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“ひまわり”から着想を得た“大福餅”ことiMac G4。ジョブズの発想をアイブが昇華させた“既成概念”を破壊するデザイン

著者: 大谷和利

“ひまわり”から着想を得た“大福餅”ことiMac G4。ジョブズの発想をアイブが昇華させた“既成概念”を破壊するデザイン

iMac G4のデザインは、ジョブズとアイブの“散歩”から生まれた

2002年に登場したiMac G4は、iMacシリーズで初めてPowerPC G4を搭載しただけでなく、デスクトップMacとして初のフラットスクリーン採用製品だった。

当初、ディスプレイは15インチサイズだったが、半年後に17インチモデルが加わり、さらに1年と少しあとに20インチモデルも追加された。画面解像度は、それぞれ1024×768、1440×900、1680×1050ピクセルであり、今から見れば、とりたてて高解像度ではないが、当時としては十分に高精細なTFT液晶スクリーンだといえる。

後述するように、大福餅のような本体と軽やかなディスプレイをステンレス製のアームでつないだデザインが特徴的だが、当初、デザインディレクターのジョナサン・アイブは、まったく異なるものをスティーブ・ジョブズ に提案した。それは、それまでのiMacのイメージを踏襲しつつ、CRTディスプレイをLCDで置き換えたようなデザインであったという。

ジョブズは、それを見て、機能と形態が一致していないと感じ、アイブを自宅に招いて、庭を散歩しながらディスカッションを重ねた。そのときに引き合いに出したのが、天に向かって咲き誇るひまわりだった。

茎がしっかりと花を支え、花は太陽を追いかける。機能と形状、構造がマッチした存在だ。ジョブズは、iMac G4のデザインも同じように、各構成要素がそれぞれの機能を象徴すべきだとアイブに伝えた。

半球体のボディとステンレスアーム。唯一無二の存在感を持つiMac G4

このアドバイスを受けて完成したのが、最終的なiMac G4のデザインである。半球形の本体は、見るからにどっしりと安定感のある佇まいで、心臓部となる回路基板や光学ドライブを内包し、保護している。

当初から、ゆくゆくは20インチバージョンを追加することを決めたうえでの設計だったのだろう。本体サイズはモデル末期まで変更されず、画面が大型化しても、同じように支え続けた。

フラットパネルの特徴そのままに、1枚の板のようにまとめられたディスプレイは、周囲を透明なフリンジで囲まれ、そこに指を添えて上下左右に動かすことができる。

この動きを可能としているのが鏡面仕上げされたステンレス製のアームで、内部の平行リンク機構によって、ディスプレイを上下に動かしたときに傾きが維持される仕組みを実現した。

PIXAR映画「Luxo Jr,」との関係が…? 考え抜かれた筐体の構造

当時、このデザインと動きが、ジョブズとも関係が深かったPIXARの短編CG映画「Luxo Jr,」に登場するLuxoブランドの電気スタンドを思わせることで話題となり、iMac G4を擬人化したテレビCMも制作されたが、実際のアームのメカニズムや可動領域はかなり異なっており、並べると似て非なるものであることがわかる。

現実に、このような筐体のコンピュータを作るには、円形の基板を設計するところから排熱に至るまで、既成概念を捨ててかかる必要があり、軽く動いてピタリと止まるアームのバランスに至るまで、例によって開発にはかなりの知恵が絞られたはずだ。

ちなみに僕は、ジャンクのiMac G4をiPadスタンドに改造し、今もそのアームの滑らかな動きに魅せられている。

※この記事は『Mac Fan』2020年10月に掲載されたものです。

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著者プロフィール

大谷和利

大谷和利

1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。

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