5月はシリコンバレーの大手テクノロジー企業の開発者会議が開催される。5月1日からFacebook、5月8日からGoogleが、その最新の取り組みを披露した。その発表内容から透ける今年のトレンドと、Appleが取り組むべき課題について考えていこう。
コア機能を各アプリに展開
今年のフェイスブックの開発者会議「F8」は、米カリフォルニア州サンノゼの国際会議場で開かれた。F8開催時、フェイスブックは約5000万人の個人情報が2016年の米大統領選でドナルド・トランプ候補(当時)陣営に不正に利用されていたとされるスキャンダルの渦中にあった。前週、米国議会公聴会で証言に立ったマーク・ザッカーバーグCEOの表情は硬直していたが、F8の基調講演では元気な笑顔で参加者を迎えた。
ザッカーバーグCEOは、フェイスブックを3年かけて改修すると宣言し、より「意味のある関係を取り持つ場」として開発を続けることを表明。発表された新機能のうち注目を集めたのが「デート」(友だち以外とのマッチング)機能だった。ユーザは通常のフェイスブックとは別のデート機能用プロフィールを作成でき、興味があるグループへの参加やイベントへの参加を通じてデート相手を見つけることができる。
今回のF8からは明確な「フェイスブックの戦略」が透けて見えた。それは同社のビジネスモデルは引き続き広告モデルであり、その収益を最大化するため、できるだけユーザをフェイスブックやインスタグラム、メッセンジャーといったアプリの中で過ごしてもらおうとする考えだ。
たとえばインスタグラムには、すでにメッセンジャーやフェイスブックのアプリに採用されているビデオ通話やカメラの拡張現実エフェクト機能が追加された。これまでは、ユーザがインスタグラムの友だちと喋りたくなったとき、フェイスタイムやメッセンジャーなどの別のアプリを開かなければならなかった。また、拡張現実エフェクトを利用する際も、別アプリに頼っていた。このようなアプリ離脱者をできる限りインスタグラム内に留めようとする狙いだ。
また、拡張現実や仮想現実、そして人工知能といった技術に関してもフェイスブックはさらに力を入れていく。たとえば仮想現実に関しては、フェイスブックのアプリでビデオや写真から昔の家の中を再現して思い出を振り返る機能を搭載。日本でも2万円台で購入できるスタンドアロンのVRヘッドセット「オキュラス・ゴー(Oculus Go)」も発売開始した。
人工知能は広範に活用されている。フェイスブックアプリではスパムアカウントの削除やフェイクニュース、政治的な偏りのあるニュースの検出に役立てられており、インスタグラムでは攻撃的なコメントを非表示にする機能に利用されている。
フェイスブックの取り組みは理路整然としてわかりやすく、同社の主要アプリに対して技術がどのように適用されていくのかが明らかだった。
アンドロイドの新機能とは
一方、グーグルの開発者会議「I/O 18」は、米本社の向かいの敷地にある屋外劇場、シューラインアンフィシアターでの開催となった。グーグルは2016年からこの会場を使っているが、世界中から集まる開発者がカリフォルニアの気候を最大限に楽しめ、社員も本社から近く準備も効率的な一石二鳥の開催場所と言える。
アンドロイドの次期バージョンである「アンドロイドP」には、「シンプル」「アダプティブ」「ウェルネス」の3つのキーワードが与えられた。
デザインのシンプル化については、これまでホームスクリーン上部にあった検索窓が下部に移動されてアクセスしやすくなり、iPhone Xの画面下部のジェスチャーに似たホームボタンとアプリ切り替え機能を備えた。
また、これもSiriに搭載されている機能だが、アプリのリストでは状況に応じたよく使うアプリの推薦を行う仕組みを備えた。さらに、よく使うアプリの中の機能まで推薦するよう になる。アダプティブとは、順応という意味。たとえばユーザの端末使用パターンを学習し、バッテリ効率を高めたり、ディスプレイの明るさを調整する機能を備える。
そしてウェルネスは、6割ものユーザが改善したいと考えているスマホ中毒に対抗するアプローチだ。ダッシュボードでスマートフォン自体、あるいはアプリごとの使用時間の統計を表示し、自分がどのようにしてスマホやアプリを使っているのかを知ることができるようになる。それだけでも、自分がどれだけスマホを使いすぎているのかがわかり、改善の必要性を認識できる。
また、たとえばユーチューブは1日2時間と決めたらその制限時間を通知する機能や、就寝時間になると画面が白黒になるなど、「時間を忘れてスマホ」という状況を防ぐ工夫が用意される。
Android Pは、「Intelligence」「Simplicity」「Digital wellbeing」が3つの柱となる。中でも、さまざまな機能にAIが活かされており、App Actionsという機能ではユーザの行動を分析して次に行いそうな操作をホーム画面に表示してくれるほか、よく使うアプリの中の機能までサジェストしてくれる。 photo●https://events.google.com/io/
未来の凄みを見せた
アンドロイド以外の新機能については、アプリのアップデートによって、今後iPhoneでも利用できるようになる機能もある。
たとえばグーグル・マップでは、家族や友人とお店を選ぶ際にすぐにリストを作って投票してもらったり、AR機能を使ってカメラの映像に矢印を重ね、どちらに曲がったらいいかよりわかりやすくする機能が追加される。
また、iPhoneユーザにもファンが多いグーグル・フォトには、被写体が何かを解析したり、写真の中の文字列を認識する「グーグル・レンズ」機能が追加されるほか、写真に対して最適な補正や共有相手を提案する機能などが追加された。
I/O 18の基調講演の中で、最も熱狂と批判を呼び起こしたのが、音声アシスタントが自動的に電話をかけてお店の予約を取る「グーグル・デュプレックス」というデモだった。サンダー・ピチャイCEOは、米国の小規模ビジネスの6割がオンライン予約に対応していないと指摘し、その問題解決のために電話で会話ができる能力を人工知能アシスタントにもたらした。
あまりに自然で相手が機械だと気づかないうちに電話を済ませるデモに会場からは驚きの声が上がった一方で、機械音声の発展は、現在米国で急増しているスパムメールの電話版「ロボコール」への活用や、クレームや別れ話など都合の悪い電話をアシスタントに任せるといった使い方などを想起させ、この技術に対して「独善的な発展」との批判もあがった。
アップルは何を示すか?
フェイスブックとグーグルの開発者会議を見るまでもなく、現在のシリコンバレーの技術トレンドの中心は人工知能や機械学習の分野だ。開発者会議は、数少ない貴重な人工知能科学者に対するアピールの場でもある。インパクトで言えば、グーグルは進行中の人工知能の研究が、日々のアプリに活かす段階に来ていることを多方面から示した。
また、新しいデジタル表現の面ではフェイスブックに軍配が上がる。仮想現実、拡張現実を着実にプラットホームの中に持ち込み、コミュニケーションが楽しくなる仕組みへと昇華させた。
これらの取り組みを比較すると、アップルはSiriや拡張現実、写真アプリ、地図など揃えるものの、技術面では楽しさや驚きに欠け「実直さ」しかない。また、株主からの要求が上がっている子どものスマホ中毒への対策についても、グーグルが先んじて取り組みを見せた。
アップルは6月4日から開催される世界開発者会議WWDC 2018で、iOSやmacOSなどの最新ソフトウェアや、開発者向けの最新APIを披露する予定だ。ハードウェアは9月に発表されることが恒例となっているが、OSや開発環境で、アップルが魅力的なプラットホームである点をいかにアピールできるかに焦点が集まる。
特にiOSの次期バージョンでは、前述のとおりスマホ中毒に対する対処の機能や、カメラを用いたVR・ARに関するセンシング、そしてなによりSiriの発展に注目していくべきだろう。
今年のAppleの世界開発者会議(WWDC)は米国時間6月4日からサンノゼで開催される。【URL】https://developer.apple.com/wwdc/