アップルは、米国時間2016年9月7日10時、サンフランシスコ市内で待望のiPhone 7などの新製品を発表しました。会場は昨年のiPhone 6s発表イベントやWWDC 2016基調講演と同じ、ビル・グラハム・シビック・オーディトリウム。伝説的な音楽プロモーターの名前を取った7000人収容の多目的アリーナをイベント用に改造して使用していました。
登場した新製品はiPhone 7/ 7プラスに加え、第2世代に当たるアップルウォッチ・シリーズ2(Apple Watch Series 2)、ワイヤレスイヤフォン・エアポッズ(AirPods)、ビーツ(Beats)のワイヤレスヘッドフォン3機種。イベントで印象的だった場面を中心に振り返っていきたいと思います。
人々を楽しませたステージ
アップルのプレスイベントはiPhoneやiPad、アップルTVなどで閲覧できるようにライブ配信されます。これは同イベントがメディアに対する事務的な情報提供の場ではなく、数少ないアップルとユーザとの公式なコミュニケーションの場であることを意味します。
その位置づけは、冒頭のビデオからも感じることができました。米国で人気の番組「カープール・カラオケ(Carpool Karaoke)」に、ティム・クックCEOが出演し、ファレル・ウィリアムスと運転手役のジェームス・コーデンとともに、熱唱しながら会場に到着する、という演出が行われたのです。
これは、「ザ・レイト・レイト・ショー」の司会を務めるジェームス・コーデンが運転手となり、次々に乗り込んでくるセレブと車中で熱唱するという、人気企画。ミシェル・オバマ大統領夫人の登場以降、番組の注目度は沸騰しており、出演したアーティストや歌われた楽曲の再生回数が上昇する効果が生まれています。ちなみに、2016年7月、アップルミュージック(Apple Music)は、カープール・カラオケの配信権を獲得しました。
また、アップルミュージックではアーティスト向けのオリジナルミュージックビデオも作成しており、イベントの最後に登場した歌手のシーア(Sia)は、アップル・ミュージックで楽しめるミュージックビデオと同じ演出を、ステージ上で披露しました。
歴史的瞬間を演出
イベント冒頭、アップストア(App Store)に関する紹介で、歴史的瞬間が生まれました。
アップストアは、現在50万本のゲームを提供する、世界でもっとも活発なゲーム配信プラットホームであることをアピールする一方で、「1つ、欠けているものがある」と語ったティム・クックCEO。次の瞬間、スクリーンにスーパーマリオが映し出され、2016年末にマリオの新作ゲームがiPhone向けに配信されることが発表されたのです。
紹介された「スーパーマリオ・ラン(SUPER MARIO RUN)」は、片手で遊べる中毒性の高いゲーム。マリオは自動的に右に走り続け、タップするとジャンプするという仕組みになっています。制限時間内に、いかにたくさんのコインを集めるかがテーマです。
プレゼンターには「マリオやゼルダの生みの親」といわれる任天堂の宮本茂氏が登壇しました。この演出に対しては、米国では「歴史的瞬間」として受け止められるほど。この宮本氏の登場に、会場全体も揺れました。個人的には、その後のiPhone発表以上の興奮が会場を包み込んだように思えます。「ゲーム界のスティーブ・ジョブズ」として尊敬されている存在に、アップルの役員もサインを求めるほどだったそうです。
ポケモンGOとSuica
日本に関連する話題は続きました。マリオとともに日本で生まれたキャラクターを活かしたこの夏の大ヒットゲーム「ポケモンGO」がアップルウォッチをサポートし、iPhoneを見なくても「ポケストップ」でアイテムを回収、またポケモンの出現を手首で知らせてくれる機能を備えるとの発表がありました。
デモを披露したのは開発元のナイアンティック・野村達雄氏。グーグル・マップのエイプリルフール企画を3年連続で担当し、ポケモンGO開発のきっかけを作った日本人エンジニアです。
そして、日本のiPhoneユーザが待ち望んでいた、アップルペイの日本導入とフェリカ(FeliCa)採用によるスイカ(Suica)対応も、iPhoneの新機能の中で紹介されました。
スイカのインフラを日本中に張り巡らしてきたJR東日本は、まったく新しいスイカの体験を、アップルとゼロから作り上げたと自信を見せています。アップルもiPhone 7とアップルウォッチ・シリーズ2にフェリカを内蔵する日本向けモデルを用意してまで、実現したかった機能でした。
米国と中国がビジネスの中心となっているアップル。しかし、iPhoneの人気が圧倒的に高く、アップルにとって先進国で唯一の成長市場である日本を重視する姿勢を見せた点は、日本のユーザを喜ばせることになったのではないでしょうか。
iPhoneは手堅い進化
登場した新製品、iPhone 7/7プラス、そしてアップルアップルウォッチ・シリーズ2を総評すると、「非常に手堅い進化」という印象です。新たなボディデザインやとびきりのイノベーションを求めていた人にとっては物足りないかもしれませんが、アップルを支えるiPhoneビジネスとして見ると、非常に正しい進化だと評価できます。
iPhone 7の形状デザインは、iPhone 6を踏襲しました。ボディ背面の上下に入っていたアンテナラインはエッジに移され、目立ちにくくなりましたが、サイズ感は変わらず、小さくも薄くもなっていません。しかし内部構造は防水防塵を実現し、スピーカのステレオ化、ホームボタンの感圧パネル化といった変更が多数盛り込まれ、中身は「まったくの別物」です。
新色となるブラックはマットな仕上げ。そしてもう1つの新色であるジェットブラックは128GB以上のモデルに限定され、アルミニウムでありながら、9つもの工程を経て、ステンレスのような鏡面仕上げを実現する、印象的な製品となりました。
内蔵プロセッサはA10フュージョン(Fusion)が採用され、2つの処理性能追求コアと、2つの省電力追求コアの4コア構成。iPhone 6sより40%の処理性能向上と50%のグラフィックス性能の向上を受けながら、消費電力を33%カットすることに成功しています。
またスマートフォンの顔といえるカメラには、iPhone 7にも光学手ぶれ補正を導入し、スピードを重視したセンサと新たなf1.8の明るいレンズが採用されました。画像処理エンジンによって、シャッターを切る0・25秒のうちに機械学習を活かした1000億回の処理を行い、最適な写真を作り出します。
iWorkに新機能が追加!
イベント内では、iWorkについて言及されるシーンもありました。発表されたのは、iWorkソフト(ページズ、ナンバーズ、キーノート)でのリアルタイムコラボレーション機能。グーグル・ドキュメントやオフィスなどに追いついた形になりますが、編集中の箇所に吹き出しで名前が表示され、Mac、iPhone、iPadなどからスムースに参加できる仕組みです。イベント内では、なんとその場でプレゼン中のキーノートのスライドを編集してみせるなど、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました。
ステージに立ったアップルのスーザン・プレスコット氏は、プレゼン中のキーノートスライドでリアルタイムコラボレーションして見せていました。