モダンなプログラミング言語であるスウィフト(Swift)がオープンソース化されてから、アプリケーションの開発者とオープンソースコミュニティの関わりが強まっている。そうした中、キックスターター(Kickstarter)が同社のモバイルアプリをオープンソース化。そこにはリスクもあるが、ユーザにも利益をもたらす大きな価値がある。
スウィフトとの関わりと公益
クラウドファンディングサービスのキックスターターが、モバイルアプリをオープンソースで公開した。iOSアプリのオープンソースプロジェクトというと、ブラウザのファイアフォックス(Firefox)やブログツールのワードプレス(WordPress)などがあるものの、決して多くはない。しかし、ファンクショナル・スウィフト・カンファレンス(スウィフトでの関数型プログラミングに関するトピックが扱われる開発者のための会合)をホストするなど、スウィフト開発者のためのコミュニティ活動を積極的に行ってきた同社は、オープンソース化に大きなメリットを見出した。
キックスターターがアプリのオープンソース化に踏み切ったのは、2015年に会社を公益法人に変えたのがきっかけだった。スウィフト登場の影響もあって、アプリ開発者の関心がオブジェクト指向から関数型プログラミングへと広がっている。キックスターターのアプリ開発チームは、理解しやすいパーツで構成される、よくテストされたコードを重視し、関数型プログラミングの手法を積極的に採り入れてきた。その経験やスキルを広く共有することは、公共のために会社の力を使う公益法人の活動に適うと考え、オープンソース化を選択したのだ。
再利用可能なスキルやノウハウを共有することで、そうしたスキルの修得にかかる時間が短縮し、アイデアの実現や創造的な作業に多くの時間を費やせるようになる。オープンソースは効率化を促し、公開されているスキルやノウハウの改善に貢献するコミュニティが広がるほどに効率性は向上する。
オープンソースからキックスターターが得られるメリットも大きい。大規模で優れたコミュニティを構築できたら、コミュニティのレビューを経ることで、自分たちだけで格闘し続けるよりもずっと安定して信頼できるプログラムを生み出せる。また、会社という境界を超えて世界中の優れたエンジニアと交流し、知見を広め技術を高められるのも有益な経験になる。
1年半前には、モバイルアプリ開発はiOSエンジニアが2人だけという状態だったキックスターター。スウィフトを用いた開発で積極的にコミュニティに関わり、順調にモバイルアプリの改善を進めている。【URL】https://www.kickstarter.com/
リスクを上回る価値
オープンソースに興味がない人たちは、技術や情報を共有するリスクばかりを心配する傾向にある。もちろんそうしたリスクはゼロではない。ライバルに利用される可能性もある。そのような技術や情報から直接収益を上げているなら、非公開でしっかりと管理するべきという考え方は当然だろう。しかしながら、ライバルに勝つことが目的ではなく、顧客のための製品を作り、パートナーと共栄し、優れたエンジニアのネットワークを構築したいなら共有できる部分を共有する価値がある。リスクもあるが、それ以上に開発チームに発展や共栄を重んじる考え方や文化が根づき、コミュニティ規模で優れたエンジニアの関心を得られる価値は大きい。
キックスターターは、アート作品のECサイト「アーツィ(Artsy)」の“オープンソース・バイ・デフォルト”という考え方に共感し、オープンソース化の参考にした。iOSアプリでアーツィやキックスターターほど積極的にオープンソースプロジェクトを展開しているケースは珍しい。だが、その理念は、シェアなどでライバルに勝つことよりもユーザへの優れた体験の提供を追求するアップルと目指すところは同じである。そして、それはアップル製品のユーザがiOSアプリに期待するところでもあるに違いない。
アーツィはアート作品の収集や売買をサポートするサービスで、WEBサイトのほかiOSアプリを提供している。CTOのD・ダブロフキン氏がオープンソースを推進、2015年には「オープンソース・バイ・デフォルト(open-source by default)」に徹すると宣言した。【URL】https://www.artsy.net/