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従来の液晶や有機ELとは異なる「mini LED」とは何なのか?

著者: 今井隆

従来の液晶や有機ELとは異なる「mini LED」とは何なのか?

画像:Apple

※本記事は『Mac Fan』2021年4月号に掲載されたものです。

読む前に覚えておきたい用語

液晶ディスプレイ その表現力の限界

mini LED」とは、LCD(液晶ディスプレイ)における新しいバックライト技術のことで、LED(発光ダイオード)そのものは液晶パネルのバックライト光源として用いられる。

iMacやMacBook Air、Pro以外のiPadシリーズに搭載されている一般的なLCDのバックライトシステムは「サイドライト型」と呼ばれ、画面の下部、あるいは両サイドの表示エリア外に設置されたバックライトLEDアレイの光を導光板と反射板、光拡散シートを用いてディスプレイ全体に導き、1枚の大きな白色発光パネルを構成している。

LCDバックライトには、液晶パネルの表示領域外に光源であるLEDチップアレイを配置するサイドライト型と、液晶パネル表示の背面にLEDチップを一面に配置する直下型がある。

LCDは、この上に液晶パネルによる画素単位の電子シャッターとカラーフィルタを重ね合わせ、バックライトの透過量を調整することで表示を行っている。LCDのコントラスト比は一般的に2000対1程度が限界とされており、特にHDR(ハイダイナミックレンジ)表現のためにバックライトの輝度を上げた場合、暗部の黒浮きが課題となっていた。

一方、(iPhone SEを除く)iPhoneシリーズやApple Watchなどに採用されているOLED(有機ELディスプレイ)は、各ピクセルが各色に発光する自発光デバイスで、LCDのようなバックライトを必要としない。点灯していないピクセルがまったく光を発しないことから、暗部の表現力や色純度が極めて高いことが特徴で、iPhone 12シリーズの場合、そのコントラスト比は200万対1とまさにケタ違いだ。

このことから、iPhoneで撮影したHDR写真やHDRビデオは、OLEDを搭載するiPhone上では極めてリアルかつダイナミックに描かれるのに対して、サイドライト型バックライトのLCDを搭載するiPadシリーズやMacシリーズでは充分な表現力が得られないという課題があった。

明暗表現力を拡張するローカルディミング

このようなLCDの狭いダイナミックレンジをカバーするために考案されたのが、液晶パネルの背面に光源となるLEDを敷き詰める「直下型バックライト」と、そのLEDを個別に制御することで明暗のダイナミックレンジを拡張する「ローカルディミング」である。

Pro Display XDRのLCDパネル最下層には青色LEDを敷き詰めた直下型バックライトが配置され、画面の明るさに応じて各LEDの輝度が制御される。液晶パネル直下には量子ドット技術を用いた色変換シートが配置される。
URL:https://www.apple.com/jp/pro-display-xdr/

ローカルディミングは別名「エリア駆動方式」とも呼ばれ、明るい部分のLEDをより明るく、暗い部分のLEDを暗く絞ることでLCD全体のダイナミックレンジを拡張するもので、原理上は液晶パネルとLEDバックライトのコントラスト比を積算したダイナミックレンジが得られる。

このローカルディミングを採用したはじめてのApple製品が、2019年に発表された「Pro Display XDR」で、従来のLCDを大きく凌駕する100万対1のコントラスト比を謳っている。

しかし、ローカルディミングにも課題が存在する。数の限られるバックライトLEDと高解像度の液晶パネルの両方を適切に制御して、それぞれのピクセルで正確な明るさと色を再現する必要があるためだ。特に明るい部分と暗い部分が近接しているエリアでは複雑なイメージ処理が必要になり、制御が適切でないと明るさのムラや不自然な描写になってしまう。

そこで、Pro Display XDRでは専用に設計された高性能T−COM(タイミングコントローラ)で、リアルタイムかつピクセル単位でLEDピクセルと液晶ピクセルの最適値を算出し、緻密なコントロールを行っている。

このようなPro Display XDRの優れた表現力をiPadシリーズやMacに展開するうえで欠かせないのが、ミニLED技術だ。バックライトLEDをより小さく薄く高密度で配置することで、iPadシリーズやMacBookシリーズにも搭載可能な直下型バックライトを実現できる。

特にテレビや大型ディスプレイとは異なり、iPadシリーズやMacBookシリーズ用のディスプレイには薄型軽量でかつ低消費電力あることが求められることから、mini LED技術が必要不可欠となる。

ノートパソコン向けのmini LEDバックライトはすでに実用化されており、2020年5月にリリースされた台湾のメーカー・MSI(Micro-Star International)のクリエイティブノートPC「Creator 17)」では、4K解像度の17インチLCDで最大輝度1000ニト、コントラスト10万対1を実現し、ディスプレイHDR1000にも対応している。

台湾のMSIが2020年1月の「CES 2020」で発表した「Creator 17」は、世界ではじめてmini LEDディスプレイを搭載したクリエイター向け17.3型ノートパソコン。4K解像度のLCDを採用し、最大輝度1000ニト、色域DCI-P3 100%をカバーするなど優れた表示性能を持つ。
URL:https://jp.msi.com/Content-Creation/Creator-17-A10SX

これをiPad ProやMacBookシリーズに採用するには、mini LEDのさらなる微細化と省電力化が必要だ。またPro Display XDRで培われたさまざまな高画質化技術が投入され、業界最高水準のディスプレイが搭載されることを期待したいところだ。

台湾のLextar Electronicsが2020年8月にリリースしたミニLEDバックライトパネル。COB(チップオンボード)技術を用いて光学ボード上に直接LEDを埋め込んでいる。左から65インチテレビ用、34インチモニタ用、12.3インチ車載用、17.3インチノートパソコン用。
URL:https://www.lextar.com/en-global/news_center/detail/mini_micro_led_backlighting/?page=1

将来に向けた新技術マイクロLEDとは?

このマイクロLEDは、バックライト技術であるmini LEDとはまったく異なり、LEDを表示そのものに使う自発光デバイスだ。原理的には、OLEDの発光体である有機材料を無機材料に置き換えたもので、焼きつきが起きない、長時間高輝度を維持できるなど、OLEDの弱点を補う特性を持つ。

この方式のディスプレイとしては、イベントディスプレイや街頭テレビなどの大型ディスプレイとして実用化されているが、そのサイズや価格は一般ユーザの手が届くものではなかった。

しかし、近年各社での研究開発が急速に進み、すでにJDI(ジャパンディスプレイ)やシャープが超小型のマイクロLEDディスプレイの試作品を発表している。

Appleはこのタイプの小型マイクロLEDディスプレイを将来のApple Watchに搭載するのではないかと噂されている。さらに技術が習熟してくれば、いずれiPhoneやiPadシリーズなどにもマイクロLEDディスプレイが搭載される可能性も充分考えられる。

いずれにしても、この数年の間にデジタルデバイスのディスプレイ技術は大きな変化の時期を迎えるのは間違いない。そのとき、Appleがどのような製品やサービスで近未来のユーザエクスペリエンスを提供してくれるのか、その日が待ち遠しい。

JDI(ジャパンディスプレイ)が2019年11月に発表したマイクロLEDディスプレイの試作品。サイズは1.6インチ、画素数300×300ピクセル、解像度は265ppi、視野角178度。AppleWatchの画面サイズに極めて近く、今後の実用化が期待される。
画像:https://www.j-display.com/news/2019/20191128_01.html

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著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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