ポルトガルの古都ポルトの街から電車で30分。大西洋の浜辺に立つ小さな礼拝堂。波際の岩の上に建てられたその礼拝堂は、高潮になると波をかぶり海に沈むこともあるのだとか。その話を宿で聞いた僕らは、居てもたってもいられなくなり、ポルトの駅から電車に飛び乗った。波に呑まれる礼拝堂。そんな光景見たことがない。
到着したのは無人の駅“ミラマル”だ。傾き始めた太陽に焦りながら、僕らはいそいそと海へ向かった。すれ違う人も少なく、海辺の街は閑散としている。道の両脇に並ぶたくさんの貸し別荘が、夏の賑やかさを感じさせた。だが今は季節はずれ。僕らを迎えたのは、誰もいないビーチだった。
その日は無風に近く、波も日差しも穏やかで、浜辺はびっくりするほど静かだった。ちょうど干潮のタイミングで、浜には転々と潮溜まりができている。たどり着いた礼拝堂は、もちろん波に呑まれることなく、夕凪の波際に静かにポツンと立っていた。
ゆっくりと金色に変わっていく海と空を背に、シルエットになっていく礼拝堂。あとから知ったのだが、この場所は巡礼の地にもなっているそうだ。この景色を見ればそれも頷ける。太陽が大西洋に沈みかけたころ、あたりはいよいよ無風状態になった。さざ波も立たなくなった潮溜まりに、金色の空と礼拝堂が映り込む。神秘的なその景色を、僕らは暗くなるまで眺めていた。
鈴木陵生(Ryosei Suzuki)
映像作家。2011年より夫婦で世界一周を始める。旅の様子を発信する映像サイト「旅する鈴木」が、平成26年度文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に。2014年11月、DVD&Blu-ray「World TimeLapse」(KADOKAWA)をリリース。【URL】 http://ryoseisuzuki.com
【PS】
1600年代に建てられたというセニョール・ダ・ペドラ礼拝堂。それ以前もここは別の信仰の聖地だったようで、なかなか神秘的な場所です。ビーチ自体も素晴らしくて、2015年のヨーロッパベストビーチの1つに選ばれるほど。ポルト観光の際はぜひ。