iPhoneやiPadのプッシュ通知は、仕事の効率を高めてくれる機能である。しかし、これが集中の邪魔をして振り回されてしまうという人が意外にも多い。だが、ちょっとした設定のコツをつかめば、通知の使い勝手を大きく改善できる。うるさい通知を静かにさせるにはどうすればいいのか? これが今回の疑問だ。
便利か邪魔かは運用次第で変わる
あるIT企業のエンジニアから「スラック(Slack)などの社内SNSを導入したら、かえって仕事の効率が落ちた気がする」というボヤキを聞いた。ありえる話だ。スラックやシスコスパーク(Cisco Spark)といった社内/グループ内SNSは、本来は仕事の効率を飛躍的に高めてくれるツールなのだが、一歩使い方を間違えると、効率を低下させてしまう危険性を秘めている。
といっても、簡単なことに気をつけるだけでいい。1つは「すぐに返事をしなくてもいい」、もう1つは「余計なメッセージを出さない」。この2つのルールを守るだけだ。
すぐに返事をしなければならない空気がその集団に蔓延していると、どんな仕事をしていても中断して返事を書くことになってしまう。これでは仕事に集中できるわけがない。スラックなどの非同期コミュニケーションツールの利点は「非同期なので、自分と相手の集中を邪魔しない」ことなのだから、自分のペースで仕事の区切りがついてから返事をすればいい。
急ぎの用事で、相手の集中を邪魔しても割り込まなけれならない要件があるときは、仕事なのだから同期コミュニケーションである電話やフェイスタイムを使えばいいのだ。
もう1つの「余計なメッセージを出さない」というのは、たとえば、資料をグループ全員に共有すると「受け取りました。ありがとうございました」と返事を返してくる人がいる。丁寧で礼儀正しいとは思うが、これはかえって迷惑。10名のグループだったら、最悪9通の「ありがとうございました」が返ってくることになり、iPhoneのプッシュ通知が鳴りっぱなしになる。このような不要なメッセージを送らない感覚を共有する必要がある。
集中したいときはiPhoneを伏せる
また、ノマド環境でよく見かけるのが、MacBookでの仕事中にiPhoneも見えるように並べて仕事をしている人。何かプッシュ通知が入ると仕事を中断して、返事を書いたりしている。これも、仕事に集中することができず、効率を落とす原因になっている。
仕事中はiPhoneは伏せておくのが基本だ。iPhone 5s以降では、伏せて置いておくとプッシュ通知が来ても画面が点灯しない(サウンドは鳴る)。上向きにしておくとスリープしていても、プッシュ通知が来ると画面が点灯するので、どうしても目がいってしまう。それだけでも、集中が途切れることになる。
“集中”といっても、本気で集中できる時間など個人差こそあれ1時間ほどが限界なのだから、がっつり仕事に向かったあとで集中を解いたら、iPhoneを開けてプッシュ通知を見て処理したほうがリズムを作りやすくなるはずだ。
通知設定は4つにクラス分けしよう
一方で、macOSの通知はよくできていると思う。視界の脇にスッとスライドして入ってきて、しばらくすると自然に消える(これはバナーの場合。通知パネルにすると残り続ける)。画面が広いせいもあるが、バナーを目の端で捉えても集中をさほど邪魔されない。つまり、仕事中はiPhoneは伏せておき、Macのバナーを目の端で捉えるだけにしておくのが一番集中でき、通知の見落としも少なくなるのだ。
また、多少面倒ではあるが、iPhoneやMacの通知設定を細かく設定しておくことも重要だ。理想は、重要なものだけプッシュ通知されて、それ以外は通知されないという状態だ。
iOSデバイスの通知設定は4つのレベルに分けられる。「(1)完全オフ」「(2)バッジのみ」「(3)通知センター」「(4)ロック画面」の4つだ。特に重要なのは「ロック画面」の通知で、スリープ中であってもiPhoneが点灯しプッシュ通知が表示される。実はこれが集中を邪魔する原因なので、電話やメッセージ、スラック、リマインダ、スケジュールといった「レスポンスの必要があるもの」だけに限り、その他のニュースアプリなどは「ロック画面」のチェックを外しておく。これだけでスリープ中のiPhoneは静かになる。
一般的なニュースアプリなどは「ロック画面」ではなく「通知センター」にし、ついでに「サウンド」もオフにしておく。すると、スリープ中はプッシュ通知がされなくなり(実はされているが、音がしないので気がつかない)、スリープ解除したときに通知がまとめてなされる。通知センターを開けばもちろんそこに通知の一覧が表示される。その他の一般的なアプリはプッシュ通知を切り「バッジのみ」にしておけば十分だ。
また、アプリの中には、意味のないプッシュ通知を送ってくるものがある。ひどいものになると「おはようございます。今日も1日頑張りましょう!」という無意味なプッシュ通知を送ってくる。運営側にするとプッシュ通知を送る回数を増やすほど、アプリの起動率が上がるからなのだが、アクティブユーザ数を増やすことはできても、その裏でユーザエンゲージメントという大切なものを失っていることを考えていない。
このような運営者の目的は、数字を上げて広告料を稼ぐか、資金調達をしたいだけでユーザのほうを向いていない。そのようなアプリは使ってもあまり役に立つことはないので、アプリごと削除してしまったほうがいいと思う。それでも使わなければならない理由があるのであれば、「通知オフ」の状態で使うのがいいだろう。
プッシュ通知が工夫されたアプリ
また、プッシュ通知を細かく設定できるアプリを積極的に利用していくことも大切だ。たとえば、Gmailのクライアントアプリである「インボックス(Inbox)」やメールアプリの「スパーク(Spark)」は、すべての受信メールをプッシュ通知するのではなく、重要なメールだけを通知してくれる。おそらく、返信履歴のある相手からのメールだけをプッシュ通知してくれるのだと思う。
また、標準アプリの「メール」は、アカウントごとに通知設定ができるようになっている。仕事のメルアドと遊びのメルアドを分けて、通知設定しておくと便利だ。
面倒ではあるが、このような通知設定をこまめにしておくと、iPhoneとMacを仕事の集中度に応じて使い分けられるようになる。本気で集中したいときは「おやすみモード」にして、すべてのプッシュ通知を切り1時間ほどがっつり集中する。
重要な割り込みを許容する8割程度の集中をしたいときは、iPhoneをスリープさせて、かたわらに置きながら仕事をする。これで重要な通知だけが入り、画面が点灯するようになる。
そして仕事の区切りがついたら、iPhoneをスリープ解除し通知センターを開き対応する。電車などで移動している暇な時間には、バッジを頼りに処理をする。このように使いこなせば、iPhoneとMacが集中を邪魔することなく、それどころか仕事を助けてくれて頼りになる相棒になってくれるはずだ。
iOSではアプリの種類により通知設定を変えるのがポイント。電話、メッセージ、仕事用SNSのようなものは「ロック画面」をオンにする(1)。iPhoneがスリープしていても、画面が点灯して通知してくれる。ニュースアプリなどレスポンス不要のものは「ロック画面」をオフにし、なおかつサウンド、バイブレーションもオフにする(2)。スリープ中には通知が来ないが、あとで通知センターを開けば通知が読める。一般のアプリは「バッジ」のみで十分だ(3)。
【知恵の実の実】
iOSのメールアプリは、「設定」アプリの[メール]からアカウントごとに通知設定を使い分けられる。仕事用とプライベート用のアカウントの通知方法をつ使い分けると、メリハリがついてよいだろう。
【知恵の実の実】
本当に集中したいときは「おやすみモード」を使う。これであれば一切のプッシュ通知が来なくなる。macOSでは画面の右側の「通知センター」、iOSデバイスでは画面下側から引き出す「コントロールセンター」からオン/オフを切り替えられる。
文●牧野武文
フリーライター。iPhone、iPadの通知をMacに転送してくれるNotifyrというアプリがあったが、現在は利用できない。アップルのAPI使用ルールに違反していたため、削除されてしまったようだ。次期macOSでこの機能が搭載されることを期待したい。