建設現場のDXは“一律導入”では進まない。ナイガイがiPadで実現した、図面管理と現場業務の最適化

2026.06.08 更新 2026.06.05 牧野武文 約6分
建設現場のDXは“一律導入”では進まない。ナイガイがiPadで実現した、図面管理と現場業務の最適化

保温保冷施工工事を請け負うナイガイ株式会社では、約70台のiPadを導入し、施工図面をクラウド化するなど、現場で活用している。さらに基幹システムの入れ替えに合わせて、管理や報告の業務にも活用していく計画だ。発注元大手のiPad導入の波がほか企業に波及し、さまざまな現場のDXへとつながっている。

波及するDX化

DXというと、大企業が中心の印象をお持ちかもしれない。しかしiPadの普及により、規模を問わずDXの波は確実にやってきている。

ナイガイ株式会社は、建築物の保温保冷工事を行う施工会社だ。大規模な建築物では、冷暖房は地下で行い、温水や冷水を各階に循環させている。このとき、配管が剥きだしだと熱損失を起こし、冷暖房効率が落ちてしまう。これを防ぐため、配管に断熱材を施工していく。

ナイガイは大阪・関西万博会場などのほか、各都市のランドマークになるような建築物の多くに携わってきた。同業界において全国展開をしているのは珍しい。一方、ナイガイは約30の拠点を全国に構え、それを強みとしている。

取材に応えていただいたナイガイ株式会社の皆さん。左から、情報システム室・岩田信哉課長、ファシリティー2部・坂橋拓実さん、情報システム室・藤森勉室長。

現場の声からiPadを導入

ナイガイでは、2022年ごろから社内提案制度を実施。そこで「iPadを導入してほしい」という声があがってきた。理由は単純だ。ゼネコンなどではDXが進んでおり、多くの従業員がiPadを持参して現場に入っている。そして、多くの業務をiPadでこなしている。ナイガイの施工管理担当者はその姿を見て、便利さを感じていたわけだ。

しかし、「何に使うの?」という話になった。そこで社内アンケートで用途を調査。結果は3つの要望にまとめることができた。

まずは施工図面の電子化だ。施工管理担当者は、社内会議などを経て各現場に向かう。このとき、現場で使う図面を印刷して持参しなければならない。だが、現場の数や規模によってはA1版の図面が50枚以上に渡ることもある。持ち運びは大変で、出力忘れや取り違えが起きる可能性もある。これをiPadで電子化したい、という要望だ。

また、現場でのスケジュール調整や部材の調整などの作業、本社に戻ってからの報告業務に活用したいという声もあがった。

多くの場合、発注元からナイガイへ、建物全体の施工図面が丸ごと支給される。ただ、ナイガイによる施工に必要なのはその一部だ。そのため、必要な部分だけを選んで出力しなくてはならない。これに時間がかかり、ミスも発生する。しかしiPadであれば、クラウドに図面をアップしておけばいい。また、施工図面にはしばしば変更が入るが、その更新もスムーズだ。なお、図面の管理には「eYACHO」アプリを利用しているという。

「図面にメモ書きができるのも便利です。私はアップルペンシルではなく、指でマークしています。ペンツールが豊富なので、職人さんへの共有事項は赤く囲んで強調したり、と言ったこともできます」(ファシリティー2部・坂橋拓実さん)

紙の図面はA1サイズ(59・4×84・1センチメートル)、一方、ナイガイが導入しているiPad(第10世代)は11インチ(16・5×22・1センチメートル)と小さい。現場で図面を見るとき、この小ささは問題にならないのだろうか。

「あまり気にならないですね。現場では図面全体を見ることはあまりありません。局所的な部分の施工が正しく行われているか、その確認に使うことが多いので」(坂橋)

一方、iPadを使ううえで困っていることもあるそうだ。

「地下や高層の現場では、電波が入らないことがあります。そうするとクラウドにアップされた図面にアクセスできないため、事前にダウンロードしておかなければならないのは面倒ですね」(坂橋)

指示書の例。希望者に対してはApple Pencilの配付も行っているというが、現場で落下・紛失してしまうリスクもあるため、坂橋さんは指で操作するスタイルだとか。図やメモもiPadに指で書いているという。
iPadの利点としてもう一つ挙がったのが、ピンチ操作による拡大/縮小操作のやりやすさ。細かなメモの書き込みも確認も、スマートにこなせる。

iPadの配付は希望制

ナイガイのiPad導入でユニークなのは、全員に活用を強制するのではなく、希望者に配付する仕組みを採用しているところだ。ナイガイの施工管理担当者は、管理職まで含めると100人を超える。しかし、管理職は現場に行って施工図面を見ることは少なく、本社のデスクで施工図面を確認する業務が多い。そのためiPadの必要性はあまりない。

現在、会社全体で合計70台ほどのiPadが導入されており、現場に行くことの多い施工管理担当者を中心に、さまざまな部署の社員に配付されている。すべての施工管理者がiPadを使っているわけではなく、いまだに紙の施工図面を使う人もいるそうだ。

「複数の現場を掛け持ちするのではなく、大きな案件の現場に長期間に渡って詰めている担当者は、紙の図面への課題が発生しづらいようです。社員それぞれがいちばんパフォーマンスの上がるやり方で作業を進める、それが管理側の考え方です」(情報システム室・藤森勉室長)

なお、iPadの導入前には他社製タブレットとの比較検討も行われた。その際、操作性、起動の速さなどのほか、本体やアクセサリの入手しやすさも大きな評価ポイントになったという。

現場に持ち込むため、iPadのカバーは必須だ。耐衝撃性があり、肩から下げるストラップがあり、とさまざまな要求がある。iPadであれば、こういったアクセサリが豊富で、価格も控えめなものが展開されている。

坂橋さんが実際に現場で使用しているiPad。耐衝撃性の強いケース、そしてフィルムは必須アイテムで、iPadの配付と合わせて会社から支給されている。

管理と自由のバランス

デバイスの管理にはMDMツールを活用している。

「位置情報の管理や紛失時のリスクコントロールといった、基本的な管理を行っています。ただ、アプリのインストールは自由にしており、業務に必要なものは積極的に使ってもらう方針です」(情報システム室・岩田信哉課長)

社員が自主的にインストールしているアプリの中で、もっとも数が多いのは「Zoom」だ。現場からでも会議に参加できるようになり、業務の円滑化につながっているという。そのほか、グーグルマップ、マイクロソフト・チームズといった定番アプリも名を連ねる。また、業種特有のものとしては「電子小黒板」アプリがある。報告書などに現場写真を添付する際、工事情報を記載した小黒板画像を自動で合成してくれるというものだ。

今後、ナイガイでは基幹システムの入れ替えを予定している。それとともに、基幹システムと連係する形で調整業務、報告業務にもiPadを活用していく計画があるという。

現場において、パソコンを広げて作業するスペースがあることは少ない。一方iPadであれば、立ったまま図面のチェック、メモ書きなどが行えるのは大きな利点だ。

※この記事は『Mac Fan 2026年5月号』に掲載されたものです。

企業ITを見直すきっかけを、メールでお届けします。

業務端末・IT環境を見直すための視点や、
Appleテクノロジーに関する判断材料をお届けします。