※この記事は『Mac Fan』2025年1月号に掲載されたものです。
少子高齢化による就業人口の減少は、建設業においても深刻な課題だ。さらには働き方改革が進み、国土交通省は土木工事における「ICTの全面的な活用(ICT土工)」を推進している。建築DXを掲げ、さまざまな会社がサービスをリリースする中、2020年創業のスタートアップであるDataLabs株式会社は、3D自動モデリング技術で建設業の変革を目指す。提供するサービスは、3D配筋検査システム「Modely」だ。
配筋検査にかかる作業時間を約5分の1に! 「Modely」による建設DX
DataLabs株式会社は、3Dモデルやシミュレーション技術を活用し、デジタルツインの実現を目指して2020年に設立されたスタートアップ企業だ。同社が取り組むのは建設業のDX(デジタルトランスフォーメーション)であり、土木工事や鉄筋コンクリート建築物における「配筋検査」業務を支援するシステムの提供などを行っている。
配筋検査とは、コンクリートを打設する前に鉄筋の太さや本数、間隔が設計図面どおりかを照合する検査のこと。完成後には直接チェックするのが難しい鉄筋の状態を事前に記録するのが目的で、橋やトンネル、高速道路など、インフラの安全性を担保するための重要な検査だ。
プロジェクトの規模や工期によっては検査にかなりの時間を要し、所定の労働時間を超過する原因にもなる。同社のSaaS営業統括本部長・大矢晃之さんは、次のように話す。
「配筋検査は、通常2人程度の作業者が測定箇所をマーキングし、メジャー(コンベックスルール)を当てて測定。必要に応じて写真を撮り、結果を帳票に転記したあとに片づけをして、やっと検査終了です。一方、我々の配筋検査システム『Modely』を活用すると、対応するiPhoneやiPadで点群データを撮影し、クラウドでそのデータを3Dモデル化するだけで検査が完結します。年50回の配筋検査があると仮定すると、作業時間が約5分の1になるという評価を受けています」
削減するのは時間、そしてコスト。帳票作成までiPhoneやiPad一台で完結する
さらに、人員や作業時間の削減だけでなく、検査から帳票作成までをデバイス1台で実現できるコストメリットも大きい。
「これまでも配筋検査を省力化するための専用端末は存在しました。しかし、リースであっても月に1台10万円以上の費用がかかることも珍しくありません。その点、Modelyはクラウドサービスとして提供され、対応するiPhoneやiPadがあればすぐに利用できます。従来の手法と比べると、トータルで約4割程度のコスト削減になる計算です」
また、配筋検査の効率化は作業の安全性向上にも寄与し得るという。
「高所から機材を落としてしまうような事故を防ぐ効果も期待できるでしょう。また、ヒューマンエラーが起こり得る作業なので、それによる時間の削減にも役立ちます」

https://www.datalabs.jp/modely
3Dモデルの生成はModelyで。点群データはサードパーティアプリで取得する
Modelyを利用するには、LiDARスキャナを搭載したiPhoneまたはiPadが必要だ。対応モデルはiPhone 12 Pro以降、第2世代以降の11インチiPad Pro、第4世代以降の12.9インチiPad Pro。特にiPadの大画面なら撮影から事務処理まで一貫して作業しやすい。ただし、Modelyはクラウドサービスなので、撮影はiPhoneで、その後の処理はパソコンで、というクライアントも多いという。
なお、点群データの取得(動画を撮影する作業)には他社製アプリを利用する必要がある。同社が推奨するのは「PIX4Dcatch」または「Scaniverse」。点群データの取得を自社サービス内に組み込むのではなく、他社製のアプリを使用する理由は、データラボが3Dモデル生成技術に強みを持ち、開発コストを抑制するメリットがあったからだ。
「創業者である田尻(大介)は、もともと衛星データのリモートセンシングやドローン測量のベンチャーに所属した経験があり、点群データの自動3Dモデル化(BIM/CIM化)のノウハウを持っていました」

「PIX4Dcatch」と「Scaniverse」を推奨する理由。雨天時でも問題なし
複数存在する点群取得アプリの中で、前述の2つを推奨するのは、いずれも汎用的なデータ形式で出力でき、十分な精度が確認できたからだ。ただし、PIX4Dcatchで点群化処理を実行するには有料のクラウドサービスの契約が必要になる。また、撮影可能な範囲、画像データ出力機能の有無、設定の柔軟性など、使い勝手にも違いがあるという。
「どちらのアプリを使う場合でも、検査したい場所の周囲をゆっくりと回りながら数分程度の動画を撮影するだけです。雨天時でもデータの質には大きな影響がないとわかっています。また、肉眼で視認できる環境であれば暗所でも利用可能です。撮影が終わったら、点群化処理されたデータをModelyにアップロードすれば、クラウド上で3Dモデルが生成され、帳票の作成まで行うことができます」
さらに、外部の土木施工業向けソフトと連係することで、配筋の設計上の数値をインポートしてModelyでの実測値と比較したり、検査の合否を判定することも可能だ。
「配筋検査は自主的に行われる検査のため、帳票自体には公的に統一された書式はありません。将来的には検査結果を紙ベースの帳票として作成するだけでなく、完全データ納品の実現を目指しています」

配筋検査の効率化は世界共通の課題解決。Modelyは海外展開も視野に
3Dモデリング技術によって配筋検査の時間とコストを大きく削減できるModelyは、2022年度(令和4年度)に中部地方整備局が実施した「現場ニーズと技術シーズのマッチング」に採択され、従来技術よりも実用性や生産性などにおいて優れていると評価された。さらに、令和5年度のインフラDX大賞では国土交通省主催のスタートアップ奨励賞も受賞している。
「Modelyは、国土交通省が定める『デジタルデータを活用した鉄筋出来形計測の実施要領(案)』に準拠したことで、多くの建設業者から問い合わせをいただいています。すでに、導入実績は150社を超えました」
また、点群データの3Dモデル化は応用範囲が広いため、同社はModely以外にも橋梁などのインフラ補修に利用する検測システム「Hatsuly」といったサービスも展開している。将来的には、Modelyの海外展開も視野に入れているという。
「海外展開によって、データラボのミッションである“3D自動モデリング技術による建設業の革新”が変わることはありません。配筋検査の効率化は、世界中で共通する課題ですから。海外市場は1兆円規模ともいわれ、先日タイで行った展示会でも好反応をいただきました。近い将来、海外の現場でも利用してもらえるよう、Modelyの英語版も提供を開始しています」

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著者プロフィール

栗原亮
1975年東京都日野市生まれ、日本大学大学院文学研究科修士課程修了(哲学)。 出版社勤務を経て、2002年よりフリーランスの編集者兼ライターとして活動を開始。 主にApple社のMac、iPhone、iPadに関する記事を各メディアで執筆。 本誌『Mac Fan』でも「MacBook裏メニュー」「Macの媚薬」などを連載中。