目次
- iPhone 17は全モデルが価格据え置き、あるいは値引き。トランプ関税に対応するAppleの戦略
- 失われた約19億ドルの利益。Appleが辿り着いた、ユーザに負担をかけない“落とし所”
- スマホ生産国の大幅なシフト。米国にもっとも多くスマホを供給する国はインドに。
- ファーウェイが米国のブラックリスト入り。Apple「A」シリーズのライバル「Kirin」は製造中止に
- Appleの「China+1」、「3+3」戦略。生産拠点を複数構え、リスクを分散
- 加速せざるを得なかったインド生産。問題を抱えながらも5つの拠点が稼働中
- インドの工場で暴動。中国ではインド産iPhoneに強い反発。生産拠点の拡大は問題だらけ
- 米国で販売されるiPhoneは、すでに8割がインド産。今後、日本にも入ってくる?
- iPhoneの原産国の調べ方。iPhone 17以降、ユーザが調べることは困難に
- 製品の質の担保は、生産国ではなくブランドが担う。明確化される責任の所在
米国に輸入されるスマートフォンの国別シェアで、インドが中国を追い抜いてトップに立った。Appleもインドで5つの生産拠点を稼働させ、インド国内と米国の需要をまかなうようになっている。
インドを代表する巨大コングロマリットであるタタ・グループが最先端設備の工場を開設したこともあり、日本でもインド製のiPhoneが販売される日がやってくるだろう。
iPhone 17は全モデルが価格据え置き、あるいは値引き。トランプ関税に対応するAppleの戦略
トランプ関税の影響もあり、iPhone 17は値上げが必至と誰もが見ていた。しかし、Appleは巧妙な価格設定で値上げを回避。それどころか、実質値下げまで行っている。見事というしかない。
標準モデルの価格を比べると、iPhone 17とiPhone 17 Pro Maxは据え置きだが、iPhone 17 Proは100ドル値上げされた1099ドルとなっている。
しかし、「ストレージ容量」の変更を見落としてはならない。Appleは、iPhone 17、iPhone 17 Proのストレージ容量の最小構成を、前機種は128GBだったところ、256GBに引き上げている。
その前機種、iPhone 16 Proの256GBモデルは1099ドルだった。つまり、1099ドルのiPhone 17 Proは、実質据え置き価格ということになる。
iPhone 16とiPhone 17の価格比較(米国)
そうなると驚くのが、iPhone 17の価格設定だ。ストレージ容量が128GBから256GBに増えたのにもかかわらず、価格は据え置かれている。iPhone 16の256GBモデルは899ドルだったので、799ドルのiPhone 17は、実質100ドルの値下げだ。

iPhone 16とiPhone 17の価格比較(日本)

しかし、iPhone 17を選ぶ人が、それだけのストレージ容量を必要とするかは定かではない。あまり動画の撮影をしない筆者の経験では、128GBでも余るほどだ。それなのに256GBからしか買えないというのは少し気になるが、多くの人がお得になったことは歓迎するだろう。
失われた約19億ドルの利益。Appleが辿り着いた、ユーザに負担をかけない“落とし所”
ストレージに使われるフラッシュメモリの市場価格は、128GBで8ドルから15ドルぐらいが相場になっている。これにさまざまな回路などがついても、20ドル程度のコストで収まるはずだ。
AppleはiPhone 16まで、128GBモデルと256GBモデルの価格差を100ドルに設定していた。そして、256GBモデルから512GBモデルの場合は価格差が200ドルになる。つまり、これまでAppleはコスト20ドル程度のものを100ドルで販売していたことになる。
これは悪どいというわけではない。最小容量モデルの価格を抑えて買いやすくし、大容量モデルの利益率を高くして、全体の利益バランスを取っているだけだからだ。そして、今回は値上げを回避するために、この利益の一部を放棄することになった。Appleの財務報告書では、2025年Q2には約8億ドル、Q3には約11億ドルの関税コストを計上している。その分、Appleの利益は失われることになる。
トランプ大統領は関税をかけるだけでなく、米国内での値上げにも厳しい目を向けているため、Appleとしては調達価格を下げるか、自社の利益を削るかしか方法がない。そこで、これまで利益率の高かった大容量モデルに由来する利益を削ることで対応した。消費者に迷惑をかけない、素晴らしい落としどころではないかと思う。

スマホ生産国の大幅なシフト。米国にもっとも多くスマホを供給する国はインドに。
調査会社Canalysのレポートによると、2025年Q2の米国に輸入されるスマホの国別シェアで、中国は前年の61%から25%に大きく減少。一方、インドは前年の13%から44%に躍進し、米国にもっとも多くのスマホを供給する国になった。言うまでもなく、Appleが中国生産からインド生産にシフトをしたことが大きく貢献している。

AppleはこれまでiPhoneの生産を台湾の鴻海精密工業(ホンハイ、中国ではFoxconn)をパートナーとし、中国のフォクスコン工場で生産をしてきた。中心になっているのは深圳工場と鄭州工場だ。深圳工場でテスト生産を行い、鄭州工場で本格生産するというのが毎年の恒例になっている。
深圳には多数のAppleの部品サプライヤーが集積しており、テスト生産で問題が発生すると、サプライヤーのエンジニアがすぐに駆けつけられる。これにより迅速な解決を実現するわけだ。そして、実際の生産は大規模工場である鄭州工場で行う、というのがAppleとフォクスコンのやり方だった。
ファーウェイが米国のブラックリスト入り。Apple「A」シリーズのライバル「Kirin」は製造中止に
しかし、2019年から米中関係は極めて険悪になっていった。米商務省は中国ファーウェイをエンティティリストに追加。これはブラックリストに入れるようなもので、ファーウェイとファーウェイに製品を納入する企業が米国の製造技術を使う場合、米商務省の許可が必要となった。実質、使用禁止だ。
ファーウェイは、それまでスマホの心臓部であるSoC「Kirin」を設計し、台湾TSMCに製造してもらっていた。このKirinは、AppleのAシリーズと競い合う最先端チップだった。
ところが、この措置により、台湾TSMCがKirinの製造を続けた場合、米国の技術を使った製造装置が使えなくなる。それでは半導体が製造できなくなるため、ファーウェイからの委託製造を停止するしかない。これでファーウェイはSoCが製造できなくなり、一時スマホを発売できないという事態に追い込まれた。
Appleの「China+1」、「3+3」戦略。生産拠点を複数構え、リスクを分散
Appleはこの頃から、俗に「China+1」と呼ばれる戦略を取るようになる。中国に完全依存するのではなく、中国以外にも生産拠点を持ってリスク分散をさせるというものだ。そこで台湾フォクスコンなどは、インドやブラジルに工場を建設したが、なかなかうまくいかなかった。
その理由は、生産に必須の熟練工と機械エンジニアを育てるのに時間がかかるからだ。結局、中国人の熟練工とエンジニアを海外工場に出張させるしかなかった。もうひとつの理由は、工場の周辺にサプライヤーのエコシステムができていないことがある。生産中にトラブルが起きた場合、深圳工場であれば30分でサプライヤーのエンジニアが駆けつけるが、海外工場では生産を止めるしかない。
そこで、Appleは俗に「3+3」と呼ばれる戦略を取り始めた。これは部品サプライヤーを3社体制にするというもの。3社を競わせることで、価格を抑えつつ品質を向上させるわけだ。そして、3社はできれば3カ国に分散させる。これにより、多くの中国サプライヤーが海外に生産拠点を持つようになった。このようにして、海外工場周辺にもサプライヤーを集めようとしている。
加速せざるを得なかったインド生産。問題を抱えながらも5つの拠点が稼働中
しかし、「3+3」の戦略を進める最中にトランプ関税の問題が発生。Appleは無理にでもインド生産を加速せざるを得なくなった。
だが問題は山積みだ。現在、インドにはタタ・グループのホスール工場、カルナータカ工場、フォクスコンのタミルナードゥ工場、デヴナハルリ工場、ペガトロンのチェンナイ工場の5つの拠点がある。
タタ・グループのホスール工場は最新設備が導入され自動化が進んでいるが、そのほかの4つの工場は設備が遅れており、中国から大量の熟練工とエンジニアを招聘せざるを得ない状況だ。また、サプライヤーもインドではまだ少ないため、多くの部品を中国から輸入している。

インドの工場で暴動。中国ではインド産iPhoneに強い反発。生産拠点の拡大は問題だらけ
インド生産は簡単ではなく、Appleは相当に苦労をしているようだ。2020年12月には、インドのカルナータカ工場で暴動が発生。業務車両がひっくり返され、放火され、生産設備も破壊されるという深刻なものだった。
この工場は台湾ウィストロンが運営していたが、あまりの難しさにインド生産を断念し、この工場をタタ・グループに売却したという経緯がある。
それでも2023年に発売したiPhone 15では、インド国内だけではなく、中国と欧州に出荷できるほど生産量があがってきた。しかしインド製iPhoneは、中国の多くの消費者から拒否された。
一部の人は、パッケージにインド製という文字が書いてあると開封せずに返品し、中国製が手に入るまで返品を繰り返したようだ。これにより、2024Q1の中国市場のiPhoneの売上は、前年比19.1%減という厳しい数字になっている。
米国で販売されるiPhoneは、すでに8割がインド産。今後、日本にも入ってくる?
その後、Appleは大幅な割引を行うことで販売量を回復させた。今年のiPhone 17もそうだが、中国市場では、もはやiPhoneが希望小売価格そのままで販売されることはなくなっている。だが同時に、値引き幅によっては爆売れする。2025年は政府の消費補助金があったことで、iPhone 17が過去最高水準で売れているようだ。
インド製はまだ生産の実績が浅いため、良品率で中国製に劣る。といってもその差はわずかなものだ。そもそも検査で弾かれた製品は出荷されないのだから、インド製だからといって避ける理由はない。避けられる理由は「未知のものには過剰に不安になる」という人間心理によるものだ。
現在、米国で販売されているiPhoneの8割がインド製で、2割が中国製という状況になっている。なお、そのほかの地域ではほぼすべてが中国製だ。しかし、インド生産が進展すると、日本などでもインド製iPhoneが販売されるようになることは十分に考えられる。中国ではインド製iPhoneを避ける現象が起きたが、日本ではどうなるだろうか。
iPhoneの原産国の調べ方。iPhone 17以降、ユーザが調べることは困難に
Appleは、この問題にも対応しようとしているかもしれない。iPhone 15やiPhone 16は、充電コネクタのところに小さく生産国(China)という文字が刻印されていた。ところが、iPhone 17からはこの刻印が消えている。

また、以前のシリアル番号には工場のコードが入っていたため、工場コードがわかればそこから生産国が割り出せた。しかし、この工場コードも廃止、あるいはユーザにはわからないような形に変更されている。

機種番号には国別コード(日本はJ/A)が記載されているが、これは販売国のコードに過ぎない。生産国がどこであっても、日本で販売されるiPhoneには「J/A」のコードが入る。
製品の質の担保は、生産国ではなくブランドが担う。明確化される責任の所在
米国や中国では、パッケージに「Assembled in xx」という記載がないiPhoneが一部で出回っているという情報がSNSで話題になっている。生産国を表示しなくてもいいのかと思ってしまうが、電子機器は食品とは異なり、生産国を記載する法的義務はない。パッケージに生産国を記載している製品が多いのは、税関を通す際のわかりやすさを優先しているだけだ。
生産国の記載がないiPhoneが海外で出回っているという情報が正しいのであれば、Appleは生産国を記載しないパッケージをテストしているのかもしれない。
それは、何かを隠蔽しようとしているわけではないと思う。Appleが販売するものはどこで作られていてもAppleが責任を持って販売する。筆者は、そのほうがブランドと消費者の関係が明確になり、責任の所在もわかりやすくなるため、いいことではないかと感じている。さて、みなさんはどうお感じだろうか。

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著者プロフィール
牧野武文
フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。







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