学校の悩みはつきない
数年前まで縁遠かった「教育」と「IT」の関係は、今やそれが当たり前になるほど結びつきが強くなっている。その事例は、本誌でもたびたび取り上げており、今さら説明はいらないだろう。
もはや、ほとんどの学生たちがiPhoneやiPadといったモバイルデバイス、MacBookをはじめとするノートブックを所持する時代であり、それを学校生活の中で用いることで、より授業や課題制作を効率的に行っている。そういった土壌が出来上がりつつあるのだ。
こうした状況の中で、学校に求められるものも多様化している。ICT教育への理解はもとより、キャリア教育、単位の実質化などのほか、次期学習指導要領の改定により学校教育に取り入れられる「アクティブラーニング」など、学校側の悩みは尽きないのかもしれない。
7月17日より全国6都市(広島、福岡、大阪、名古屋、仙台、東京)にて開催された、教育セミナー「IT+教育 最前線 2015 ~ 教育現場でのChromebooks・Office 365・アクティブラーニング活用事例~」では、IT教育システムの導入・実務に携わってきた教職員が、導入における成功事例、実際に経験してきたからこそわかる苦労話などを語ってくれた。主催は、三谷商事。サブタイトルに付けられた「クロームブック」「オフィス365」「アクティブラーニング」そして「ドローン」が、特にリクエストが多かったことから、今回のテーマ設定となったそうだ。参加した各教育機関の講演内容は右のとおりだが、その中から今回は佐賀大学が取り組むアクティブラーニングについての講演をレポートする。
講演者一覧
●広尾学園中学校高等学校教務開発統括部長・金子暁氏
「生徒たちが自らの力で日本の教育を超えていく~広尾学園のICT活用と未来~」
●広尾学園中学校高等学校医進・サイエンスコース 教務開発部システム・ICT担当課・榎本裕介氏
「能動的な学習を導くために教員がすべきこと」~一人一台を持つ意味~」
●広島経済大学情報センター・長原泰彦氏
「広島経済大学におけるOffice 365導入について~学内ポータルとOffice 365認証のSSO連携、活用事例~」
●国立大学法人佐賀大学佐賀大学全学教育機構教授・穗屋下茂氏
「佐賀大学におけるICTを活用したアクティブラーニングの取組」
●国立大学法人京都大学学術情報メディアセンター・上田浩氏
「Office 365 Education の本質~ソフトウェア、 システム運用、 サポート体制の観点から~」
●京都光華女子大学キャリア形成学部教授・阿部一晴氏
「少し斜めから見てみた「アクティブラーニング」~私の授業はアクティブですか?~」
●名古屋学芸大学ICT活用教育推進室室長・梅村信夫氏
「Office 365とOSSの協調によるeラーニング/データ解析統合環境~名古屋学芸大学におけるICT基盤再構築の試み~」
●大阪総合保育大学情報視聴覚室室長・藤田朋己氏
「学び」の活性化を目指して~Office 365とmanabaの導入~」
●国際医療福祉専門学校救急救命学科学科主任・ICT担当(同校ドローン有効活用研究会)・小澤貴裕氏
「救急・災害医療分野におけるDroneの有効活用の現在と近未来」
[佐賀大学]さまざまなICTの取り組みで「できない理由探し」を打ち破る
今、「アクティブラーニング」の導入が求められている。背景にあるのは、文部科学省が置く中央教育審議会が2012年8月、学校教育へのアクティブラーニングの導入を打ち出し、次期学習指導要領の改定から、本格的に学校教育に取り入れられることになったからである。
では、そもそもアクティブラーニングとはなんなのだろうか。わかりやすくいうと「能動的学習」、つまり講義を聞くスタイルの学習ではなく、課題研究やディスカッション、プレゼンテーションなど、学生が自ら進んで学習に取り組む授業形態のことを指す。
そんなアクティブラーニングを積極的に取り入れている教育機関の1つが、国立大学法人佐賀大学だ。
佐賀大学は全国の国立大学に先駆けて、VOD(Video On Demand)型のeラーニングを導入している。大学の講義を自宅からでもコンピュータで視聴でき、単位が取得できる仕組みである。講義コンテンツは同大学先端研究教育施設にある「eラーニングスタジオ」で独自に開発したものを、学習管理システム(LMS=Learning Management System)で配信管理している。そうしたLMSの開発・管理・運用や講義コンテンツの開発で培ってきた技術や経験を活かし、さまざまなICT活用教育の推進を行っている。
同大学ならではの興味深い取り組みがある。「デジタル表現技術者養成プログラム」だ。このプログラムでは、Macが整備された演習室で、画像や映像の編集、WEBなど、プロが使用する機器やソフトウェアを使っての作品制作を始め、幅広い知識の習得を目指すというもの。たとえば、アドビ・イラストレータでのイラスト制作やガレージバンドを使った作曲など、学生はさまざまな角度から表現力を身につけ、学業や就業に活かすことができるのだという。
こうした取り組みについて、同大学全学教育機構教授・穗屋下茂氏は満足感と、今後の課題について語った。
「我々はさまざまなことに取り組んでおり、今も継続できています。我ながらよく維持できているなと思っています。大学をはじめとして、組織というのは『できない理由探し』をしがちです。人がいない、お金がない、物がないなどです。しかし、我々はお金も人もいない状態からさまざまな取り組みを始めました。我々のこうした取り組みをきっかけに、そうした組織体質をなんとかして打ち破ることができないかと考えています。それは、これからが正念場だと思っています」
佐賀大学全学教育機構
教授 穗屋下茂氏
【NewsEye】
佐賀大学の「デジタル表現者養成プログラム」は2009年に開始され、受講生定員は1期につき40名。しかし、学長の要請を受けて、定員の増枠を検討していると穂屋下氏は語った。三谷商事では毎年このようなITと教育に関わるセミナーを開催しているので、機会があれば来年参加してみてほしい。