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内部設計から見えるアップルのこだわり

内部設計から見えるアップルのこだわり

テクノロジーを凝縮

新しいiPadプロの分解レポートが、修理業者「iFixit」のWEBサイトにて公開された。それを見てみると、ロジックボード自体のサイズは従来のiPadプロと大きく変わらないことがわかった。iPadを縦位置にしたときの左右にリチウムポリマーバッテリを配し、その中央部に細長いロジックボードを配置するレイアウトも前モデルと変わらない。

iPhoneシリーズのようにロジックボードを片側に寄せないのは、縦横いずれかの方向に持った場合でも重量バランスを左右均等にする目的のほか、ロジックボードの発熱を持ち手に伝えにくくするための工夫だと推測される。

心臓部の「アップルA12Xバイオニック」は、iPadプロ10・5インチモデルに搭載された「A10Xフュージョン」に比べてパッケージサイズが一回り大きくなっている反面、メインメモリがチップ上に搭載されたことによって、ロジックボード上のフットプリント(専有面積)は縮小していることがわかる。

フェイスIDを実現するセンサシステムは画面上部中央部に配置されており、その構成はiPhone Xシリーズとほぼ同じだ。ただし、iPadプロのフェイスIDは画面を横位置にした場合でも認証が可能になっており、ニューラルエンジンのアルゴリズム改善によってその機能が実現されていると思われる。

強化されたスピーカ

従来のiPadプロのサウンドシステムは画面の上下端に左右に分けて配置された合計4個のフルレンジ(全帯域)スピーカによって構成され、iPadの持ち方(縦横)に応じて4個のスピーカへの出力内容を切り替える方式だった。

これに対して新しいiPadプロのスピーカは、配置は同じながらそれぞれ独立したツイータ(高音域)ユニットとウーファ(低音域)ユニットの2個で構成され、合計8スピーカに強化された。ツイータには小さく軽量な振動板を用いることでトランジェント(過渡)特性を改善し、ウーファは振動板を大型化すると同時にハイ・コンプライアンス(高追従)化することで、それぞれのユニットに最適な周波数帯域のサウンド再生を可能としている。

スピーカのマルチウェイ化によって、全体のワイドレンジ化やダイナミックレンジの拡大といった、いわゆる「Hi│Fi化」が実現されているのも新しいiPadプロの大きな特徴だ。

内部構造の変化は?

新iPad Proの内部構造は従来モデルと大きな違いは見られない。左右にリチウムポリマーバッテリを配置し、その中央部にロジックボード、バッテリの上下には左右独立の2ウェイスピーカシステム(合計8ユニット)を備える。

A12X BionicとA10X Fusion

A12Xはチップ自体は大きくなったが、MCM(マルチチップモジュール)構造でメインメモリを搭載しており、メモリを含めたフットプリントはA10Xより小さい。

合計8個のスピーカユニット

本体の四辺にスピーカを配置し、持つ方向によって出力先を切り替える方式自体は従来モデルと同じだが、スピーカユニットが高音域を受け持つツイータと低音域を受け持つウーファの2ウェイ方式になったことで、再生可能な音域が拡大し音質が大きく向上している。

iPhone X譲りのFace IDシステム

iPadとしては初採用となるFace ID(上)は、iPhone Xシリーズが搭載するもの(下)と基本的な構成は変わらない。構造上ディスプレイのノッチを持たないiPadでは、ユーザの顔に赤外線ドットを投影するドットプロジェクタがやや離れて配置されている。

Apple A12X Bionicに“Macの未来”を見た

新しいiPad Proの心臓部に採用されたApple A12X Bionicは、過去最強のiOSデバイス向けアプリケーションプロセッサであると同時に、市場の92%のノートパソコンを凌ぎ、MacBook Proシリーズすらをも追い越す性能を叩き出す。しかもMacが搭載するインテルプロセッサに比べてそのエネルギー効率は極めて高く、その性能をファンレスで実現できる。

これだけの性能があれば、MacにもApple Aプロセッサを載せるプランがあるとしてもおかしくない。しかし現状ではmacOSのソフトウェアはインテルプロセッサに最適化されており、Apple Aプロセッサでは動作しない。仮にエミュレータやトランスレータによって動作させたとしても、そのオーバーヘッドによってせっかくの高性能がスポイルされてしまうだろう。

しかしMacにはiOSデバイスと同じAPIで動作するデバイスがある。それがGPUだ。macOSはそのグラフィックスAPIにiOSと同じOpen GLとMetal 2を採用しており互換性が高い。A12X BionicのMetalベンチマークを見ると、今年登場したMacBook Pro 13インチモデルのIRIS Pro Graphicsを上回るベンチマークを示している。つまり将来のApple TプロセッサがA12X Bionic相当、またはそれ以上のGPUを搭載すれば、独立GPUを持たないMacのグラフィック性能を底上げできる。

しかもメリットはそれだけではない。統合グラフィックスはメインメモリの一部をビデオメモリに転用すると同時に、メモリアクセスもCPUとGPUが共有する技術だ。これらがApple Tプロセッサにオフロードされれば、メモリ領域とアクセス性能の解放によって、インテルプロセッサの性能も向上するのである。

統合グラフィックスと独立GPU

インテルプロセッサの統合グラフィックス「HD Graphics」や「IRIS Pro Graphics」は、GPUがCPUとメインメモリを共有する方式だ。そのため、グラフィック負荷が増大するとCPUの処理能力や使えるメモリに制約が出る。一方、独立GPU(dGPU)では影響を受けない。

iPad ProとMacBookシリーズの性能差

Apple Aプロセッサは、その性能や製造プロセスにおいてインテルプロセッサに追いついている。CPUの演算性能だけでなく、GPUの演算能力もMacBookシリーズのレベルに追いつき、A12X Bionicでは追い越していると言える状態だ。