日本もこだわりを持つべき
我々の都市での生活に、スマートフォンはもはや欠かせない存在となった。日本においては、オフィスで利用するコンピュータはパソコンが主体だが、そのパラダイムからの変化を見通している人物がいる。彼が予測する未来の働き方は、どんな姿なのだろうか。
2005年に創業した「ボックス(Box)」は、ビジネス向けクラウドストレージサービスとして急成長し、2015年に上場を果たした企業だ。南カリフォルニア大学の学生寮で起業し、現在も創業者でCEOのアーロン・レビィ氏は、「自分がそうあるべきだ」と考えることをボックスで実現しているという。
「我々は、未来のワークスタイルの実現を常に目指してきました。個人向けには最適なツールがたくさんありましたが、当時ビジネス向けには存在していませんでした。それが起業のきっかけであり、それは同時に私の個人的なフラストレーションを解決することでもありました。なぜビジネスでももっとシンプルにできないのか? 仕事でも体験を追究すべきではないのか?と常々考えてきました」
レビィ氏は、米国と日本のビジネスの現場でのサービスの状況に大差はないと指摘する。日本は決して、ビジネスやテクノロジーに対してコンサバティブではないという。だからこそ、もっと働き方にこだわりを持つべきだ、と指摘する。
なぜ、スマートフォンやクルマなどはデザインにこだわるのに、WEBサービスや業務向けのシステムではこだわりを持たないのか。「仕事だから」という言い訳から離れ、最適なものを追究していくことにコストを費やすことが、働き方の変革には不可欠なのだ。
2005年、20歳のときに南カリフォルニア大学の学生寮でボックスを起業したアーロン・レビィ氏。2013年には米フォーチュン誌の特集「40歳以下のビジネス界のトップスター40人」にいち早く選出されるなど、米国を代表するカリスマ創業者として注目される。
ライバルとの連係も辞さない
ボックスは2016年9月7日からの2日間、年次イベントとなっている「ボックス・ワークス(Box Works)」を開催した。未来のワークスタイルを支えるテクノロジーやサービスが一堂に会するイベントは、基調講演の中でのレビィ氏との対談にも注目が集まる。2015年はアップルのティム・クックCEOが登壇し、2016年のゲストはグーグルだった。
グーグルは9月に、Gmailを核とする同社のビジネス向けクラウドサービスを「Gスイート(G Suite)」とリブランディングし、普及の強化に乗り出した。「All together now.」というメッセージを発信し、テクノロジーの進化を仕事に活かす手段として存在感を高めようとしている。
ボックス・ワークスでは、クラウドストレージであるボックスが、Gスイートと連係すると発表した。Gスイートにも「グーグル・ドライブ(Google Drive)」が存在しており、Gスイートとの連係はあるいはボックス抜きでの環境構築を助長させてしまうかもしれない。
しかし、レビィ氏はボックスが持つ体験とデザインへのこだわりと、新しいテクノロジーを業務に導入する役割としてのユーザからの信頼を武器に、グーグルとの提携に踏み切った。それだけ、レビィ氏には自信があるということだ。
2016年9月7日から米国サンフランシスコで開催された年次イベントのボックスワークス。今年は同じクラウドサービスを持つグーグルとの提携を発表、グーグル・アプスを導入している起業がグーグル上で作成した書類をボックスで管理しやすくした。
企業が変わらなければ
レビィ氏は、起業家の中でも、未来予測に長けた人物として評価が高い。そうした先見の明は、「10年に1度、社会変革が訪れる」という時代感から生まれている。
そして、現在のパラダイムはモバイルだ。
「我々は日々の生活のあらゆる場面でスマートフォンを使っています。若い世代はパソコンよりもスマートフォンのほうが得意です。だったら、スマートフォンでも高い生産性を発揮できる環境を整えることが、企業としての役割であり、我々はその手伝いをしています」
日本では「PCも使えない若者が入社してきて」と嘆く年長者がいるが、レビィ氏は「それはナンセンスだ」と一蹴する。ボックスのようなクラウドを主体とした環境は、アクセスするデバイスを問わず、同じパフォーマンスを発揮できる。新しい労働力を生かすも殺すも、企業の環境次第だという。
こうした変化への対応をサポートすることこそ、ボックスの使命だとする一方で、企業の変革を自ら起こす勇気も必要だという。
「新しい働き方、テクノロジーを活用した効率的でモダンな働き方を手に入れるためには、組織の中で戦っていかなければなりません。たくさんのルールやポリシーもあるでしょう。一人一人と会話をしながら、イノベーションを取り入れる方法を、小さくても組織の中に作り出すことが大きな変化のきっかけになります。スピード、オープン、コラボレーションを訴え続けながら、仲間を増やし、戦い続ける。こうしたアクションが、企業のイノベーションの原動力になるのです」
人口知能時代の仕事
これまでもこれからも、レビィ氏の興味は、最新のテクノロジーをワークスタイルへと結びつけることだ。現在、WEBでもファイルでも「検索」がもっとも重要なテクノロジーになっているが、未来は変わるという。
「すべてのデータが1カ所に集まっている環境の実現は、現在でもさまざまなメリットがあります。セキュリティや管理上の効率性に加え、コラボレーションのしやすさも挙げられます。そのうえで、未来に起きることは、人工知能の活用です。コンピュータの知能がファイルの中身を把握し、我々が次にどんなデータが必要かを察知することができるようになります。
あるいは、次の会議で必要なデータを、さっと提示してくれることになるでしょう。検索することも必要なくなります。そんなデータコラボレーションの世界を、人工知能は実現してくれるのです」
モバイルの時代から人工知能の時代へ、というテクノロジーの変革は、レビィ氏も共有するところだ。そのうえで、10年に1度の変革を素早く取り入れられるかどうか。「ボックスを使うことは、そのきっかけとしてもっとも素早い方法だ」と、レビィ氏はセールストークも忘れない。
今現在、どんな時代にあるのか。今後の10年はどのように変化するのか。こうした時代観念の中で、自分あるいは企業が、どのようなテクノロジーを採用し、働き方を変化させていくのか。もちろん1つの正解があるわけではないが、変化している世の中に合わせて、自分や企業も変化に寛容でなければならない。
レビィ氏は、ボックスを通じて、難しい時代を快適に乗りこなすパートナーになろうとしている。
ボックス(【URL】https://www.box.com/ja-jp/home)は、世界20万社の企業が利用するファイル共有クラウドサービス。運用管理のし易さとセキュリティの維持、コスト削減を両立しているのが大きな特徴。場所やデバイスを問わず、リアルタイムで文書を作成、編集などが行える。
エンタープライズ市場でビジネスを拡大するために、ボックスは大手IT企業との提携を推し進める。アップルのほか、マイクロソフト、IBMなどとも手を組んでおり、2015年のボックス・ワークスでは、アップルCEOのティム・クック氏が登壇した。【URL】https://blog.box.com /blog/top-5-moments-tim-cook-fireside-chat-boxworks/