40年続く“全学生PC配付”は、なぜMacBook Neoへたどり着いたのか? 名古屋商科大学に聞く、学びを支えるデバイス選定

2026.06.19 更新 2026.06.15 栗原亮(Arkhē) 約10分
40年続く“全学生PC配付”は、なぜMacBook Neoへたどり着いたのか? 名古屋商科大学に聞く、学びを支えるデバイス選定

名古屋商科大学は、2026年度の新入生全員に「MacBook Neo」を無償配付しました。新しいMacの導入事例として注目されていますが、その背景には1985年から続く全学生への「パソコン無償譲渡制度」の存在がありました。

大学が同じ環境を用意することの意味について、経営学部長の韓尚憲教授と、学生支援部門を担当する青木雄一氏に話を聞きました。

韓尚憲
名古屋商科大学経営学部長・教授。大阪大学大学院で博士(経済学)を取得。経営科学を専門とし、科学的意思決定、ポートフォリオ選択、サプライチェーン最適化、階層分析法などを研究している。

青木雄一
名古屋商科大学 学生支援部門・コンピュータ担当チームリーダー。

全員が同じ環境を持つことが、学びの前提になる

名古屋商科大学は、経営学部、商学部、経済学部、国際学部と大学院を擁する私立大学です。文系中心の大学でありながら、情報化への対応にいち早く取り組んできた背景には、すべての学生が同じスタートラインで学べる環境を整える必要があったと、経営学部長の韓尚憲教授は話します。

「ビジネスを学ぶうえで、パソコンは欠かせません。また、学生が家庭の経済的事情に左右されず、同じスタートラインで学べることを重視してきました」(韓教授)

ビジネス系の大学において、パソコンはレポート作成やプレゼンテーション、データ分析、オンライン講義に欠かせない道具です。近年では、AIやデータ活用を学ぶうえでも、学生が一定水準の性能を満たす端末を持っていることが前提になりつつあります。

この制度の意義が明確に表れたのが、2020年のコロナ禍でした。多くの大学がオンライン授業への急速な移行を迫られる中、名古屋商科大学では、全員が同じパソコン環境で授業を受けられる状態が整っていたため、4月1日から予定どおり新学期の授業を開始できたといいます。

1935年に創立された名古屋商科大学は、マネジメント教育に関する国際評価機関AACSBの認証を取得。大学院では英国のAMBA、欧州のEQUIS認証を取得した国内初の「トリプルクラウン校」となっています。

「学生をはじめ、教員も職員も同じ環境を前提に教育体制を構築してきたため、新学期から大きな混乱なく授業を始めることができました。これは、長く制度を続けてきたからこそ可能だったと思います」(韓教授)

同大学の全学生を対象とした「パソコン無償譲渡制度」は1985年に始まり、1992年にノート型のMacへ移行して以降、現在までMacをベースに続いています。この制度は単なる話題づくりではなく、学生の学びを止めないための基盤であり、教員、職員、学生が同じ前提で教育と学習を進めるための設計でもあったのです。

MacBook Neoは制度を続けるための現実解

2026年度の新入生全員に配付されたMacBook Neoについて、大学では最新モデルであることに加え、Apple A18 Proチップ、8GBメモリ、256GBストレージという構成が、同大学における学修用途に十分対応できると判断しました。

「高度な動画編集や3D制作など、一部の専門的な用途では、より高性能なモデルが適している場合もあります。しかし、本学で学生が日常的に利用するのは、LMS(学習管理システム)である『Google Classroom』や、レポート作成・プレゼンテーション作成などに利用する『Microsoft 365』が中心です。また、データ分析やプログラミングについてもクラウド環境を活用する場面が増えており、MacBook Neoは本学の教育環境において十分な性能を備えていると考えています」(韓教授)

名古屋商科大学では毎年約800人の新入生にノートパソコンを提供しています。そのため機種選定にあたっては、単純な性能比較だけではなく、学生が在学中を通じて安心して利用できること、安定した運用とサポートを継続できること、そしてすべての学生に公平な学習環境を提供できることを重視しているといいます。

学生支援を担当する青木氏は、学生の学びを支える環境づくりを第一に考えながら、機種選定を進めてきたと語ります。

「本学では、学生が学修に必要な環境を安心して利用できることをもっとも重視しています。MacBook Neoは、本学で求められる性能や互換性を十分に備えているだけでなく、信頼性や運用性の面でも優れています。学生の利用実態や教育環境との適合性を含めて総合的に評価した結果、本学にとって最適な選択肢のひとつであると判断しました」(青木氏)

教育機関や法人がAppleデバイスを導入する際、注目されがちなのは端末価格です。しかし実際には、利用期間、管理のしやすさ、サポート体制、セキュリティ、利用者の習熟度、さらには教育効果など、多角的な観点から評価することが重要です。

名古屋商科大学におけるMacBook Neoの採用は、単なる端末の更新ではなく、学生の学びを支える教育環境をどのように構築していくかという視点から行われた選択です。

同大学では、学生全員が同じ環境で安心して学修に取り組めることを重視し、性能、使いやすさ、運用性、サポート性などを総合的に評価したうえで機種を選定しています。今後もデジタル技術を活用した教育環境の充実を図りながら、学生一人ひとりの成長と学びを支える取り組みを推進していくでしょう。

学生が日常的に利用するWord、Excel、PowerPointなどのソフトウェアを支障なく活用できることは、端末選定において重要な判断基準だったと話す青木氏。MacBook Neoは、日々の学修活動に必要な性能と操作性を備えており、同大学の教育環境に適した選択肢となりました。

管理しすぎない運用が、学生の自己管理を促す

興味深いのは、同大学が配付するMacには、個別の事前設定が施されていない点です。800台規模の大量導入にもかかわらず、キッティングなしで配付された背景には、一般的な企業とは異なる教育機関ならではの考えがありました。

「新学期までに迅速に配付するという意味でも、キッティング作業は実施しませんでした。セットアップは学生自身が行うことに意味があると考えていまして、Apple Accountについても大学指定のメールアドレスを使わせるのではなく、学生自身の状況に応じて設定するようにしています」(青木氏)

もちろん、これは放任しているわけではありません。入学してすぐに実施される「情報リテラシー」の授業では初期設定などが案内され、配付される設定マニュアルも毎年内容がアップデートされているといいます。

入学時に実施される「情報リテラシー」の様子。Macの初期設定や学内コンピュータ施設の説明などが行われますが、教員も同じ環境のMacを使うことで質問に答えやすくなっています。

さらに、サポート体制として専用の電話窓口が用意されるほか、学内に設けられた「ラーニングコモンズ」と呼ばれる学修スペースでは、上級生が下級生の相談に乗る体制も整えられています。

「事前にMacが配付されることをアナウンスしてきたことが影響しているのかもしれませんが、入学前からiPhoneを使っている学生は増えている印象です。Appleの環境に慣れている学生であればすぐに使い始められますし、そうでない場合も相談できる体制が整っています」(青木氏)

ラーニングコモンズでは、専門知識を持つ学生スタッフがMacの操作方法やレポート作成に使うソフトの操作、トラブル対応などの相談を受け付けています。

この運用方法は、企業の一般的なデバイス管理とは異なります。しかし、教育機関においては別の意味を持ちます。学生は、これから4年間使う自分のMacを自らの手で設定することで、デバイスを管理する方法を学んでいきます。

また、自分が1年生の頃につまずきやすかった内容について、先輩として下級生の相談に乗るという学びのサイクルも生まれています。つまり、Macを単なるデバイス管理の対象として扱うのではなく、情報リテラシーを主体的に身につける入り口として位置づけているのです。

「学生は個別にトラブルを抱えることもありますが、LMSで質問があった際に、ほかの学生や教職員の手元に同じ環境があれば、相談に答えやすくなります。統一された環境を用意することが、問い合わせ対応や運用負荷の低減につながっている面も大きいのです」(韓教授)

また、同大学では任意で加入できる「安心保証サービス」も用意し、在学中の4年間にわたって修理費用が発生した際の負担を軽減しています。

「大学生活では、持ち運びや長時間の利用によってハードウェアのトラブルが起きる可能性もあります。AppleCareを利用していた時期もありましたが、現在は、こうした保証制度を提供できることを条件として、ベンダーさんと相談することがあります」(青木氏)

AI時代に問われるのは、端末性能よりも学び方

名古屋商科大学では、実際のビジネス事例を題材に課題解決能力を養う「ケースメソッド」を用いた議論型授業を重視しています。学生は事前に資料を読み、授業では自分の考えを述べ、他者の意見を聞きながら意思決定について考えます。この授業形式は、MacでApple Intelligenceを利用できるようになった時代においても、重要な意味を持つと韓教授は話します。

「現在は過渡期であり、これが“正解”だと言える答えはまだありません。ただ、学生に『使うな』と言っても止めることは難しく、社会からの要請を考えてもAIの活用自体は必要です。一方で、本学の授業では発言や議論への貢献が重視されるため、AIの出力をそのまま使うだけでは評価につながりにくいのです」(韓教授)

海外のビジネススクールの大学院でも展開されているケースメソッド形式の授業を学部生向けに実施している韓教授。先進的な学習スタイルと学習環境の整備が国際認証を継続して受けることにもつながっているといいます。

同大学では、コーディングやデータ分析の授業を除けば、授業中にパソコンを使うことは基本的に想定されていません。一方で、韓教授の授業では、AIの出力と学生自身のレポートを両方提出させる試みも行われています。

「今の学生は、AIを検索に近い道具として使い、そこから自分で考えてまとめるなど、従来の学習と重なる形で活用している面もあります。問題はAIを使うかどうかではなく、自分の言葉で説明し、授業の場で発言できるかどうかに移っています。評価方法も、試験やレポートだけでなく、日頃の授業への参加や議論への貢献を重視する傾向が高まっています」(韓教授)

同大学の授業では座席が指定され、席には学生の名札が設置されています。学生は緊張感を持って参加するため、授業中に寝ている学生はほとんどいないと韓教授は話します。

名古屋商科大学が目指すのは、ビジネスの現場でデータやAIを活用しながら価値を生み出せる「文理融合型」の人材育成です。そのために同大学は、早くから情報化に取り組んできました。また、日本への留学生向けに英語のみで科目を履修できるプログラムを用意するなど、グローバル教育にも力を入れてきました。

「日本から欧米に留学する学生も多いのですが、海外にMacを持っていって困ったという事例は、今まで聞いたことがありません」(韓教授)

経営学は、ひとつの正解があるのではなく、多様な意見や価値観の中で判断する経験を積み重ねることが重要だと韓教授は話します。新入生全員にMacBook Neoを配付したことは、その入り口に過ぎません。すべての学生が同じ学修環境を持ち、多くの教員が同じ環境で支援し、学生同士が教え合いながら自分の考えを鍛えていくことが、同大学の教育を支えています。

この実践は、Appleデバイスの導入を検討する教育機関や法人にとっても参考になるでしょう。端末選定は、機種や価格だけで完結するものではありません。重要なのは、どのような学び方や働き方を実現したいのかを明確にし、その目的に合わせて端末、運用、サポート体制全体を設計することです。その指針があってはじめて、デバイスは単なる機材ではなく組織の活動を支える共通の基盤として機能するのです。

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