株式会社アイザックの「エアタッチ(Air Touch)」は、Apple Watchにも対応した出退勤管理システム。この夏にはWEBアプリ化やクラウド化が謳われており、iPadがタイムレコーダ代わりになる。また、ビーコン対応すれば将来的にはアップルウォッチをかざすことなく、打刻が行える。
フェリカカードが使える
「エアタッチ(Air Touch)」は、タイムレコーダの代わりをする出退勤管理システムだ。ウィンドウズ端末に接続されたフェリカ(Felica)リーダにフェリカ対応カードなどをかざすことで入退室時刻を記録、専用ソフトで一元管理できる。すでに導入企業は400社近くに上り、約4万5000名がほぼ毎日利用している。
エアタッチの開発のきっかけとなったのは、どこの企業にもある小さな出来事だった。
「10年ほど前のある日、会社のタイムレコーダが壊れてしまったのです。そこで、新しいレコーダを買うのではなく、自社で作ってしまおう、と考えたのが開発のきっかけです。当時は、経理担当者が毎月のように紙のタイムカードを集めて出退勤時刻をパソコンに入力、勤務時間や残業時間などを計算していました。そんな姿を見ていて、もっと楽にできないかと常々思っていたのです」(株式会社アイザック会長 兼 CEO・伊関勝幸氏)
しかし、当時はともかく、現在では同様のソフトウェア、クラウドサービス、iOSアプリは多数存在している。その中で、エアタッチが支持されているのは、ユーザ目線の考え方にある。
「フェリカカードは、フェリカに対応していればどんなものでも使えます。Suica定期券でも、おサイフケータイでもかまいません。1人3枚まで登録できるので、Suica定期券を忘れたという場合でも、別のカードで打刻することができます」(株式会社アイザックCTO・柴信義氏)
わざわざ打刻用のカードを用意する必要がなく、さらにアップルペイ(Apple Pay)対応のiPhoneやアップルウォッチを使って打刻することも可能だ。
「紙のタイムレコーダよりも安く、便利にするという開発方針だったので、価格は2万9800円の売り切りにしました。登録人数500名までなら、この価格でご利用いただけます」(伊関氏)
専用ソフトは動作に高いCPU性能を要求しないため、使わなくなったパソコンに、量販店で売っている数千円のフェリカカードリーダを接続するだけでタイムレコーダとなる。さらに、打刻データはCSVに書き出すことができるので、給与計算ソフトなどに簡単に取り込める。
打刻できるのはフェリカカード、QRコードなどのほかに、iPhone、iPadのサファリからもWEB経由で打刻ができる。この場合は、位置情報も送信されるので、多拠点がある場合、屋外の現場などで出退勤を管理することができる。
広がっていく“打刻”需要
エアタッチは、数百名程度の中小企業で使われていることも多いが、それだけでなく、実に多種多様な現場で利用されているのも特徴だ。
たとえば、建築現場や工事現場。さまざまな専門業者社員が出入りをするこうした現場では出退勤管理を手作業で行い、専門業者からの人件費請求書と実働時間記録を照合して支払いをするというのはかなり面倒な作業といえる。エアタッチはパソコンとリーダさえあればいいので、こうした現場でも手軽に設置・撤去でき、経理作業の負担を軽減する。
また、約5000名の出席管理に使っている大企業の事例もある。その企業では、年に数回、大規模な社内セミナーを催していて、全国から約5000名の出席者が集まるのだが、そうした現場でもエアタッチなら簡単に導入できる。フェリカカードだけでなく、QRコードでも打刻ができる点が評価されているポイントだ。
そのほかにも、大学などでは学生証そのものをフェリカカードにしてしまい、図書館などの入退室管理に使っている例がある。幼稚園や学習塾では、子どもが幼稚園に登園・退園すると親のスマートフォンにメールがいくという機能も重宝されている。なお、エアタッチではスマートフォンのブラウザから打刻することも可能で、この場合、スマートフォンの位置情報も合わせて記録される。打刻情報は、アイザックのサーバに記録され、各ユーザのエアタッチソフトウェアと簡単に同期することができる。多くの拠点を巡回する必要のある管理職、営業職の人々にも便利に使われている。
現在は、フェリカカードリーダにフェリカカード、(アップルペイに対応した)iPhone、アップルウォッチなどをかざして打刻する。フェリカカードは、1人あたり3枚まで登録可能。そのほか、印刷や表示したQRコードにも対応している。
今夏にクラウド化&ビーコン対応
エアタッチは、今年の夏に大幅なバージョンアップが予定されており、WEBアプリケーション化&クラウド対応される見込みだ。つまりフェリカカード以外にも、iOS版アプリやアンドロイド版アプリからも出退勤の打刻ができるようになる。
「単なる出退勤管理だけでなく、たとえばある作業の開始時と終了時に打刻して、実作業時間を計測し、分析するといった使い方もできるようになります」(柴氏)
管理者向けのiOS版アプリ、アンドロイド版アプリも提供される。現行iPadではiOSと接続できるソニーのフェリカリーダを使用することで、打刻アプリをインストールしてWi-FiまたはLTEでネットアクセスができれば、iPad単体でタイムレコーダとして機能するようになる。また、アップルウォッチ用アプリの提供や、ビーコン(Beacon)対応も予定されており、これが実現すればiPhoneやアップルウォッチを持っているだけで特定のエリアを通過すると入退室の打刻がされるようになる。
「ただし、ビーコン対応させるには解決しなければならない課題があります。ビーコンは見通しのいい場所では、到達距離が50メートルに及んでしまうこともあるからです。大企業やホテルなどのロビーが広い場所に設置するときには、そばを通っただけで打刻してしまう、電波を拾った段階で打刻してしまうので、実際の入退室時間とずれが生じてしまうという問題があります」(柴氏)
ドアや壁などの遮蔽物があるところでは、到達距離が数メートルとなり都合がいいが、それも環境次第。実証実験に相応の時間が必要になるという。今夏までにはクラウド化の開発を終え、すぐにでもビーコン対応の開発に入りたいという。また、その後は、ユーザのニーズを聞きながら機能を充実させ、指紋などの生体認証にも挑戦していきたいと語る。
エアタッチは、「かざした時間を記録する」というきわめてシンプルなところから始まって、単なる出退勤管理から用途を大きく広げてきた。しかも、将来的には、フェリカカードやアップルウォッチの機能と組み合わせた活用法が考えられる。たとえば、野外イベントなどで電子マネーカードを入場券とし、入退場管理を行い、なおかつ露店での購入時には電子決済できるという利用法なども考えられる。
「あくまでも個人的な考えですが、病院での活用ができたらいいなと思っています」(伊関氏)。看護師の病室への入退室をビーコンで管理し、同時にアップルウォッチに患者や投薬の情報が通知され、患者の取違い、投薬の取違いを防止できないかという。
「打刻した時刻を記録する」というシンプルな発想から始まって、IoTデバイスが進化するにつれて、エアタッチはその用途を大きく広げている。発想次第で活用分野はまだまだ広がりそうだ。
夏にはiOS版エアタッチがリリース予定。現行iPadはiOSと接続できるソニーのフェリカリーダを使用することで、打刻アプリをインストールしてWi-FiまたはLTEでネットアクセスができれば、タイムレコーダとして機能する。iPadにフェリカカード、iPhone、アップルウォッチをかざすだけで打刻できるのは便利だ。