Appleシリコンが採用する統合メモリの仕組みとは何か?
Macの心臓部であるAppleシリコンの最大の特徴は、ユニファイドメモリ(統合メモリ)をその中核に置く、ユニファイドメモリアーキテクチャ(UMA:Unified Memory Architecture)にあります。UMAではメモリを中心として、それを取り囲むようにCPU(メインプロセッサ)やGPU(グラフィックプロセッサ)、Neural Engine(AIプロセッサ)やメディアエンジンなどの処理ユニットが配置され、それらの処理ユニットが共同でメモリ上のデータを処理する構造になっています。
一方、一般的なWindows PCではCPUがシステム全体の管理を担っていて、GPUやNPU(AIプロセッサ)はCPUからの指示を受けてデータの処理を行います。メモリの管理もOSとCPUが主体となり、GPUやNPUに必要な分のメモリを割り当てるシェアードメモリ(Shared Memory)アーキテクチャとなっています。


ユニファイドメモリアーキテクチャのメリットは?
UMAの最大のメリットは、それぞれの処理ユニットがメモリ全体を共有できるため、より少ないメモリで多くの処理を行えることです。つまり同じ処理を、Windows PCよりも少ないメモリで実現できます。
メリットはそれだけではありません。UMAではメモリ上のデータにどの処理ユニットからもアクセスできるため、メモリ上のデータ移動が最小限で済み処理が速くなります。macOSは早い時期からUMAをシステムの中核に組み込んでいたため、Mac上で動くアプリは特に意識することなくその恩恵を受けることができます。
一方、Windows PCの場合はCPUやGPU、NPUなどの処理ユニットの仕様や機能、接続方法などが採用するプロセッサメーカーによって異なります。たとえばIntel、AMD、Qualcommなどがリリースしているプロセッサはアーキテクチャがそれぞれ異なっており、さらにGeForceやRadeonなどの外部GPU(+専用のビデオメモリ)を持つシステムもあります。このためWindowsはハードウェアを抽象化(共通基盤に載せ替える)する必要があり、処理ユニット間のメモリ共有は大きく制限されてしまうのです。
ユニファイドメモリアーキテクチャのルーツは意外なところに
AppleがUMAを発表したのは、2020年11月のMac向けAppleシリコン「M1」の発表時でした。これ以降登場したMac向けのAppleシリコンには、すべてUMAが採用されています。
しかし、実際にはAppleは2013年に発表したiPhone 5s(世界初の64ビットスマートフォン)に採用された「A7」プロセッサですでにUMAを採用していたのです。翌年開催された開発者会議「WWDC14」において、Appleはその事実と利用方法をデベロッパに公開しています。そこではA7がユニファイドメモリシステムとして設計されていること、CPUとGPUがあらゆるメモリやストレージを共有すること、暗黙のコピーが存在しないことなどが示されました。この当時からすでにAppleはUMAの優位性を見越し採用していたことがわかります。

【URL】https://developer.apple.com/jp/videos/play/wwdc2014/603/
iPhoneのプロセッサにUMAが採用された目的は、限られたメモリ資源の有効利用と、メモリ上のデータ移動の削減です。これによって少ないメモリで多くの処理ができるようになるだけでなく、処理速度の向上とバッテリ消費の抑制に大きなメリットが得られます。このUMAの特徴はMac向けのAppleシリコンである「Mシリーズ」に引き継がれ、比類なき高性能と優れた省エネルギー性を両立しているのです。
一方でWindowsでは、長い間CPUとGPUが利用できるメモリは別でした。CPUはメインメモリ、GPUはビデオメモリをそれぞれ専用に持ち、お互いにメモリを融通し合うことは難しかったのです。現在ではCPUにGPUを統合した「iGPU(Integrated GPU)」が主流になり、メインメモリの一部をGPUに割り当てる共有メモリが当たり前になりましたが、Windowsはそれ以前のプロセッサや、ビデオメモリを前提にしたアプリをサポートする必要などから、共有メモリのメリットを活かせるシーンは限られています。
ユニファイドメモリアーキテクチャが支えるMacの圧倒的なスケーラビリティ
そのUMAがその威力をさらに発揮するのが、さらに強力なAppleシリコンである、MシリーズのPro、Max、Ultraといった上位プロセッサです。これらのプロセッサではユニファイドメモリの速度(メモリ帯域)を2倍、4倍、8倍に拡張し、そこにより多くの処理ユニットを載せています。
また、搭載できるメモリ容量も上位モデルほど多くなっており、たとえばMacBook Proに搭載されたM5 Maxでは最大128GBのメモリを最大614GB/秒という高速なメモリバスで接続し、最大40コアのGPUを搭載しています。つまりGPUとメモリ速度がセットで性能アップするため、上位モデルを選択することで性能やユーザ体験がスケーラブルに向上することも、Windows PCに対する大きなアドバンテージになっています。

【URL】https://www.apple.com/jp/newsroom/2023/10/apple-unveils-m3-m3-pro-and-m3-max-the-most-advanced-chips-for-a-personal-computer/
AI処理で強みを発揮するユニファイドメモリアーキテクチャ
最近ではパソコンの使い方もAI利用中心へと変わりつつあります。パソコン上で大規模なAIモデルを動かすには、サイズが大きいモデルを搭載するための大容量メモリが欠かせません。
MacではUMAによって搭載メモリの多く(標準で最大75%、それ以上も可能)をGPUに割り当てることができるため、より高性能な(賢い)AIモデルを少ない搭載メモリで動かすことができます。さらにmacOSはCPU、GPU、Neural Engineのすべてを使ってAI処理を行うことができ、そこでも統合メモリシステムであるUMAが大きなメリットとなっているのです。
