Appleユーザにとって「名所」の1つでもあるApple 渋谷が、2017年11月26日をもってリニューアル工事のため休業となった。年末商戦直前のこのタイミングに、Appleの重要な売り上げ拠点をクローズしてまで投資を行う。その背景には、より長期的な成長を見据えた日本への戦略が始まったことが透けて見えてきている。
単なる“改装工事”にあらず
去る11月12日、アップルは公式サイト上で直営店の「アップル渋谷」を店内改装工事のために休業(閉店)すると発表した。期間中、ユーザは同じ東京エリアの店舗を利用することになるだろうが、ジーニアスバーで受け付けた修理業務に関しては「アップル表参道」が、法人営業での購入相談はオンラインセールスチームがそれぞれ引き継いでサポートを行うことがすでにアナウンスされている。
アップルは昨年5月にサンフランシスコにオープンしたユニオンスクエアの新旗艦店を皮切りに、販売から「体験」を中心とした新しいコンセプトを持つ店内デザインを採用している。これは既存のストアにも適用され、国内でも名古屋栄では中規模なバージョンアップ工事が実施されたほか、それ以外の店舗でもアクセサリエリアを中心に改装が行われるなど、継続的にリニューアル工事が行われている。
しかし、今回の件は異なる意味合いを持っている。従来までの改装であれば店舗を営業させながら並行して行っていた。これに対して、アップル渋谷は完全に営業を停止してフロア全体を一度に改修する規模となる。期間に関しても本稿執筆時点では公式に明言されていないが、関係者によると完了は2018年末。つまり、約1年間にも及ぶ極めて大規模な工事になる模様だ。
そもそもアップル渋谷は2005年8月に国内4店舗目、東京都内では2店舗目としてのストアとしてオープンした。アクセスの良さや連日開催され続けてきた数々のイベントの成功によって、集客と知名度が急激に伸び、あっという間に銀座など旗艦店クラスに匹敵する高トラフィックなストアへと成長したのである。
規模としては平均よりも小さい店舗に、過剰ともいえる来客数。近隣である表参道に新店舗ができても混雑が改善しないという人気ぶりは、アップルにとっても想定外だったのだろう。今回の改装では、店内設備の近代化だけでなく、ビルの上層階も店舗として増床。銀座のような3フロア以上の多層構成にすることで、収容キャパシティを向上させる計画だという。
この事例は、先のサンフランシスコからユニオンスクエアへの店舗移動や、現在実施中のニューヨーク・5thアベニューの大規模改装(こちらは仮設店舗に移動して営業中)に次ぐものであり、アップルが渋谷にかける期待の表れといってもいいだろう。
新店舗オープンの可能性
日本国内最大規模となるこのリニューアル工事だが、これは「氷山の一角」かもしれない。アップルが8月に公式サイト内にある採用ページで、京都エリアへ新店舗をオープンするためのスタッフ募集を開始したことが話題になった。ページ内を細かくチェックすると、勤務地の東京エリアに銀座・渋谷・表参道以外に「東京ー日本」という曖昧な項目が用意されていることに気づく。
これを調査したところ、2018年内に新しいストアをオープンする準備を進めているという。渋谷から流入するトラフィックを表参道や銀座だけで受けきれないことは想像に難くなく、比較的早いタイミングで実施される可能性もある(渋谷のスタッフは休業期間中は都内の2店舗どちらかに異動して勤務する、という事実もこれを裏づけるものになるだろう)。
直営店部門のトップであるアンジェラ・アーレンツ上級副社長も「今後10年間、成長が期待できる都市はどこか」という問いに対して、トップに東京を挙げており、アップルはこれからも日本に対して継続的な投資を行っていくと回答している。不動産業界ではアップルが都内に複数の候補地を探しているという話も広まっており、景気が上昇し続けるといわれている2020年の東京オリンピックまでに店舗数が倍増している可能性も見えてきた。
アップルが初のインターナショナルストアの出店国として、日本を選んでから15年を迎えた。この節目に始まった大規模改修プロジェクトは、新店舗の設立と並行しながらこれからも進んでいくだろう。その先には日本最大の旗艦店・アップル銀座のリニューアルも含まれている。世界でもっとも美しく、人気のあるアップルストア。国内でも今後さらに存在感を増す一大プロジェクトが始まろうとしている。
公式サイトによると、Apple 渋谷の営業日は11月26日までとなっており本誌の発売時点ですでに休業になっている予定だ。再オープンまで、ユーザはApple渋谷から一番近いApple表参道を利用するようにアナウンスされている。