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vol.1 働き方|「私用のMacを仕事で使いたい」でも、どうすれば認めてもらえる?

著者: 山田井ユウキ

vol.1 働き方|「私用のMacを仕事で使いたい」でも、どうすれば認めてもらえる?

会社がBYODを認めづらい理由とは

ーー今回のテーマはBYOD。個人所有のデバイスを会社に持ち込み、業務に積極的に活用していく形態のことですね。最近は導入している企業も増えてきましたが、まだまだ私用のマシンを仕事に持ち込むことが許可されていない企業は多いです。それはなぜなのでしょうか。

徳本●前提として話しておくと、そもそもBYODを認めるわけにはいかない業種や職種もたくさんあります。公的機関や保険業務を行う会社など個人情報を扱っているような組織は、情報を漏洩させるわけにはいかないからBYODは無理だろうね。それは仕方ない。だから、ここではそれ以外の会社員について話していきたいと思います。

中野●たしかにBYODについて語るなら、まず出てくるのはセキュリティの問題ですからね。個人情報のような機密性の高い情報を扱っているのは論外としても、会社として外に漏らすわけにはいかない情報は多々あります。私用のマシンで仕事することを認めると漏洩のリスクが増すと考える経営者は多いでしょう。ちなみに徳本さんは前職ではBYODされていたのですか?

徳本●僕は前に広告会社にいたんだけど、自分のMacBookエアをBYODで使っていました。会社からはウィンドウズを支給するって言われたんだけど、僕はMacじゃないと手が動かないの(笑)。そんなんじゃ生産性が上がらないから、自分のMacを持ち込んでいました。ただ会社の基幹システムにはつないでくれなくて、それでもMacじゃないと仕事ができないって言ったら最後には会社のほうでMacを買ってくれたけどね。

中野●それもすごいですね…。でもBYOD自体は認めてくれていたんですね。

徳本●実はデスクトップであればMacは社内にあったんだよね。だけど僕は外出が多いからノート型のMacじゃないと仕事にならない。おそらくこの場合、会社としては新しいノート型のMacを買う費用負担が嫌だっただけじゃないかな。だけど、一般的にBYODを経営者が認めないのは、そういうことではないよね。

中野●そうですね。会社がBYODを認めたがらないのは、経営者から見て、そこにさまざまな問題点があるからだと思います。

徳本●問題点って?

中野●まず先ほども言ったセキュリティ問題。それから私用なのか業務用なのかはっきりしないという点です。たとえば業務用であれば私用メールなどに使うことは許可しないわけですが、BYODの場合、もとが私用ですからどこまで制限できるのかが微妙です。

徳本●会社としてはマシンをモニタリングしたいだろうしね。

中野●そうですね。支給したマシンならそれもできるでしょうけど、私用となると前例が少ないのでわからないというのが正直なところです。少なくともモニタリングするなら、それはしっかりと社員に伝えないといけません。

徳本●伝えられたからって納得するかは別問題だけどね(笑)。だって、そういう制限をかけられたりモニタリングされたりするのが嫌だからBYODしたいっていう面もあるし。

中野●あとは残業の問題もあるでしょうね。業務時間外で業務を行うと残業になり、残業代が発生します。でもBYODをするからには、業務時間外でも仕事しますよね。

徳本●そりゃあ、働き方や時間の使い方を自分で決めることで生産性を上げたいからBYODするわけだからね。

中野●しかし、それを就業規則で規定していないとアウトです。会社によっては社員IDのログイン/ログアウトで勤怠を管理しているところもありますが、私用のマシンでずっとログインされていたら…という懸念も出てきます。

徳本●なるほどねえ。そういう面倒ごとを嫌ってBYODを認めない経営者は多そうだね。だから皆、BYODではなくこっそり私用のMacで仕事してしまうのか。

ルールを作ってその中で運用することが大事

ーーではもし会社としてBYODを認めるのであれば、何をしておくべきなのでしょうか。

中野●まずは会社としてBYODに関する規則を定めておくことです。たとえば通信費は会社が払うのか、個人で払うのかなどを明記しておかなければ、労基(労働基準監督署)に駆け込まれたときにまずいことになります。それからセキュリティについても対策しておくこと。技術的な対策はもちろんですが、事故が起きる可能性はゼロではありません。そのときの対策など、「セキュリティに関してここまでやっていたんですよ」というのを明文化しておくことも重要です。そしてこれが何より大事なのですが、しっかりと届け出をさせるということですね。

徳本●会社として社員にBYODについて教育することも大事だよね。ルールを作ってその中で運用することを認めれば、こっそり私用のマシンで仕事されることもなくなるだろうし。

中野●会社としては、私用のマシンで何かされるというのが一番ダメージが大きいですからね。

ーーBYODに関係しそうな法律は何かあるのでしょうか。

中野●うーん、先ほど挙げた費用負担の規定が労働基準法上、会社に義務づけられている、というもの以外では正直ないですね。日本の法律は特にIT分野ではあと追いなんです。問題が起きてからガイドラインを作るので、問題が起きない限りは整備されないんですよ。おそらく問題が起こりうることを把握していない人も多いでしょう。

徳本●だからBYODしたいなら、会社にメリットとリスクの両方をプレゼンする必要があるよね。メリットだけでもダメ。こういうリスクがあるのできちんとルールを作りましょう、その代わりこんなにメリットがありますよ、ということを伝えていく必要がある。

クラウドサービスがBYODのカギになる

ーーではここからはBYODのメリットについて語っていただきたいと思います。

徳本●それはもう、生産性が上がるということに尽きるよね。だってクリエイティブな仕事をしている人にとってMacを使うのはもう当たり前のことでしょう。普段使っているものを仕事でも使うほうが当然生産性は上がりますよ。

中野●たしかにそういう面はあります。

徳本●僕が社員を雇うならBYODは当然OK。届け出はさせるけど、あとは何も縛らない。なぜなら、ソフトもクラウドを使うからね。

中野●BYODに関してはハードもそうですが、ソフトの問題もありますよね。クラウドを使うことでそれも解決できる、と。

徳本●そう、その会社だけで使っている独自のソフトを入れるってことになると、Macだと困るってこともあるかもしれない。だから大企業はまだ難しいかもしれないね。だけどベンチャー企業とかならクラウドを選択できるんだから、問題ない。基幹システムだってクラウドサービスで行えるし。むしろそれが一般化していくんじゃないかと僕は思っているよ。

中野●クラウドサービスはセキュリティ面で敬遠する企業も多いですが、実は自社でやるよりもセキュリティ面がしっかりしていることも多いですからね。

徳本●そうだよね。僕はBYODのコツはシンプル化だと思っている。なるべくクラウドを使うことでMacをシンプルに使う。そうすると、好きなマシンで仕事をしても問題ないよね。僕なんて自宅にMacBookプロを3台置いているからね。

中野●えっ、部屋ごとにですか?

徳本●うん。だけどクラウドを使っているから、仕事の環境としては3台ともまったく同じなんだ。外でも自宅でも、自宅のどの部屋でもどこでも仕事ができる。

中野●それはすごいですね。そこまでじゃなくても、BYODのメリットってそこにありますよね。

徳本●うん、どうせ仕事をするならテンションの上がる端末を使いたいからね。幸い、仕事でよく使われるオフィスソフトも、最近はウィンドウズとの互換性で問題が出ることもなくなってきた。BYODしやすい時代になっているんだよ。

ーー今後、BYODは増えていくのでしょうか?

徳本●増えていくでしょう。だって便利になったほうがいいに決まってますから。昔、会社ではファックス、ワープロ論争というのがあった。やっぱり手書きじゃないとダメだろうっていう人もいたけど、すぐにファックスとワープロが普及した。新しいものが出てきたとき、必ず拒否反応を示す人はいるんですよ。だけど便利さの前には勝てない。

中野●モバイルとBYODは今後の働き方のカギになるでしょうね。

徳本●働き方も変わってくると思うよ。これからは会社というものの有り様が変わって、1人で2、3社と契約して働く人も増えてくると思う。そういうとき、会社からマシンを支給するかというと、しないよね。BYODがトレンドになり、クラウドサービスを使うのが当たり前の時代になるでしょう。

中野●大企業の場合、システム面の制約もあって今すぐ変わるのは無理かもしれませんが、それもいずれ技術が解決するかもしれませんね。

徳本●Macは仕事をするための大事な道具。何でもいいじゃんなんてのは愚問だよね。

[みらいチャレンジ]長年の広告会社勤務でマーケティング畑を歩んできた徳本昌大氏と、IT企業に特化した弁護士・中野秀俊氏が2016年4月に設立。企業経営にまつわるさまざまな課題をノンストップで解決し、「みらい」に「チャレンジ」する起業家・経営者を増やすのが同社のミッションだ。【URL】http://mirai-challenge.com