※この記事は『Mac Fan 2020年6月号』に掲載されたものです。
OSのアップデートがあるたびに、絵文字やアニ文字、ミー文字が拡張されている。間違いなく、Appleが力を入れている証拠だろう。ただ、日本ではあまり使っている人が少ないように思える。
なぜ、Appleの絵文字やアニ文字、ミー文字は日本では広まらないのか。これが今回の疑問だ。
Appleが力をいれるアニ文字、ミー文字。しかし、日本で使っている人は“ほぼ見つからない”
ここのところ、OSがアップデートするたびに絵文字やアニ文字、ミー文字の追加が行われている。Appleが、絵文字コミュニケーションに力を入れていることの現れだろう。しかし、どのくらいの人が使っているのだろうか。統計のようなものを見つけることはできなかったが、日本人で使っている人は少ない気がする。
アニ文字、ミー文字は動物や自分に似せた顔などのキャラクターを作り、それが自分の表情と連動して動くというもので、iMessageで音声メッセージをやりとりしたり、FaceTimeでビデオ通話するときなどに使える。

コミュニケーションの活性化に役立ちそうな機能だ。しかしTwitter(現X)を見てみると、「やってみた」「つくってみた」系のツイートはたくさん見つかるものの、日常的に使っている人はごく少ないように見える。また、私の周りでも実際に使っている人はほとんどいない。はたして、皆さんは使っているだろうか。
アニ文字やミー文字は対応サービスが少ない。そして、あまりに“洋風”すぎるのではないか
アニ文字やミー文字はあまり使われていない。その最大の理由は、原則的にiPhoneのみの対応だからではなかろうか。
iPhone同士ならiMessageやFaceTimeなどで楽しめるが、相手がAndroidやWindows PCの場合は使えない。LINEやTwitterなどにも対応しているものの、動画に変換して共有する形なので煩わしさが残る。
もうひとつ考えられる理由が、デザインがあまりにも洋風テイストだということ。日本人にはなじみにくい印象だ。これはあくまで個人的にそう感じているだけかもしれない。ただ、“日本人には身についていない文化行動を取る人”に覚える違和感に少し似ている気がする。
たとえば横文字を過剰に使う人や、海外の文化をなんでもありがたる人など。そんな人たちに対する感情と同じで、少なくとも私は、海外発の“洋風”なデザインに抵抗感を持ってしまう。
日本と海外で異なる感覚。日本人は“表情が豊かすぎる絵文字”を避ける傾向にありそうだ
もちろん、世の中はグローバル化していて、企業でも外国人と一緒に働くというのはもはや珍しいことではない。そのため、このような文化的な違いは年々薄くなっている。抵抗感を覚える人のほうが、すでに少数派なのかもしれない。
また、アニ文字やミー文字までいかなくても、絵文字の中の顔文字でも、日本でよく見る絵文字は限られている。試しに、主要な絵文字から「日本人はあまり使わないもの」と「日本人もよく使うもの」を分けてみたので、下図を参照してみてほしい。

これも個人的な感覚で分類してみたので異論はあるかもしれない。どうも日本人は表情が強い顔文字を避け、表情が大人しいか、あるいはマンガ的表現になっている顔文字を好む傾向があるように思う。
たとえば、それぞれの先頭の「笑顔」を比べてみていただきたい。日本人が一般的に好むのはごくシンプルな笑顔だが、外国人は口を大きく開けた笑顔を好んで使っているように思う。
絵文字情報を集めたサイト「Emojipedia」のブログに掲載されているFacebookでよく使われる絵文字のランキングを見ても、グローバルでは笑顔を表すのに、大口を開けて前歯が見えている笑顔がよく使われている。

しかし、日本人が日本的な使い方で、メッセージの最後にこの絵文字を使ったら、どうだろうか。表情がちょっと強すぎて「好意」「好感」とはまた違ったニュアンスが出てしまう。または感じさせてしまうのではないだろうか。メッセージの内容によっては「嘲笑」のニュアンスが出ることもありそうだ。
日本人の特殊な表情の読み取り方。「Simeji」の調査でも、表情が抑えめの絵文字が好まれる
外国人は相手の表情で感情を読み取るといわれる。それが本当かは別として、少なくとも日本人の表情の読み取り方は少し独特な気がする。たとえば日本の青年向けコミックでは、登場キャラが無表情なことがけっこうある。それよりも状況や絵のタッチ、そして構図で、キャラの感情の動きを読者に想像させようとしている。
場合によっては、シリアスな作品であっても、感情を表す際に三頭身のコミカルキャラとして描かれることもある。また、顔が極度に記号化されることも珍しくない。
日本語入力アプリとして世界中で使われ、テキストによる顔文字入力アプリとしても利用されることの多い「Simeji」が、世界で使われる顔文字のランキングを公式サイトで公開している。これを見ても、日本で好まれる顔文字は、表情が抑えられたシンプルなもののようだ。

日本は目、海外は口で。顔で表情を表すときに重要なパーツ。
テキストによって表現する顔文字は、日本ではじまったというのが定説だ。しかし、海外でも一部の人にエモティコン(エモーショナル・アイコン)と呼ばれる顔文字が使われていた。利用できる文字の関係で、エモティコンは顔を横向きにせざるを得ず、次第に消えていった。
このエモティコンと日本の顔文字を比べてみると、大きな違いがある。それは日本の顔文字は「口がシンプル」あるいは「口がない」ことだ。その一方で、場合によっては眉毛も使い、目の表情がとても豊かである。
ところが、エモティコンは目のバリエーションは少ない一方、口の表情は豊かだ。

そこで、 「日本は目、海外は口で表情を表す」という観点に立って、絵文字やSimejiのランキングを眺めていただきたい。アニ文字、顔文字も口の表情は非常によく動くのだが、目の表情がほとんど動かない。まばたきとウィンクぐらいしか動きがないのだ。どうも、日本人はここに違和感を感じてしまうのではないかと思う。つまり、いわゆる「目が笑ってないよ」と日本人は感じてしまうのである。
各国の文化に根付いた改良を。アニ文字、ミー文字への期待。
欧米人が普段マスクをしたがらないのも、表情を表す器官である口を隠してしまうことに抵抗があるからかもしれない。ハリウッド映画でも、悪役はマスクやマフラーで口を隠していることが多い。表情が読み取れなくなり不気味な印象になるからだろうか。
一方で、日本人は目で表情を読み取るので、マスクにさほど抵抗感がない。逆に、昔の日活映画の悪役はサングラスをかけ、目を隠している。
このグローバル時代に、文化の違いを口にするのもナンセンスなことなのかもしれない。しかし、Appleはそういうことまで研究してアニ文字やミー文字をデザインすると、もっと活用が広がるではないかと思う。コミュニケーションツールとしては画期的な機能なので、もっと普及してほしい限りだ。
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著者プロフィール

牧野武文
フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。