Mac業界の最新動向はもちろん、読者の皆様にいち早くお伝えしたい重要な情報、
日々の取材活動や編集作業を通して感じた雑感などを読みやすいスタイルで提供します。

Mac Fan メールマガジン

掲載日:

インテルのロードマップから新型Macの性能を大胆予想!

著者: 加藤勝明

インテルのロードマップから新型Macの性能を大胆予想!

新型Macが出ない!

インテルの次世代CPUに採用される第7世代コア「カビーレイク(Kaby Lake)」が、8月30日に正式に発表された。最初に市場に投入されるのは発熱の少ないMacBookエアやMacBook向けのCPUであり、MacBookプロに載るようなパワー重視のCPUは2017年1月以降に投入される見込みだ。

第7世代コアが発表される一方で、MacBookエアやMacBookプロの新モデルは2016年に入ってから1機種も出ていない。MacBookエアには第5世代コア「ブロードウェル(Broadwell)」、15インチのMacBookプロ・レティナに至ってはまだ第4世代コア「ハスウェル(Haswell)」が搭載されており、新しいCPUのアーキテクチャを貪欲に取り込む姿勢が感じられない。アップルは、なぜここまで新モデルの投入をしないのだろうか?

アップルの新機種が出ない理由を考えるに、ここ数年のインテルの戦略変更が挙げられる。「CPUの世代が新しくなっても、性能は代わり映えしないから」という結論に飛びつく前に、現在のインテルと、開発中のCPUを取り巻く状況を整理してみることにしよう。

まず最初におさえておきたいのは、インテルの開発サイクルだ。今までのインテルは、1年目でプロセスルールを微細化した新型コアを発表し、2年目でそのコアのアーキテクチャを改善するという開発サイクル、いわゆる「チクタク戦略」を取っていたが、半導体製造技術のハードルが上がったことで、この戦略を見直さざるをえなくなってきた。

戦略をシフトするきっかけは第4世代から第5世代コアへの移行の難しさだった。14ナノメートルを初めて採用すると謳った第5世代コアの開発は難航を極め、その結果として2014年には第4世代コアのマイナーチェンジ版「ハスウェル・リフレッシュ(Haswell Refresh)」が発売された。第5世代コアのブロードウェルは、超低電圧版のコアMが2014年に発売されたが、主力製品であるコアiの開発に難航し、発売は2015年。半年もしないうちに第6世代コア「スカイレーク(Skylake)」が発売。意地悪な見方をすれば、第5世代コアは株主に対する公約を守るために出した製品のようにも見えてしまう。

そこでインテルは今後のCPU開発サイクルを「微細化→改善」の2段階ではなく、「微細化→改善→最適化」の3段階に変更すると宣言した。つまり、第5世代に微細化を行い、第6世代ではそのアーキテクチャを改善、そして先日発表された第7世代は、第6世代では盛り込めなかった要素をプラスして“最適化”する製品となる。

新規要素に乏しい第7世代

ロードマップの変化を理解したところで、次におさえておくべきは第6世代コアと第7世代コアの相違点だ。重要なのは第7世代は“最適化”フェイズの製品であり、劇的な性能の向上はないということだろう。「4K時代の動画コーデック(VP9、およびHEVC10ビット)への対応」、「待機時の低クロック状態から負荷をかけて、クロックが上がる時間の短縮」、という2つの新機能が発表されているが、前者はCPU負荷の低減、後者はレスポンスの改善に関係する機能だ。最適化によって動作クロックは若干向上するが、同クロックならCPUの基本性能はほぼ横ばいとみられる。

第7世代コアには、転送速度10GbpsのUSB3.1、およびUSB3.1規格と互換性を持つサンダーボルト3への対応が噂されていたが、現時点で発表済みの第7世代コア採用製品(チップセットとCPUが1パッケージになった製品)では、USB3.1はチップセットに統合されていない。そのため第7世代コアでUSB3.1への対応を果たすには、サンダーボルト3のコントローラである「アルパイン・リッジ」を別途搭載する必要がある。

注目したいのは、macOSシエラのベータ版に「スーパー・スピード・プラス(Super Speed Plus=以下SSP)」の記述が発見されたというニュースだ。SSPはUSB3.1(Gen.2)で使えるデータ転送の新しいモードであり、転送速度は10Gbps。これが真実なら、次世代のMacBookエアやプロがUSB3.1とサンダーボルト3の共用ポートを備えることは確実だろう。そしてサンダーボルト3が来るとなれば、以前から噂されている“GPU内蔵新型外付けディスプレイ”の噂も現実味を増してくる。13インチ以下の(ディスクリートGPUを持たない)ノート型Macでも、新型ディスプレイにUSB3.1(サンダーボルト3)で接続すればMacの内蔵GPUよりもずっと高い描画性能を得ることができる。

発表されている第7世代コアのカビーレイクと、既存のMacBookエア、MacBookに搭載されているコアのスペックの違いを表にした。MacBookエア用とMacBook用ではプロセッサの製品ラインが異なる(正式型番についたアルファベットから、Uプロセッサ、Yプロセッサと呼び分ける)。Yプロセッサの最大動作クロックの上昇が激しい一方で、Uプロセッサはほぼ横ばいな点に注目したい。ちなみに、これまで「Core m3/m5/m7」と呼ばれていたYプロセッサは、第7世代より「Core m3/i5/i7」と改称された。

インテルの技術資料から抜粋した第7世代コアのブロック図。メモリがDDR3L/LPDDR3のみとなっている点を見るに、12インチMacBook向けのYプロセッサ(TDP4.5W)のものと考えられる。USBは3.0止まりなことが示されている。

第7世代コアは長期政権か

第7世代コアは“最適化”フェイズの製品なので、第8世代の製品は“微細化”フェイズに入る。「新製品の恩恵を受けるなら、第8世代でのプロセスルールの向上を待つべきではないか?」と考えたくなるが、今後のインテルのロードマップを見る限り、“待ち・買い”の判断は今までよりも難しくなりそうだ。

インテルの発表では、「2017年末以降、10ナノメートル世代の新製品「キャノンレイク(Cannon Lake)」にバトンを渡す」とされてきたが、インテルはすべてのCPUをキャノンレイクで置換せず、ハイエンド向けのCPUでは第7世代と同じ14ナノメートルの製品を展開するという噂がある。この14ナノメートルの新CPUは通称「コーヒーレイク(Coffee Lake)」と呼ばれている。

要するに、性能向上と市場成長が見込めて、かつ微細化による消費電力削減に効果がある「モバイル向けの2コアCPU」にはキャノンレイクで先行投資し、回路規模が大きいハイエンドなCPUは、設計ノウハウの手堅いコーヒーレイクで作り込むということだろう。プロセスルールが微細化すると高クロックでの安定化が難しくなるというデメリットもあるので、高クロック化が必須な上位CPUを10ナノメートル世代へ移行するのはリスキーだと判断した可能性も高い。

ハードウェアの陳腐化の面から考えると、今までMacBookプロが第6世代コアに移行せずにいたのは、旧世代のCPUでも十分な性能が確保できるからだろう。そして安易に第6世代に移行しなかったのは、第7世代コアが第6世代と大差なく、かつ第7世代コアが長期に渡って使われる見込みが出たから、ではないだろうか。これらをすべてアップルが読みきっていたとは考えにくいが、アップルが頑なに第6世代コアへ移行しなかった理由と、インテルのロードマップの変更には深い関係があるはずだ。

第7世代コアの第1弾は、TDPが4.5W~15Wと低消費電力・低発熱が重視される物理2コアCPUに限定される。それ以外のCPU、特に15インチMBPに必要な物理4コア版は2017年1月以降に登場する予定だ。

第6世代と第7世代のコアi7の性能比較。第7世代は既存の設計を最適化することによって“2桁パーセントの向上”を果たしたとアピールしている。ただ、どういった処理で具体的に高速化されたか、までは明記されていない。レスポンスが早くなった点が評価されている可能性も大きい。

第7世代コアにはプレミアム4K動画コンテンツで使われている「HEVC 10bit」、ユーチューブの4K動画等で使われている「VP9」の再生支援機能が追加された。再生時のCPU負荷を劇的に下げられるので、バッテリ使用中でも従来よりも長く動画を再生できるようになる、とアピールしている。

新型Macの2つのシナリオ

ここまでインテルのロードマップを整理してきたうえで、アップルが今後どのように新製品を発表するのか、取り得るシナリオを考えてみよう。第1のシナリオは、前述のとおり第7世代コアのカビーレイクを搭載した新製品を出す、というものだ。次々世代コアであるコーヒーレイクが登場するのは相当先と予想されるため、ハードウェアが陳腐化するリスクは避けられる。ファンクションキーを有機EL化した新デザインのMacBookが出る噂もあり、新デザインのMacに第7世代コアが搭載されれば市場へのインパクトも絶大だ。初代MacBook登場から10周年という節目は逃すものの、次の10年を始めるには十分だろう。ただし、15インチMacBookプロのようにパワフルなCPUを搭載した製品の投入は来年以降に持ち越され、今年のクリスマス商戦はiPhone 7だけで戦うことになりそうだ。これではビジネス的にもあまりうまいとはいえない。

第2のシナリオはもっと現実的だ。カビーレイクの性能に向上が少ないことを逆手に取り、第6世代コアのスカイレークを搭載したMacをすでに完成させ、macOSシエラのリリースを待っている、という予想だ。CPUの鮮度は業界よりかなり遅れた形になるものの、シエラと同時に新機種を発表し、シエラのプリインストールモデルを「Today!(今日発売!)」とアピールできるのはインパクトがある。第6世代コアでもサンダーボルト3のコントローラは使えるため、インターフェイスやデザインでも新規性を確保できる。第6世代コアは設計も成熟しており、初期ロットの不具合も少なそうだ。

ただし、第2のシナリオが正しかった場合、第7世代コアはスキップされる可能性が高くなる。第7世代コアを搭載することで得られるメリットや新しい機能がユーザの体験を揺さぶるものでなければ、超現実主義のアップルは第6世代コアの続投を考えそうだ。今のアップルが短期間で設計変更と検証を行い、無駄な在庫を抱えるようなリスクを取るだろうか?

ファンとしては、アップルにテクノロジーの最先端を走ってほしいという気持ちもあるが、単純な「性能向上」によって製品の魅力を謳う路線を維持することはもはや困難だ。今までよりも驚きを与えてくれる付加機能や、新しいサービスを作るように開発体制をシフトせねば、あっという間に類似製品を作られてしまうだろう。インテルが製品戦略を変えたように、アップルもまた戦略を大きく転換しているのではないだろうか。

【新しいSSD】

第7世代コアには、現行フラッシュストレージよりも高速な"3Dクロスポイント"こと「Optane」もサポートされる見込みだ。既存のフラッシュストレージよりも高速なのが売りだが、一般ユーザにおける費用対効果では現在のところ、既存のNVMe接続のものに勝てないだろう。

【キャノンレイク】

キャノンレイクは物理2コアで、中庸なGPUを搭載したCPUがターゲット。同じ2コアでも、MacBookプロ・レティナ13インチに搭載された「アイリス・グラフィクス」のような強力な統合GPUを搭載したCPUはキャノンレイクでは出ず、後発のコーヒーレイクでカバーされる。