初のアイソレーションキーボード
過去の記事でも扱ってきたが、(建前上も含めて)モバイル状態で使える純正のMacモデルは、古くは1989年のMacintosh Portableに始まり、PowerBookの時代が1991年から15年余り、iBookが1999年から7年続き、2006年に現在の名称であるMacBookを冠したIntelプロセッサ搭載モデルに移行した。具体的には、その年の1月にアルミボディのMacBook Proが、そして、5月にポリカーボネートボディのMacBookがデビューしている。
MacBookは、エントリーモデルではあったが、当時のMacBook Proにはない大きな特徴を備えていた。それは、今では多くのメーカーがフォロワーとなっている、「アイソレーションキーボード」である。
アイソレーションキーボードとは、すべてのキートップが独立していて、隣接するキーとの間に枠が設けられたデザインのキーボードだ。見かけのシンプルさとは裏腹に、キー配列ごとに本体のキーボード面を異なる金型で成形することが必要となる。そのため、コストがかかることを承知でデザインを優先する覚悟がなければ踏み切れない(ちなみに、アルミ切削のユニボディの場合には金型は不要で、切削用のデータ変更のみで済む)。
業界ではじめてWi-Fiアンテナを内蔵した初代iBookもそうだが、Appleは時々、エントリーモデルに最初の革新を持ち込むことがある。MacBookのアイソレーションキーボードも、その1つだった。
少数派カラーのブラックが魅力的に見えた
また、MacBookは、iBookが2001年モデルからテーマカラーとしていたホワイトの外装を基本的には引き継いだものの、最上位の80GBハードディスクモデルのみブラックカラーが採用された。
ブラック基調のボディカラーは1997〜2001年のPowerBook G3シリーズでも使われていたが、MacBookの登場まで5年のブランクがあったため、再び魅力的な選択肢となった。また、ホワイトモデルの表面が艶のあるグロス仕上げなのに対して、ブラックモデルは艶のないマット仕上げになっており、Pro向け製品ではないにもかかわらず、ハイエンドモデルの雰囲気を漂わせていた。
ところが、実際のMacBookのブラックモデルは、その下の60GBハードディスクのホワイトモデルとストレージ容量以外はまったく同一スペックにもかかわらず200ドルも高い価格設定がなされていたため、一部のメディアから、ぼったくりだとして非難される憂き目にあった。しかし、ユーザ心理を熟知しているAppleは、iPodでも売れ行きが好調だったブラックのスペシャルモデルの二匹目のどじょうを狙って、ほかのユーザとは異なるマシンを使いたいという層向けにブラックモデルを用意したわけで、その思惑は見事に当たり、それは人気モデルとなったのである。
たとえば、この春のスペシャルイベントでもiPhone 13/13 Proにグリーン系の新色が加わったが、これも、ほかの人とは違うiPhoneが欲しいというユーザの潜在的な気持ちをくすぐってセールスを加速するための施策であり、Appleは昔からそのような戦術に長けていたのだ。
※この記事は『Mac Fan』2022年5月号に掲載されたものです。
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著者プロフィール

大谷和利
1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、神保町AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。