何をするにしても、自分が動き出さなければ何も変わらない。最近、そんな当たり前のことを改めて実感しています。今年の夏、仕事で大きな変化を迎えました。フリーランスになって約5年間が経ちますが、ここ3年ほどは記事やコラムなどを書くライターとしての仕事が大半を占めました。私は国内外のテクノロジー業界、中でもスタートアップの動きに詳しいので、特集に応じて雑誌の編集部さんに声を掛けていただいたり、本誌をはじめ、いくつかの媒体で定期コラムを書かせてもらったりしています。
その中に、本格的な起ち上げ時期から参画してきた、とあるオンラインメディアがあります。5人ほどの小さなチームで、IT関連のニュースやスタートアップの取材記事を掲載してきました。オンラインメディアに定休日はありませんし、スタートアップから届くニュースも絶えないため、私自身はリソースの80%を注いできたプロジェクトです。その活動から、今年の夏で一度離れることを決めました。
80%のリソースが向かう先がなくなったわけなので、当然それに伴って収入もガクンと落ちました。夫婦共働きでなければ、このリスクをとることはできなかったでしょうから、夫に感謝です。毎日のように記事を執筆する生活から、先月は月に何本かコラムを書くだけになり、空いた時間で自分の得意分野を改めて見直し、今後の動き方について考えて過ごしました。
これが起きたのは、7月終わりから8月にかけてのこと。9月に入った現在、すでにイスラエルとニューヨークのスタートアップと新しいプロジェクトに取り組んでいます。それは、プロダクトを日本市場に向けてローカライズ(各市場の言語や文化に合う形にプロダクトを最適化させること)するお手伝い。翻訳のみならず、日本人にとって望ましいユーザ体験とは何なのかを考え、それをもとにプロダクトを改善していくプロセスを担っていきます。そのほかに、原稿を書く媒体も新たに4つ増えました。
これまでに、フリーランスとして働くことについて、その経緯やコツなどを何度か取材してもらったことがあります。そういうとき、私は「そこそこの規模の継続案件を持っていること」が大事だとアドバイスしてきました。これは駆け出しの頃に、精神衛生上よいだろうと思って始めたことが習慣になったものです。毎月の収入に大きな変動がないことで安心して仕事ができますし、長く一緒に仕事をすることで信頼関係のある相手と気持ちよく仕事ができます。
でも、今回主要プロジェクトを離れてみたことで、このやり方が必ずしもいいことばかりではないことに気づかされました。フリーに慣れるまではいいのですが、継続案件があることが、自分のComfort Zone(居心地がよい場所)にとどまり、活動の幅を狭めることになってしまっていたからです。私の場合まさにそうで、80%の力を注ぐプロジェクトをやめることがなければ、きっと今手がけている新しいプロジェクトに出会うことはなかっただろうと思います。
新しい仕事を見つけるために私がしたことは、周囲の人や過去一緒に仕事をさせてもらった人に近況報告をすること。これまでだってやろうと思えばいつでもできた、たったそれだけのことが仕事の幅を広げることにつながりました。チャンスさえもらえれば、あとは実績を出すだけです。映画監督のウディ・アレンが「80% of success is just showing up」(成功の80%は、ただ顔を出すこと)と言っています。最初の一歩を踏み出さなければ、何も始まらない。逆にいえば、それを踏み出すことさえできれば、ゴールはぐんと近づく。慣れにのぼせてしまっているだけで、少し手を伸ばせば手に入るチャンスが、誰の周りにもあるのかもしれません。
Yukari Mitsuhashi
米国LA在住のライター。ITベンチャーを経て2010年に独立し、国内外のIT企業を取材する。ニューズウィーク日本版やIT系メディアなどで執筆。映画「ソーシャル・ネットワーク」の字幕監修にも携わる。【URL】http://www.techdoll.jp