Mac業界の最新動向はもちろん、読者の皆様にいち早くお伝えしたい重要な情報、
日々の取材活動や編集作業を通して感じた雑感などを読みやすいスタイルで提供します。

Mac Fan メールマガジン

掲載日:

「1000曲をポケットに」。初代iPodの爆発的ヒットは、Appleブランドを世界中に知らしめ、デュアルプラットフォーム化を決定づけた

著者: 大谷和利

「1000曲をポケットに」。初代iPodの爆発的ヒットは、Appleブランドを世界中に知らしめ、デュアルプラットフォーム化を決定づけた

Appleの“将来”をも変えたiPod。ジョブズが睨んだ、音楽プレーヤの可能性

1998年のiMacと翌年のiBookの成功によって息を吹き返したAppleは、その勢いに乗ってさらなるコンシューマ市場の攻略を図るべく、ポケットサイズのデジタル音楽プレーヤである初代iPodを2001年に発表した。

それまでも市場には、いわゆるMP3プレーヤと呼ばれる、楽曲データの圧縮・ファイル形式名をそのまま冠するデジタル音楽プレーヤ製品は存在していた。そして、一部のマニアックなユーザたちもいたものの、チープなデザインとボタンスイッチを使った凡庸なユーザインターフェイス、そして何より、コンピュータからプレーヤに楽曲データをインストールする手順の煩雑さなどから、広く普及してはいなかった。

しかし、スティーブ・ジョブズは、かつてのSONYの再生専用ポータブルステレオカセットプレーヤのWalkmanのように、大衆文化に大きな影響を与える音楽を気軽にどこでも楽しめるプレーヤをデジタル化することに大きな可能性を感じ、Apple流のデザインとインターフェイスを与えることができればヒットさせられると考えた。

セレクトした楽曲を少ないメモリに転送するのではなく、1.8インチの5GBハードディスクに丸ごとiTunesの音楽ライブラリを収めて持ち歩くというコンセプトを”1000 songs in your pocket”というシンプルなキャッチフレーズで表現した、初代iPodの日本での価格は4万7800円。

発表時こそマスコミから「高価すぎて売れない」と叩かれたものの、Windowsユーザからも羨ましがられるほどの人気となり、Appleは将来のモデルをデュアルプラットフォーム化する異例の決断を行ったのである。

初代iPodの美しい鏡面仕上げ。磨き上げたのは日本の職人だった

iPodのデザイン上の大きな特徴は、スクロールホイールと呼ばれたディスク状のコントローラと、顔が映り込むほどに鏡面仕上げされた背面のステンレスカバーだった。

前者は、長いプレイリストでも楽にスクロールして曲を選ぶことを可能にし、音楽再生中はボリューム調整にも利用できるなど、シンプルながら考え抜かれたインターフェイスの実現に寄与したが、そのヒントは、iPodの開発が始まった頃に日本人デザイナーの鈴木孝彦さんがApple本社でデモした、PowerMateという外付けコントローラデバイスのプロトタイプにあったと僕は思っている。

また後者は、日本の新潟県燕三条の研磨職人がひとつずつ手作業で磨き上げていたことが知られており、実にデリケートで、普通に使っていても細かな傷がついてしまう。だが、それは大切に扱ってもらうために、あえて施されたデザイン処理だった。そして、傷つき防止用カバーやフィルムのエコシステムも、ここから誕生した。

ちなみに、初代iPodのインターフェイスや基本機能をブラウザ上で再現したデモが公開されており、実際にプリセットされたプレイリストから曲を選んで(読み込みに時間がかかる場合もあるが)再生して聴くことができる。

※この記事は『Mac Fan』2020年9月に掲載されたものです。

おすすめの記事

著者プロフィール

大谷和利

大谷和利

1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。

この著者の記事一覧