてスクリーンのすべてを視野角内に収めることで、目が疲れにくくなるのです。もし、映画館のスクリーンが縦長だとしたら、とても見にくいものになってしまうのは明白ですね。

それを踏まえて、縦長動画のメリットを考えてみましょう。縦長動画で広い風景などを写そうとパンする(カメラの向きを横向きに振る)と、横幅が狭い分、写し切るのに長い時間がかかりますし、カメラの動きが多くなってしまい、映像を観ていてとても疲れてしまいます。ですので、一般的な動画撮影とはまったく異なる技法を用いる必要があります。逆にあまり動きのない、「インタビュー動画」の撮影など、縦型動画に適したモチーフを見つけるのがいいでしょう。

スマートフォンは、あくまで持ちやすさや使いやすさを優先した結果、縦長の液晶を搭載したにすぎません。制約の元に生まれた筐体の形から、それに合わせたコンテンツが生まれたというだけなのです。縦長動画が出てきたことで、より横長動画にしかできないメリットが明確になり、相乗効果を生むと期待したいです。

未来の動画は縦か横か

さて、ここまで話したように、動画のサイズはあくまでもそれを映すデバイスに依存しており、映画館のスクリーン、テレビ、スマートフォンそれぞれに最適なものがあります。場合によっては、アップルウォッチに最適化した動画サイズが出てくるかもしれませんし、まだ見ぬ次世代のデバイスで動画を観る時代が来るかもしれません。動画の歴史は、端末に対するコンテンツの最適化の歴史ともいえます。しかし、今後はそうしたデバイスの形に依存しない、新しい形の動画が生まれてくるだろうと筆者は考えています。

皆さんは、2016年がVR(バーチャルリアリティ)元年といわれているのをご存じでしょうか。VRを家庭で実現可能なデバイスが次々と発表されているのです。

たとえば、フェイスブックが買収したことで有名になった「オキュラス・リフト(Oculus Rift)」?、プレイステーションと接続する「プレイステーションVR(PlayStation VR)」?、マイクロソフトの「ホロレンズ(HoloLens)」?などが、今年次々とリリースされる予定です。

VRは、人間の見る範囲すべてがバーチャル世界なので、そこに動画を映そうとすれば円形でも斜めの形でも配置できますし、そこに奥行きを加えてみたりすることも可能です。そうなると、動画コンテンツの役割はまったく変わってくるでしょう。あらゆる制約がなくなったときに、どのような形が生まれてくるか、とても楽しみです。

たとえば、「マイノリティ・リポート」や「アイアンマン」に出てきたような、これまで映画の世界でしか実現しなかったようなインターフェイスも実現可能になるわけです。しかもそれが家庭で使えるようになると、一気に普及が進む可能性があります。もちろん大きなゴーグル型のデバイスを頭に付けるという制約は非常に大きく、一般的に普及するものとしては時期尚早な感もありますが、少なくともこれが映像の世界にとって、大きな一歩になることは間違いないでしょう。今年は、VRの世界から目が離せません。

? オキュラス社が開発したヘッドマウントディスプレイがオキュラス・リフトです。2012年にプロトタイプが発表され、紆余曲折を経て、2016年にようやく予約が開始されました。110度の圧倒的な視野角が特長。価格は599ドル。【URL】https://www.oculus.com/en-us/rift/

? ソニー・コンピュータエンタテインメントが開発したプレイステーションVR。専用ヘッドマウントディスプレイと対応ソフトの組み合わせで楽しみます。価格は未定で、2016年上半期の発売を目指しているそうです。【URL】http://www.jp.playstation.com/psvr/

? ホロレンズはマイクロソフトが2015年1月に発表した、拡張現実ヘッドマウントディスプレイです。コンピュータなどとの接続は無線で行うそうです。発売日の明言はなく、同社のサティア・ナデラCEOは「2016年中」と語っていました。【URL】https://www.microsoft.com/microsoft-hololens/

【COLUMN】混同現実の世界

マイクロソフトのホロレンズは、正確には、VR(仮想現実)とAR(拡張現実)を合わせた「MR」(Mixed Reality=混合現実)という造語を使って表します。仮想と現実を区別なく扱い、それらを自由に変えられるのだといいます。こうしたデバイスの登場により、現実世界と仮想世界の境目が、どんどんわからなくなってくるのかもしれません。身の回りの空間すべてを仮想空間で覆ったり、現実の風景に仮想物体を配置したりできるので、人々の生活や働き方などまでもが一変するかもしれません。若干怖い気もしますが、技術が人を豊かにしていく過程は楽しみで仕方がありません。

【元LINE】

「C CHANNEL」は、元LINEの代表取締役社長CEOであった森川亮氏が起ち上げたスマートフォン向けの動画プラットフォームです。2015年4月からサービスを開始し、同年9月には月間800万再生を達成したといいます。

【未来】

映画「マイノリティ・リポート」では、街を歩いていると、人間の瞳の虹彩をIDとして個人を認証し、たとえばその人に合ったデジタルサイネージを表示するなど、拡張現実化した付加価値情報が表示される世界でした。私たちの世界がいずれこのようになる可能性も大きいのです。

文●宇野雄

ヤフー株式会社にてUI/UX設計、デザイン、コーディングなどを担当。まったく新しいモノづくりよりも、すでにあるモノを新しい視点で捉えるデザインが好き。