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検索広告がユーザ体験を阻害する?App Storeの変革は是か非か

著者: 山下洋一

検索広告がユーザ体験を阻害する?App Storeの変革は是か非か

発見をサポートする取り組み

2008年に500個のアプリでスタートしたアップストア(App Store)は、順調に登録アプリ数を増やし続け、ついに200万個突破を果たした。豊富なアプリの存在はユーザがiOSを選ぶ大きな理由の1つになっているが、大量のアプリの中からユーザが自分たちのニーズを満たす新しいアプリを発見するのは大変なことだ。

そこでアップルは、ユーザの発見を促し、アプリ開発者が効果的に製品をアピールできるようにアップストアで「アプリの検索広告」の提供に乗り出した。まだ開発者向けプレビューを通じて試験運用されている段階だが、早くも開発者の間で、その大きなインパクトを巡る論争が巻き起こっている。

アップルによると、アップストアからのダウンロードの65%が検索経由である。アップストアのフィーチャーページやトップチャートからニーズを満たすアプリが見つからない場合、多くのユーザは検索を頼りにしている。すでにグーグルなどがアプリの検索広告を導入しているが、昨今のアプリ市場ではマーケティングに潤沢な資金を投入できる大規模なベンダーが有利になる傾向が見られる。それではアプリが見つけにくいという問題の解決になるとは言いがたい。そこでアップルは、個人開発者や小規模なベンダーにもチャンスがもたらされるように検索広告を実装しようとしている。

たとえば、人気の高いキーワードが特定のベンダーに独占されないように、複数の出稿を受け付け、複数の広告主がいる場合はローテーションで表示する。そしてユーザが広告を見たらローテーション表示の優先度を上げ、逆の場合は下げる。つまり、実際にそのキーワードで検索しているユーザが関心を持った広告がより表示されるようになり、ユーザの関心を引けないアプリの露出は下がっていく。結果的に検索との関連性が高まる。

料金や出稿期間の最低条件はなく、広告主が予算に応じたマーケティングを展開できる。キーワードのオークションで出稿料の高騰を防ぐ仕組みも用意されているなど、すべてのベンダーにチャンスをもたらす設計が徹底されている。中でも話題になっているのが「コンクエスティング(conquesting)」と呼ばれる手法を使えることだ。他のアプリを広告ターゲットに設定してライバル製品に直接広告をぶつけられる仕組みだが、大規模な開発者が小規模な開発者を標的にするケースは少ないと予想されるので、小規模な開発者にとっては新たな武器になるだろう。

アップルはWWDC開催前にアプリ検索広告の提供を発表、今秋に米国から開始する予定。開発者向けWEBサイトでは、WWDC 2016でのアプリ検索広告のセッション動画が公開されている。

【URL】https://developer.apple.com/app-store/search-ads/

不快感を示す開発者も

多くの開発者がアップストアの変化に期待する一方で、戸惑いの声も上がっている。きっかけはツイッター・クライアント「Tweetbot」を開発するポール・ハダッド氏の検索広告に関するツイートだった。同氏が「Tweetbot」と検索したところ、Tweetbotの前に広告として「Twitterrific 5」が表示された。Twitterrificが「Tweetbot」を広告ワードに指定していたのではなく、関連性が高いとアップルが判断して差し込んだ広告だったが、実際に体験してみるとターゲットにされるほうは不快感を覚える。ハダッド氏は率直に「こういう競争を強いられたくはない」とツイートした。

アップルの狙いはユーザと開発者の双方に利益をもたらす広告システムの実現である。ユーザのニーズとアプリの訴求ポイントが合致する広告が効果的に表示される仕組みになれば、ユーザにとって歓迎すべき広告になる。だが、無料アプリが有料アプリをターゲットにして低価格競争が起こったり、または検索広告を利用しないベンダーが過度に不利になるといった、アップルの思惑とは異なる方向に競争が進む可能性も否めない。扱いを誤ると、広告はエコシステムをむしばむ劇薬にもなり得る。 

人気ポッドキャスト「The Talk Show」のライブ収録がWWDC 2016で行われ、フィル・シラー氏とクレイグ・フェデリギ氏がゲストで出演、その際にシラー氏がコンクエスティングが可能であることを明かした。【URL】https://vimeo.com/171186055

検索広告の試験運用において「Tweetbot」と検索しても結果で「Twitterrific 5」(青背景)の広告が目立ち、Tweetbot開発者のポール・ハダッド氏はツイッターで不快感をあらわにした。

【News Eye】

アップルがWWDC 2016の基調講演で公表した最新のデータによると、現在のデベロッパー登録者数は約1300万人。アップストアが登録アプリ数200万本という新たなマイルストーンに到達した。これまでに計1300億回もアプリがダウンロードされ、アプリ開発者への支払い総額が500億ドルを超えた。