Appleの特許書類はよくニュースになる。面白く、不思議な発明がいっぱいだからだ。最近では、心拍パターンでロック解除をする「Heartbeat ID」や、4つ折りのデバイスの特許が話題になっている。
特許書類は公開文書であるため、誰でも閲覧することが可能だ。本記事では、最近特に話題となったAppleの特許を3点ご紹介しよう。
心拍モニタによるHeartbeat ID。iPhoneを“手に取るだけ”のロック解除は実現するか?
Appleのロック解除認証方式は、パスコード、Touch ID、Face IDと進化し、今後はHeartbeat ID(仮称)になるかもしれない。Appleが2024年6月30日に取得した特許「Seamlessly Embedded Hart Rate Monitor」(シームレスに埋め込まれた心拍モニタ)によると、AppleはiPhoneに心拍センサを埋め込む技術を開発したようだ。しかも、これを認証に使うという内容になっている。
ロック解除認証は、ユーザの手間が少ないほど優れている。理想的には、iPhoneを手に取る、Macの前に座るという動作をしただけで自動的にロック解除されるのが望ましい。
つまり、指をセンサに置かなければならないTouch IDよりも、画面を見るだけでいいFace IDの方が優れているといえる。しかし、Face IDも万能ではない。ときおり認証に失敗をすることがあるのだ。特に中年以降になると、寝そべった状態では顔の輪郭が重力で歪み、Face IDがうまく機能しないことがある。また未成年は顔が成長して変わるため、Face IDによるロック解除の精度が落ちたり、使えなくなったりすることもあるようだ。
Apple WatchにHeartbeat IDが実装されれば、Macのロック解除にも使えそう
この特許は心拍センサの実装に関するものであるため、その技術の詳細は説明されていないが、心拍パターンには個人差があり、これで個人認証をすることができるようだ。すでに「心電認証」「ECG認証」(Electrocardiogram)という技術名があり、技術としては確立している。
ECGは、心臓の構造により異なり、遺伝的要因が大きいといわれる。そのため、測定方法さえ確立すれば個人認証としても使えるのだという。
多くの読者は、Apple Watchとの連動を想像すると思う。現在も、Apple Watchを装着していればiPhoneのロック解除ができるようになっているが、Apple Watchにパスコードを設定し、手首に装着していることが必要条件で、しかもApple Watchの認証だけでロック解除しているのではなく、Face IDも併用している。
コロナ禍において、マスクをしていてもiPhoneをスムースにロック解除するため、Face IDは目の部分を中心に走査するようになった。すると認証精度がやや落ちてしまったので、それをApple Watchで補うことで、通常のFace IDと同程度の精度を出すのと同時に、セキュリティを確保できるという発想だった。
これがHeartbeat IDになれば、Apple Watchのみで認証が可能になり、Face IDが不要になる可能性がある。しかも、Apple Watchのみで認証が可能になれば、iPhoneだけでなく、同じAppleアカウントで使っているMacなどもロック解除することが可能だ。ロック解除の理想的な形に、かなり近づくことになる。
気が早すぎるけど…Heartbeat IDの課題を考える。あくまで“特許申請されただけ”です
この特許の説明によると、iPhoneのベゼル部分が心拍センサになるようだ。ベゼルの上下部分(図の530と532)には小さな絶縁体が挿入され、ベゼルは左右の2つのパーツに分けられる。ここに指を触れると、心拍の波形を測定し、ロック解除するという仕組みだ。
しかし、素人なりの素朴な疑問がいろいろ浮かんでくる。まずはスマホカバーをつけた場合はどうなるのか。「Heartbeat ID対応スマホカバー」なるものが発売されそうだが、それで識別精度は落ちないのか。PlusシリーズやPro Maxシリーズなど大きなサイズになると、iPhoneを両サイドからガシッと手で掴んでホールドするというより、片方側面を握るようにして持つ人もいる。その場合はHeartbeat IDは使えるのか。また、iPhoneに心拍センサを入れるより、Apple WatchにHeartbeat IDを入れたほうがスマートなのではないか。
もちろん、これはあくまで特許の話であって、それを製品に活かすかどうかは別の話だ。開発している最中で一定の成果があがれば、技術を守るために防衛的に特許申請をすることはどの会社もやっていることで、製品に活かされることもあれば、他社に使用権が売却されてしまうこともあるし、そのまま放置されて有効期限が切れることもある。
しかし、Appleの特許を読んで、Appleのプロダクトがどうなっていくのか、あれこれ想像してみるのは、Appleユーザにとって実に楽しい時間なのは間違いない。
折りたたみiPhoneの可能性。まさかの表裏すべてがディスプレイ? それとも4つ折り?
もうひとつ、特許申請中の面白い技術「Electronic Device with Display and Touch Sensor Structures」(ディスプレイとタッチセンサ構造を有する電子デバイス」をご紹介しよう。
これは、折りたたみデバイスの折りたたみ部分に関する製法と構造の特許だ。Appleの特許の狙いは曲面部分のディスプレイとタッチセンサの構造と製造法にあるため、何面の折りたたみ方式にするかは、この特許申請書では重要ではない。しかし、折りたたみではなく裏表、サイドまで全面ディスプレイというパターンや、一般的な折りたたみパターンも掲載されている。折りたたみであっても、裏表がディスプレイとなることが想定されているようだ。
そして、なぜこんな図があるのがわからないと多くの人が困惑しているのが、4つ折りの図まで掲載されていることだ。おりしも、ファーウェイが3つ折りスマートフォンを発売してヒットしている。そのため「Appleは4つ折りで対抗するのか?」と話題になった。もちろん、常識で考えてiPhoneを4つ折りにする必要などはないとは思うが、iPadであれば4つ折りはありかもしれない。
そうすれば、iPad AirがiPhone程度のサイズになり、持ち歩きは格段に楽になる。個人的には11インチのiPad Airにするか、iPad miniにするかをいつも迷うので、「iPad Air Fold」が出てほしいところだ。
Appleの特許関連文書の楽しみ方。図面を眺めているだけで酒が飲めるぞ!
と、発売されるかもわからない未来のAppleデバイスにあれこれ想いを馳せるというのが、Appleの特許関連文書の楽しみ方だ。内容は専門的であることが多いため、専門知識がないとよくわからないところも多い。ただ、図面が豊富なので眺めているだけでも楽しめる。
2020年に取得された特許には、iPhoneをトラックパッドにしてMacBookのように使えるアクセサリもあった。誰もが思いつきそうな発想であり、思わず微笑んでしまうが、同じ特許にあるiPadをディスプレイにしてMacBookのように使うアクセサリは、Magic Keyboardとして現実の製品となっている。
なお、Appleの特許関連文書を見るならGoogle Patentsがおすすめだ。ここでは世界中から集めた特許関連文書が検索できる。「Apple Inc」で検索すると12万件以上の特許文書が見つかり、そのほとんどはPDFでダウンロード可能だ。また、日本でも出願されているものに関しては日本語での文書も見つかる。定期的にのぞいてみて、新しい特許があるようなら図面を見るだけでも楽しい。Appleの特許を肴に、美味しいお酒が飲めるのではないだろうか。
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著者プロフィール
牧野武文
フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。