新MacBookプロに搭載されたタッチバー(Touch Bar)については、10月末の発表時点で「いまひとつ革新性に欠ける」という指摘もあった。しかしそれは、実機をほとんど使っていない段階での感想によるところが大きかったのでは? 発売から約1カ月使い込んでわかった、タッチバーの本当の魅力をお伝えしよう。
Touch Barとは?
現在発売中の新MacBookプロ(2016年10月末発表)で採用された、新たなタッチインターフェイス。従来のファンクションキーを廃する形でキーボード上部に組み込まれた、極細のマルチタッチディスプレイだ。表示される項目は、ユーザが今していることに応じて自動的に変化する。それをタップすることで、Macのさまざまな操作が可能。
ストレスフリーの心地よさ
正直にいうと、新MacBookプロが登場したとき最大の注目ポイントだったタッチバーには、当初あまり魅力を感じなかった。私はキーボードショートカットを駆使するようなMacのヘビーユーザで、「タッチバーに視線を移してボタンを押すより、指が覚えているキーボードショートカットを使ったほうが効率的」だと思ったからだ。パッと見は賑やかで楽しいが、タッチバーから呼び出せる機能は画面上のどこかに必ず存在しているはずであり、効率化にはあまりつながらないのではないか。それが発表当時の印象だった。
しかし、実際に自分が新しいMacBookプロを入手してしばらく使い込んでみると、その考えが誤りだということに気づかされた。
もちろん、タッチバーが100%便利だと手放しに絶賛するつもりはない。たとえばファインダに関していえば、正直タッチバーの効果はイマイチだと思う。タッチバーの「クイックルック」ボタンを押すよりも、スペースキーを押したほうが手っ取り早いからだ。
しかし、キーノートやナンバーズ、さらには「ピクセルメータ(Pixelmator)」や「アフィニティデザイナー(Affinity Designer)」といったサードパーティ製のクリエイティブソフトを使ってみると、その便利さに感動すら覚えた。この違いはどこにあるのか。
クリエイティブソフトでは特にその傾向が強いが、機能が豊富な分、ボタンが小さくなったりパネルを切り替えて呼び出したりといったことが多くなる。そうした小さなボタンにポインタを合わせるよりも、タッチバーのコントロールボタンに触れるほうが素早く実行できるし、ストレスも少ない。キーボードショートカットを実行する際の、指をいびつに曲げての複雑なキーの同時押しからも解放されるし、そもそもそうしたショートカットを覚える必要もない。これらの点において、タッチバーは効率化に確実に貢献していると思う。また、キーのように「押す」のではなく軽く「触れる」感覚だけで操作できるため、サクサクと動かす感じが心地よい。
拡大するタッチバーの魅力
つまるところ、タッチバーが便利なインターフェイスになるかどうかは、ソフトウェアに委ねられている。macOS標準のソフトにしても、写真やマップ、カレンダーなどのソフトはタッチバーの魅力をうまく引き出している。ソフトによってタッチバーとの相性の良し悪しはあるだろうが、開発者次第でタッチバーの魅力を生かすことも殺すこともできるというわけだ。
現在Macアップストアでは、タッチバー対応ソフトをまとめたコーナー(Enhanced for Touch Bar)が設けられており、タッチバーの活かし方が考え抜かれたソフトが紹介されている。こうした素晴らしいソフトが増え続けていくことで、タッチバーの魅力はますます広がっていくだろう。
これから新MacBookプロを購入しようとしている人に向けて、私からもオススメの使い方とソフトを紹介したい。1カ月使い込んでわかったタッチバーの真価が、いくらかなりとも伝わるはずである。
Touch Barを使えばこんなに操作がラクラク
システム
コントロールストリップを見直そう
タッチバー右側に常時表示される「コントロールストリップ」は、標準だと音量や輝度ボタンが登録されている。しかし独断でいわせてもらえば、これらの項目はそれほど頻繁に変更するものではなく、好みでカスタマイズするのがオススメだ(1)。特にスポットライトを登録しておけば、素早くファイルを見つけ出せるようになる(2)。
iTunes
別の作業中でもコントロール
iTunesは、タッチバーで再生位置のコントロールができるほか、選択している曲をプレイリストや再生リストに追加することができる(3)。これだけでも便利だが、ほかのソフト使用中もコントロールストリップの左端にボタンが表示され、それをタップすることでいつでも曲のコントロールが可能になる(4)。
カレンダー
確認したい月/週/日に素早く移動
カレンダーは、画面に表示させる月や週をタッチバー上で選べるようになったのがうれしい(5)(6)。私は特に週表示で利用することが多いが、タッチバーを左右にスライドしながら、翌週や翌々週の空き状況を確認していけるのが便利。トラックパッドでスワイプしていくよりも、目当ての週や月に素早く辿り着くことができる。
マップ
周辺情報を手軽にキャッチ
マップでは、周辺の飲食店やショッピング施設を探すボタンがタッチバーに表示される(7)。施設を選択すれば、経路表示やWEBサイトにアクセスするボタンが並ぶ(8)。活用したいのは旅行の計画を立てるとき。気に入ったスポットをあらかじめMacで登録しておけば、旅行中にiPhoneで手軽に確認という使い方ができるようになる。
Keynote
パネルで設定するより効率的
キーノートでは、文字の編集時は文字のスタイルに関する設定(9)が、シェイプ選択時は塗りつぶしの色や線の設定(10)が表示される。正直これらの設定は画面のパネル上でも設定できるが、実はタッチバーのほうが少ないタップ数(クリック数)で完了する場合が多い。使ってみないとわからないタッチバーでの便利さを、端的に表す好例だ。
Numbers
タッチバーでラクラク計算
ナンバーズもタッチバーに対応しており、セルの書式などさまざまな設定ができるが、中でも非常に優れていると感じたのが[数式]ボタンだ。行や列を選択した状態(11)でタッチバーに表示される数式は、「合計」や「平均値」など複数から選べる(12)。このインターフェイスはとてもわかりやすく、しかも効率的だ。
Touch Barが活きる! オススメのサードパーティ製ソフト
クリエイティブの巨星が早くも対応
いち早くタッチバーに対応したフォトショップ。しかもその内容は、使い勝手を考えてかなり周到に練り込まれている。「レイヤーコントロール」「ブラシコントロール」「お気に入り」と3つの表示を切り替えられ、それぞれ本当に使いたいツールが格納されている。画面の限られたMacBookプロではパネルを折りたたんで使うことも多いが、そんなときでもかなりの操作ができるようになっている。
レイヤーコントロールでは、レイヤーモードや不透明度を変更できる。ヒストリーボタンもあり、押すと変更履歴がタッチバー上にグラフィカルに表示される。また、自分がよく使うコマンドを「お気に入り」に登録して呼び出すことも可能だ。
Adobe Photoshop CC (2017)
【発売】アドビ システムズ
【価格】Creative Cloudフォトプラン:980円/月ほか
ツールをしまっても快適に編集
ピクセルメータは、Macユーザにお馴染みの高機能グラフィックソフト。よく使うツールがタッチバーから選べるほか、選択しているツールに合わせて表示が切り替わり、ツールオプションが表示される。しかも、すべてのツールでそれぞれタッチバーの表示が切り替わり、その網羅性には脱帽する。すべてのパネルをしまってキャンバスのみにしても、あらゆる作業ができるからすごい。
ブラシ関連のツールでは、ブラシサイズ、カラー、不透明度などをスライダで変更できるのがうれしい。イラストの描画にも、写真の部分レタッチにもフル活用できる。
ベクター操作もタッチバーで
Affinity Designerは、図形や文字を組み合わせてデザインができるベクター形式のグラフィックソフトだ。この手のベクターグラフィックソフトでは「パス」の編集をすることが多いが、このソフトではそうしたパスの編集がタッチバーからできるのがありがたい。パスの形状を滑らかにしたり、長方形の角を丸めたりということが素早くでき、作業効率を高めてくれる。
パスのオプションなどはキャンバス上にも表示されるが、パスを編集しているときにマウスポインタを移動させずに各種操作ができるため、素早く作業できるようになる。
タッチバーもタッチIDもフル活用
MacやiPhoneだけでなく、ウィンドウズやアンドロイドにも対応しているパスワード管理ソフトの「1Password」。タッチバーから素早くWEBサイトのログインパスワードを記録したり、保管しているパスワードを検索できる。しかもこのソフトはタッチIDにも対応しており、いつでも指紋認証でソフトのロックを解除し、記録した情報にアクセスできるのが便利だ。
このソフトでは、WEBサイトのログインパスワードのほか、秘密メモ、クレジットカード情報、メールパスワードなどさまざまなものを保管できる。Macのキーチェーンと違い、ウィンドウズでも共有できるのが便利。
思考を妨げずに文章を編集
Ulyssesは、大量の文章をまとめて管理できるノートソフトだ。タッチバーでは、文章入力中に段落スタイルや文字スタイルを自由に変更でき、さらに参照用のURLリンクを埋め込んだりといったことも可能だ。タッチバーを活用すれば、文字入力中にトラックパッドに指を移動させる回数が減り、思考を妨げることなく効率的に文章を作成できる。ちょっとしたことかもしれないが、執筆に集中できるこの気遣いが素晴らしい。
サイドカラムで文章を選択している状態と、実際に文字を編集している状態で、それぞれ表示が異なる。文章選択中は、その文章にタグを追加するボタンなどが表示される。文字編集中は、下図のように文字・段落のスタイル変更を行うボタンが表示される。
タッチバーでソフトを切り替え
これまでファンクションキーにお気に入りのソフトを割り当てて起動していたという人にオススメしたいのがこちら。このソフトを使えば、ドックに登録しているソフトをタッチバーからワンタッチ起動できる。また、現在起動中のソフトを切り替えたり、よく使うフォルダを素早く起動することも可能だ。意外性は少ないが、確実に便利さを向上させてくれるソフトだ。
Rocketは、あらかじめ設定したキーボードショートカットを押すことでタッチバーに現れる。よく使うソフトはドックに登録しておくことで、タッチバーから起動できるようになる。
リマインダーとカレンダーで上手にタスク管理
カレンダーソフト「Fantastical 2」でタッチバーに表示されるツールは、アップル純正のカレンダーとほぼ同様。しかし、このソフトはリマインダーとカレンダーを1つのソフト内でまとめて扱えるのが魅力。やるべきタスクも新しいイベントも、タッチバーの[+]ボタンから素早く追加していける。予定の入力に時間をかけないというのは、タスク管理のうえで極めて重要なポイントだ。
このソフトでは、タッチバーから表示する月や週を切り替えられるほか、新規イベント作成時には、カレンダーの種類や繰り返しの設定、アラームの設定などが行える。
タッチバー未対応ソフトでもタッチバーを活用
「よく使うソフトがタッチバーに対応していないので、あまりタッチバーの魅力を感じられない」、そんな悩みを吹き飛ばしてくれるのがBetterTouchToolだ。このソフトを使えば好きな機能をボタンとして登録し、タッチバー上に表示することができる。ソフトごと個別に細かく設定できるので、工夫を凝らしてタッチバーを便利にしていこう。
設定はいたって簡単。まずはウインドウ上側にあるタブで[TouchBar]を選んだら、左のパネルにある[+]ボタンでソフトを登録。次に右下の[+ Add TouchBar Button]を押して表示させたい機能を追加していく。