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新店舗「Apple 新宿」は“お店”から“街の広場”へ

著者: 氷川りそな

新店舗「Apple 新宿」は“お店”から“街の広場”へ

4月7日にオープンしたApple 新宿。国内では実に4年ぶりとなる新店舗は、最新のApple Store体験を提供するべく数多くの「日本初」が導入されている。その仕組みや設計理念を読み解いていこう。

今度は新宿へ

4月7日、アップルは東京都新宿区に新たな直営店「アップル新宿」をオープンさせた。国内では9店舗目、都内に限ってみれば銀座、渋谷(現在改装休業中)、表参道に続く4店舗となる。新店舗の中に一歩踏み入れると、我々が普段見慣れている従来のアップルストアとは大きく異なるデザインで設計されていることに気づかされる。

正面の全面ガラスは従来のスタイルを踏襲しているが、床材は砂岩タイルから、より明るい白基調の大理石に、天井もLEDシーリングライトと白い布材で構成された。壁面も本社にあるスティーブ・ジョブズ・シアターで採用された石灰岩が使用されていると見られ、店内の明るさがより際立つ意匠になっている。周辺機器やアクセサリ類は「アベニュー」と呼ばれる壁面に用意されたスペースに配置されており、16個あるテーブルには主力製品が必要最低限だけ展示並び、非常にシンプル。これによって店内はすっきりとして、非常に開放感を与える印象になっている。

新宿三丁目駅に隣接するマルイ本館の1階を、大きく占有する形で作られたApple 新宿。37メートルにも渡る巨大な全面ガラスと、ソヨゴ樹木があしらわれたフロントデザインは、新宿のランドマークになるだろう。【住所】東京都新宿区新宿3-30-13新宿マルイ本館

変わっているのは見た目だけではない。アップルは2016年6月にアメリカ・サンフランシスコにオープンしたユニオンスクエア店を皮切りに、アップルストアを単に商品を販売する小売店ではなく、その役割を「タウンスクエア(人々が集まる街の広場)」と呼ばれるものへと大きく軸足を変えている。

新宿店の中に足を踏み入れると正面に現れる巨大なディスプレイは、まさにこの象徴だ。視界いっぱいに広がる約160インチサイズの大画面の手前には木製や革製の椅子がたくさん用意されており、誰でも自由に使うことができる。また、このスペースはアップルストアがもっとも力を入れている「トゥデイ・アット・アップル(Today at Apple)」が開催される場所でもある。

トゥデイ・アット・アップルはアート、写真、音楽、ビジネス、コーディングなどさまざまなジャンルやトピックを取り扱い、幅広い層をターゲットに展開するワークショップだ。「体験型」を重視しているのが特徴的で、店外に出て外の景色を写し出す「フォトウォーク」「スケッチウォーク」や、プロのミュージシャンから提供された楽曲を使って音作りを探求する「ミュージックラボ」、期間限定で開催されている「家紋」デザインセッションなど、制作を通じて学ぶ機会が提供されている。

ほかにもクリエイティブ担当のスタッフが音楽やアートワーク、コーディングなどをリアルタイムでライブセッションを行うなど、多い日では40以上のプログラムが店内で提供されるという。すでに世界中でのべ4万人以上が参加しているという実績からも裏づけられているが、購入目的以外でもアップルストアに訪れたくなるという新たな付加価値を生み出している。

Apple Storeは世界で24の国と地域にあり、500店舗以上を持つ世界有数の直営店ビジネスに成長した。新宿を含めてまだ10店舗しかないというこの新世代のデザインが、次のApple戦略を大きく担っていく。

導入される新テクノロジー

体験を重視した設計はほかにも随所に見受けられる。たとえばアベニューに陳列された商品の多くは、実際にトライアルができるものが多い。展示されているiPhoneケースや知育玩具などを自由に試せるのはほかの店舗でもすでに始まっているが、同時に4台のヘッドフォンに音楽を流しながら聴き比べができるエリアが用意されているのは、国内ではまだ新宿のみだ。また、設置してあるiPhoneで「ホーム」アプリを操作すると壁に設置してあるディスプレイに表示された室内で実際にホームキット(HomeKit)対応製品がどのように動作するのか体験できるエリアがあり、これは世界中のストアでもまだほとんど導入事例のない珍しいものだ。

さらに、展示の仕方にも最新のテクノロジーが投入されている。シンプルさを売りにするアップルストアでもテーブルに設置されたデモ機にはセキュリティケーブルがつながれているのが通例だった。しかし、iPhoneには新たにワイヤレスのセキュリティシステムが導入され、ケーブルが必要なくなったという。小さな変更点ではあるが、店内であればどこに持ち歩いても構わないため、購入を検討しているiPhoneの機能を試したり、ケースなどのアクセサリ類を検討するのに直接合わせたりといったことを制約なく自由に行うことができるのである。

ほかにもテーブルには従来まであった床面の電源ケーブルの接続が巧妙に隠され、非常にすっきりとしている。展示機との接続もテーブル面に設置された特別な端子を使っているためケーブルも乱雑にならずシンプル。また、外部電源や有線でのネット接続を必要とする場合には一部のテーブルに用意されているものが使用できるが、こちらも未使用時にはジェスチャ操作で内部に収納され、フラットなテーブル面としても利用できるように設計されている。

これらは完全にオーダーメイドで作られた専用什器であり、必要とされる機能を一切失うことなく同時に今まで以上のシンプルさを表現するために新しいテクノロジーを積極的に組み込んでいる。こういったこだわりの部分が見えるのもアップルならではといえるだろう。

Apple 新宿店内図

(1)6K解像度のディスプレイウォール

店内中央に大きく用意された巨大なディスプレイは、セッションなどで使用。複数の画面を表示にも対応している。

(2)セキュリティケーブルがなくなったiPhoneエリア

iPhoneにはワイヤレスセキュリティ機能が用意され、店内を持ち歩いて自由に試すことが可能になった。

(3)インテリジェントな仕組みを持つテーブル

一部のテーブルは電源と有線でのネットワークが利用可能。未使用時はジェスチャ操作で内部に収納される。

(4)陳列の美しさと体験が同居するアベニューエリア

壁に沿って美しく並べられた周辺機器のほどんどが、自由に試すことができるトライアル機能を備えている。エリアはそれぞれ写真や音楽、健康、ゲーム、ホームといったテーマを持っているのも特徴だ。

(5)タウンスクエアスタイルのフォーラムエリア

新しいフォーラムにある木製のボックス椅子の中には、革製の2種類の椅子も用意され、自由に利用できる。

日本への投資が加速する

国内では表参道以来約4年ぶりの新規開店となった新宿だが、そのオープンにかける期待感はアップル社内でも強いようだ。実際オープン前にメディア向けに提供された内覧会でもシニア・マーケットリーダーのダニー・トゥーザ氏がこの日のために来日し、ストアのデザインコンセプトやトゥデイ・アット・アップルにかける意気込みなどを熱く語っていた。

また、公式サイトでも異例の予告ティザーが公開されているとおり、年内に京都とさらにもう1店舗(情報筋によれば東京都内)と、続々と新しいストアがオープンする。ダニー氏によればアップルは今後5年間で大きく成長が期待できる都市を調査、ピックアップしており、そのうちのトップ10に多くの日本の都市が上がっているという。そのため今後5年間かけて日本に大規模な投資を行うと説明してくれた。これは新店舗のオープンだけでなく現在改装中の渋谷のように既存店をリニューアルし、最新のデザインへと進化させていくことも含まれているようだ。

15年前に最初のインターナショナルストア出店先として選ばれたのが銀座だったように、アップルが日本にかける想いや期待が強いのは間違いない。新宿のオープンを皮切りに新しい世代の「アップルストア体験」が数多くの場所で提供されることを期待したい。