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ノートPCにも負けない新iPadの進化

ノートPCにも負けない新iPadの進化

新たなスタンダード

3月27日(現地時間)に米国シカゴの高校で開催されたスペシャルイベントにおいて、第6世代目となるiPadがお披露目された。新製品の発表を、教育市場という明確なターゲットに向けたイベントで行うのは異例のことだ。また、教育機関向けのディスカウントなど大量導入を見越した戦略的な低価格設定も従来のアップルにはあまり見られなかった動きと言える。

エントリー向けの低価格モデルとはいえ、新型iPadは性能自体が“廉価版”ではない。確かにスペックだけに注目すれば、本体サイズや外観はもちろん、ディスプレイサイズや解像度、メインカメラの画素数など、基本設計は前モデルを踏襲している部分が多い。

しかし、処理性能を司るプロセッサが「A9」から「A10フュージョン(Fusion)」にアップグレードされるなど、要所要所でARコンテンツといった高度なグラフィックス処理に支障を来さないようパワーアップが施されている。いくら価格が安くても巷に溢れる「格安PC」のようにユーザ体験を損なっては元も子もない。iPadこそがすべてのユーザにとって必要十分な性能を備えたスタンダードモデルだとアップルは考えているのだろう。

また、今回のアップデートの一番の注目点がアップルペンシルへの対応だ。これまでクリエイター向けのハイエンドモデル・iPadプロでしか利用できなかったアップルペンシルが、エントリー向けのiPadでも利用できる。それでいて価格は据え置きであるため、教育関係者に限らず多くのユーザにとってメリットが大きい魅力的なモデルとなっている。

価格は据え置きだが性能は“廉価版”ではない新型iPad

外観上の変更は軽微

では、新しいiPadの詳細を確認していこう。ユニボディのアルミ外装や、正面や背面、側面から見た際のデザインや寸法については前モデルと共通だ。Wi-Fiモデルで469グラム、Wi-Fi+セルラーモデルで478グラムという重さについても変わらない。とはいえ、iPadプロ10.5インチの469グラム(Wi-Fi)、477グラム(Wi-Fi+セルラー)と比べるとわずかに軽く、本体サイズも横幅で4.6ミリ小さいため持ち運びの負担を感じにくい。カラーバリエーションは3色のままだが、ゴールドについてはややローズゴールド寄りの色味に変更されている。

背面のiSightカメラの画素数は8メガピクセル(1080p HDビデオ)と基本性能は前モデルから据え置きだ。とはいえ、iPadプロとは異なりレンズの飛び出しがないため、特にWi-Fiモデルのスッキリとしたデザインを好ましく感じる人も多いだろう。そのほかWi-Fi+セルラーモデルについては、背面上部のアンテナ受信部に樹脂パーツが用いられているほか、右側面下部にナノSIM挿入用スロットが装備されるという違いがある。

NEW iPadの概要

(1)1.2メガピクセルFaceTime HDカメラ/(2)ホームボタン/Touch IDセンサ/(3)音量を上げる/下げる/(4)電源オン/オフ、スリープ/スリープ解除/(5)3.5mm ヘッドフォンジャック/(6)マイクロフォン/(7)内蔵ステレオスピーカ/(8)Lightningコネクタ/(9)8メガピクセルiSightカメラ

*iPad Pro本体左側面にあるSmart Keyboardを接続するための接点「Smart Connector」はない。

●スピーカ

4スピーカ搭載のiPad Proには、本体上部と底面に合わせて4カ所の開口部がある。一方、新しいiPadでは2スピーカのため底面のみ。

●Apple Pencil

iPad Pro同様に、Apple Pencilをサポート。価格は1万800円で、教育機関向けには9800円で販売される。

●付属品

iPad本体のほかに、Lightning-USBケーブル、USB電源アダプタが付属する。

●カメラ

iPad Pro(上)と異なりレンズ部分の飛び出しがなくフラットに。True Toneフラッシュは搭載されていない。

●価格(学生・教職員は2000円の割引!)

●32GB(Wi-Fi):3万7800円

●128GB(Wi-Fi):4万8800円

●32GB(Wi-Fi+LTE):5万2800円

●128GB(Wi-Fi+LTE):6万3800円

●カラー

スペースグレイ、ゴールド、シルバーの全3色。ゴールドの色味が新しくなっている。前面パネルと背面のLTE受信部(Wi-Fi+LTEモデル)はスペースグレイのみがブラック、それ以外はホワイト。

プロとの性能差が近づく

次に、iPadのラインアップがどのようになったのかを整理してみよう。まず、2017年6月にモデルチェンジした現行のiPadプロは12.9インチモデルに加え、10.5インチモデルが存在する。ディスプレイサイズがiPadよりもひと回り小さい7.9インチのiPadミニ4は2015年の発売から更新されておらず、現在となっては少々世代遅れ感が否めない。新しいiPadはその中間に位置し、性能と価格のバランスがもっとも優れたシリーズとなる。

さらにiPadの各シリーズは、通信方式がWi-FiかWi-Fi+セルラーモデルかという違いに加え、ストレージ容量の違いによって本体価格が変わる。ただし、128GBの容量を持つiPadミニのWi-Fiモデルが4万5800円であるのに対して、同じ128GBのiPad Wi-Fiモデルは4万8800円といったように、その差はわずか3000円。コストパフォーマンスという観点からは新しいiPadの優秀さが見て取れる。また、以前よりもiPadプロとの性能差は小さくなっている。

iPadシリーズの仕様一覧

iPadプロと比較して

さて、本体サイズや基本スペック、価格の違いを踏まえたうえで、実際に購入を検討する際に気になるポイントを見ていこう。まずiPadプロとの比較で気になるのがディスプレイの画質、スピーカの音質、総合的なグラフィック描画といった点だろう。結論から言えば、このいずれもがiPadプロに軍配があがる。

とはいえ、その違いが感じられるのはシチュエーション次第だ。たとえば、iPadプロにはディスプレイ表面に光の反射を抑えるコーティングが施され、周囲の光に合わせて輝度やコントラスト、色温度などを自動で変更できる「True Tone」テクノロジーが搭載されている。この機能が活きてくるのは直射光が差し込む明るい部屋などであり、一般的な光源下でのWEBブラウジングや動画視聴などではiPadプロとiPadでその差を感じることはあまりない。

●ディスプレイ

iPad Pro 10.5インチ(下)とiPad 9.7インチ(上)を比べたところ。覗き込む角度によっては、iPadは表面ガラスと液晶パネルとの間にある空気層がわかる。フルラミネーションディスプレイを採用したiPad Proでは、反射防止コーティングの効果もありディスプレイの一体感が高い。ただし、正面からの視聴ではいずれもRetina解像度を持ち、大きな差を感じさせない。なお、ベゼル部分はiPad Proのほうが黒く、比べるとしまって見える。アルミニウム一枚板から削り出して作られたユニボディの処理方法も変わっており、iPad Pro(下)のほうが輝いている。

iPadの9.7インチディスプレイの解像度は2048×1536ピクセル。10.5インチのiPad Proは2224×1668 ピクセルなので画素密度は264ppiと同等。リフレッシュレートが60HzとiPad Proの半分だ。

一方、デジタル一眼カメラやiPhoneから読み込んだ高精細な写真や4K動画を編集する際には、広色域で色彩を鮮やかに表示できるP3カラー対応ディスプレイを搭載したiPadプロのほうが作業の精度が高まる。そこまでシビアな作業を必要としないならば、iPadでの写真・動画の取り扱いは快適そのものだ。

アップルペンシルの操作性に関しては手書きや図形描画などではiPadプロとの違いはほとんど感じられない。しかし、ペイント系アプリや漫画のドローイングなど繊細なペンさばきが求められる作業では、可変フレームレートで描画の遅延を最大20ミリ秒まで短縮できる「プロモーション」機能に対応したiPadプロのほうがイメージどおりの描線を引ける。

●Apple Pencilの 書き心地

手書きで文字を書いたり図形を描くといった使い道ではiPad Proと比べて遜色はない。ペイント系アプリで細かなイラストを描く際には、毎秒60ポジションという処理速度の関係からペン先の追随が若干遅れることも。アプリの最適化が進めば解消する場合もあるだろう。

音質についても単体で迫力あるサウンドが楽しめるiPadプロの4スピーカと比較してしまうと、iPadは正直なところ物足りなさを覚える。また、横向きのランドスケープモードでは片側にスピーカが集まるためステレオ感がやや乏しくなる。ただし、日常的に音楽や映像を大きな音量で楽しむ人は少数派だろう。ベッドサイドでWEB動画を楽しんだりする分にはまったくストレスを感じない。

●サイズ

iPad mini、iPad、iPad Pro 9.7インチ、iPad Pro 12.9インチと比較したところ。iPad Pro 12.9インチの大きさが際立つ。

iPad Pro 9.7(右)と比べたときには若干サイズが大きくなっているのをどう判断するか。高さの違いはわずか0.09mm。旧iPad 9.7インチとはサイズは同じだ。

●Touch ID

iPad Proに搭載されている第2世代のTouch IDは非搭載。そのためスペック上は指紋の読み取りと認証までのスピードは約半分程度となるが、iOS側の最適化が進んだためか実際のところそこまでの差は感じられない。

●バッテリ

バッテリ容量は32.4Wh(3.75V換算では8640mAh)と前モデルのiPadと変わらないが、性能アップした部分を考えると省電力化が進み、効率が向上していることがわかる。Wi-Fi接続時でインターネット利用、ビデオ・オーディオ再生が最大10時間を維持している。

使ってみてわかる改善点

iPadプロと比較すると力不足の感も否めない第6世代iPadだが、より細かな部分を見ていくと第5世代iPadからの改善点やiPadミニ4と比べた際のアドバンテージが鮮明になってくる。

たとえば、ワイヤレス通信機能。Wi-Fiやブルートゥースの規格自体は前モデルと共通だが、Wi-Fi+セルラーモデルのデータ通信は第5世代iPadやiPadミニ4では最大150Mbpsであったものが、第6世代では300Mbpsと実に2倍も高速化している。外出時のインターネット利用ではこの違いは大きなポイントとなるはずだ。

●ネットワーク

新しいiPadのWi-Fiは802.11acに対応し、2.4GHz/5GHzのデュアルチャンネルと複数アンテナによるMIMOを利用できる。接続速度は最大866Mbpsとなる。Wi-Fi+セルラーモデルは4G LTEアドバンストに対応し、接続速度は最大300MbpsでiPad Proの最大450Mbpsよりは低速だ。

また、アップルペンシルはもちろん、サードパーティ製のスタイラスペンもサポートするようになったことから、入力デバイスの発展性は圧倒的に新しいiPadが有利。たとえば、スペシャルイベントでも紹介されたロジテック(国内ではロジクールブランド)の「クレヨン」は筆圧検知こそないもののアップルペンシルの半額だ。その名前のイメージよりもはるかに高機能で、傾きセンサにより線の太さなどが調整できる。

また、ブルートゥース関連のデバイスは外付けキーボードをはじめ、スピーカ、ヘッドフォン、イヤフォンなどすでに豊富な製品が存在する。テキスト入力を頻繁に行う人はソフトウェアキーボードに不満を感じることもあるので、これを機に外付けキーボード導入を検討してみるのもよいだろう。

●アクセサリ

Logitechの「クレヨン」は、49ドル99セント(約5300円)とApple Pencilの半額程度。教育現場向けに充電時にキャップが取れない設計になっているなど工夫がユニークだ。国内未発売。【URL】https://www.logitech.com/en-us/edu/ipadsolutions/crayon

Smart Keyboardには非対応だが、既存のiPad向けBluetoothキーボードが利用できる。写真はiPad向けの「Logicool Slim Folio Bluetooth」(【価格】1万2800円)。

本体サイズは前のモデルから変更ないこともあって、多くのiPad向け周辺アクセサリがそのまま利用できるメリットがある。「iPad Smart Cover」(【価格】4800円)は(PRODUCT)REDを含めた5色展開。

買いか待ちか

駆け足で新しいiPadの特徴を見てきたが、やはり最大の魅力はその低価格に尽きる。ハードウェアのスペックこそiPadプロに一歩譲るものの、第5世代のiPadと比べればCPUが最大40%、グラフィックスが最大50%高速化しているなど基本性能に不足はない。さらにアップルペンシルやサードパーティのデバイス類で欲しい機能を補えることを考慮すれば、死角はないとも言える。

●パフォーマンス

「GeekBench 4」でiPad搭載のA10 Fusionの性能を測ったところ、A9Xを搭載した先代のiPad Pro 9.7インチを上回り、A10 Fusionプロセッサを搭載するiPhone 7/7 Plusと同等のパフォーマンスを発揮した。なお、前モデルのiPadからは約1.3倍の性能向上となる。

同じくGeekBenchでGPU(Metal)のベンチマークを実施。こちらも前モデルからは約130%程度のスコアをマーク。現行のiPad Proと比較するとグラフィックス性能はおよそ半分程度だ。3DゲームなどはiPad Proが適しているだろう。

新しいiPadには64ビットSoC(システムオンチップ)であるA10 Fusionチップが搭載されている。詳細は公表されていないが、ベンチマークの結果から、クアッドコアで動作クロック数は最大2.33GHz、メモリ(RAM)の容量は2GBと推測される。このことから、ほぼiPhone 7と同等のスペックと見られる(iPhone 7 PlusはRAMが3GB)。

もし、すでに現行のiPadプロを利用しているのであれば買い替える必要はないが、たとえば家族用に2台目、3台目のiPadを買い与えるのであれば最適なモデルであり、家庭でのデジタルデバイドを埋める起爆剤ともなり得るだろう。

また、iPadプロほどの性能は必要としないが、日常的に古いモデルのiPadを使い続けているユーザにとっては絶好の買い替えのタイミングだ。さらに、まだiPadを使ったことがないという人にとっては最高の「ファーストiPad」となるだろう。