データベース・モバイルアプリ開発プラットフォームの「FileMakerソリューション」は、医療機関で広い支持を集めている。2017年2月に開業した婦人科及び不妊症専門病院「オガタファミリークリニック」もこのFileMakerを中心とした院内システムを導入しているが、そこには医療の人為ミスを防ぐための工夫が凝らされていた。
人為ミスをどう防ぐか
婦人科・不妊治療を専門に扱うオガタファミリークリニックでは、診療支援や検体管理にファイルメーカーソリューションで構築したシステムを導入している。不妊治療では、卵子や精子、胚といった検体の取り違えが絶対に起きないことが必要だが、このクリニックでは、取り違えを確実に防ぐ仕組みをファイルメーカーで実現していた。
同院では患者の情報をバーコードで管理しており、検体の容器にバーコードを貼って管理する。検体を扱うときはこのバーコードを読み取って取り違えを防いでいるが、通常のバーコードリーダで赤外線を照射することで検体に何らかの影響を与える恐れも無視できない。そこで同院では、iPhoneのカメラでバーコードを読み取り、ファイルメーカーのモバイルソリューションである「ファイルメーカーGo」で認証管理を行っている。この認証管理システムでは、対象患者と異なるバーコードを読み取った場合にエラーが出るだけでなく、胚の培養・凍結・融解・移植において工程に誤りがあった場合にもエラーを出す仕組みになっている。医療ミスを決して起こしてはならないという気負いは医師にストレスをかけるが、人為ミスを防ぐシステムを設けることで医師の精神的負担を軽減している。
一方、診療支援システムは、同院の緒方誠司院長が自らファイルメーカーで開発した。開業が決まってから開発を始め、わずか2カ月で運用できるレベルのものを作り上げたという。現在も、緒方洋美副院長・培養部門部長をはじめ、10名を超えるスタッフの意見や要望を聞きながら改良を続けているそうだ。
同院はほかにも、システムロードの電子カルテ「RACCO」や日本医師会標準のレセプトソフト「ORCA」、オフショアの診療予約・受付メールシステム「アットリンク」を導入している。ファイルメーカーのデータベースはファイルメーカー・サーバ内に保存され、電子カルテとはODBC(マイクロソフトが開発したデータベース接続のプロトコル)で接続されている。
兵庫県芦屋市のオガタファミリークリニックは、2017年2月に開業したばかり。FileMakerでシステムを開発した院長の緒方誠司氏(右)と、副院長で培養部門部長の緒方洋美氏(左)。【URL】http://www.ogatafamilyclinic.com
柔軟性とコストメリットの両立
同院ではさらに、患者の卵子や精子をチェックするための顕微鏡システムにもiPhoneを活用している。マイクロネットの「i-NTER LENS MR-6i」は、各社の顕微鏡にiPhoneを取り付けられるアダプタで、iPhoneのカメラで撮影することで、低コストで高画質のデジタル画像保存ができる。そのうえ、専用アプリ上で画面を拡大すれば、顕微鏡の視界をさらに拡大することも可能だ。このシステムで撮影した写真や動画を電子カルテに追加したり、アップルTVを使ったミラーリングにより汎用ディスプレイでのモニタリングを可能にしている点など、柔軟な運用を行っているのも同院の特色だといえる。
そもそも同院がファイルメーカーソリューションを採用したのは、緒方院長が開業前に勤めていた病院のシステムを参考にしたためだ。その病院でもファイルメーカーによるシステムが構築されており、ほかのシステムを検討することは念頭になかったという。「柔軟性のあるファイルメーカーシステムを導入したことで、安価でありながら専用システムより高性能なものができ、さらに可搬性に優れたiPhone/iPadも取り入れたことで、システム構築費を半分程度まで落とすことが可能になった」。緒方院長は、現在のシステムのメリットをそう分析した。開発の柔軟性こそがファイルメーカーシステムの大きな強みであり、これからも多くの医師に受け入れられていくだろう。