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なぜIT×自動車がホットなのか?米国と日本の「IT車」事情を考える

著者: 松村太郎

なぜIT×自動車がホットなのか?米国と日本の「IT車」事情を考える

アップルと自動車

アップルには「プロジェクトタイタン(Project Titan)」と呼ばれる電気自動車のプロジェクトがあると噂されている。これによって実際に電気自動車を組み立て、アップルブランドの自動車の販売に踏み切ることになるのかどうかはまだわからない。iPhone/iPad/アップルウォッチの次のプロダクトが自動車というのは、現段階では若干飛躍がすぎるようにも感じられる。アップルが作る製品のうち、もっとも使用年数が長い設定のMacですら4年での買い替えを推奨している。果たして10年以上使う可能性がある製品に取り組む体制は整っているのであろうか。

アップルはすでに「カープレイ(CarPlay)」によって、iPhoneと自動車との接続性を確保している。ただし、この機能がカーインフォマティクスの世界に大きな影響を与えるとは考えにくい。米国でカープレイをサポートするのは新車で、かつ車載デバイスのオプションを選んだ場合に限られるからだ。

それでも、iPhoneは車の中で使われている。エアコンの吹き出し口に取り付けるホルダーにiPhoneを固定して、ナビや音楽を楽しむ人がほとんどだ。アップルはiOS 6以降、独自の地図アプリへ移行した。iOS 10では、オートズームや立ち寄り地点の設定などの新機能を備え、快適さを高めている。

プロジェクトタイタンの真偽は不透明なままだが、いずれにしても、アップルの自動車への取り組みはiPhoneを通じたものに現時点では限定されており、当面はその状況が維持されるものと思われる。

不確実だった移動の解決

7月7日にパブリックプレビュー版が公開されたiOSの新バージョンへの取り組みからもそれが見て取れる。iOS 10の目玉はSiriの開発者への解放となっており、Siriから操作できるアプリの6つカテゴリの1つに「ライドシェア」(乗り合い)がある。これは、米国発の「ウーバー(Uber)」や「リフト(Lyft)」といった配車アプリサービスとの連係のためのものだ。

ライドシェアは、シリコンバレーの企業の熱い視線を集め続けており、たとえばグーグルはウーバーへの投資を行うかたわら、自社でも同様のサービスを開発していると噂される。また、グーグルマップのルート検索を行うと、すでにウーバーでの移動時間とおおよその料金が表示される仕組みになっている。

アップルもiOS 10で地図アプリを開発者に開放し、ルート検索の移動手段をウーバーやリフトといったライドシェアアプリの予約によって実現することができるようにしている。さらに、アップルは中国で87%のシェアを誇る配車アプリサービス「滴滴出行」に10億ドルを投資し、iOS 10の地図アプリとの連係を実現している。

グーグルやアップルなどのモバイルプラットホーム企業がライドシェアアプリに熱を入れる理由は2つある。まず1つは、サンフランシスコ・シリコンバレー地域においては「移動」が非常に大きな「解決すべき問題」だからだ。公共交通機関が貧弱で、電車やバスなどの連携はほとんど取れていない状態。加えて、タクシーも高額でサービスが悪い。都市における移動のしにくさは経済活動や日々の暮らしに直結し、「移動をなんとかしたい」と考える起業家や市民がとても多くいる。

2つ目は、前述の理由を下敷きにして、「移動の確実性を確保すること」が、生活の問題を解決するという、モバイルのもっともわかりやすいテーマとなっているからだ。スマートフォンはコミュニケーションやショッピングをより良いものへと変えた。そして、さらにスマートフォンが生活へと踏み込んでいく段階で「都市内の移動」は多くの人々が望むキープロブレムなのだ。

自動運転は「異なる次元」

サンフランシスコ・シリコンバレー地域を含むベイエリアは、午後になると主要な道路が大渋滞となる。サンフランシスコには金融街があり、そこで働く人々は東海岸の営業時間(つまり3時間早い時間)で動いていることから、午後2時を過ぎる頃から帰りのラッシュが始まり、午後7時まで高速道路は渋滞し続ける。

シリコンバレー地域の公共交通機関は不便であることから通勤は車であり、人々は片道2時間ずつの通勤時間を覚悟する必要がある。この2時間を有効利用するため、テクノロジー企業は社員専用の通勤バスを走らせているが十分ではないため、戦術のライドシェアに加えて、もう1つの解決策となる自動運転車の開発も進んでいるのだ。

新興の電気自動車企業テスラは、いち早くオートパイロット機能を実現している。実際に体験してみると、高速は車に任せておいてもほとんど安心して移動できるレベルに仕上がっており、驚かされる。正直な話、もう自分でハンドルを握って移動したくなくなるし、いくら大渋滞だとしても、ストレスなく移動しようと考えるようになるから不思議だ。ただ、同機能を利用中の死亡事故も発生し始めており、全幅の信頼を寄せるまでには至っていない。

ここにもグーグルは関与している。高級SUVレクサスRXをベースとした自動運転車を公道で走らせているほか、ハンドルすらない自動運転車の試作車を披露している。またグーグル、ウーバー、リフトに加えて、ボルボ、フォードといった自動車メーカーを加えて、自動運転車のロビー活動を実施している。行き着く先は、自動運転車に任せて通勤ができる世界であり、オンデマンドで無人の車による移動を実現することだろう。ただ、前述のライドシェアアプリを介した人力の移動の解決からは遠い未来の話になりそうだ。

取り残される日本の都市部

トヨタやスバル、ホンダなどの米国で人気のある日本メーカーも、自動運転車の開発には意欲的だ。特に小規模メーカーのスバルは、すでに速度コントロールと車線はみ出しを補正を行う機能を実現し、ベイエリアで非常に人気のある選択肢となっている。

しかし、ベイエリアから一度東京に出張すると、ライドシェアや自動運転車に対する強いニーズがぱったりと薄れる経験をする。その理由は、公共交通機関が充実しているからだ。実によく完成された交通システムが存在しており、ウーバーやリフトの出る幕はない。

混み過ぎているという問題点はあるものの、ライドシェアアプリや自動運転車が解決できる問題ではなく、筆者の住むベイエリアの人々ほどの強い切実な思いを抱くことはできない。その点で、日本の都市部は、モバイルと自動車による問題解決からは取り残されるだろう。もちろん悪い意味ではなく、解決の必要がない問題だからだ。

一方、日本でも地方の交通システムとして、こうした技術が活用できるはずだ。たとえばウーバーは、京都府京丹後市の過疎地で、同アプリを活用したライドシェアサービス、「ささえ合い交通」を開始した。モバイルによる交通の解決は、日本では地方で花開くのではないだろうか。

世界58カ国・地域の300都市で展開している配車アプリサービスのウーバー(https://www.uber.com)。タクシー/ハイヤーの配車に加え、一般のカードライバーと車に乗りたい人をマッチングさせるサービスを特徴としている。しかし日本では、道路運送法で自家用車での有償送迎「ライドシェア(相乗り)」が禁じられているが、最近になって規制緩和の動きが出始めた。

【News Eye】

2016年5月、トヨタ自動車はウーバーとライドシェア領域における協業を検討する旨の覚書を締結。具体的な取り組みとして、トヨタファイナンシャルサービスがお客に車両をリースし、お客がウーバードライバーとして得た収入からリース料を支払うサービスを構築する。

【News Eye】

米国でウーバーと並んで有名なリフト(https://www.lyft.com)。日本最大のネットサービス企業である楽天が2015年に3億ドルの出資を発表。また、2016年1 月にリフトはゼネラルモーターズと戦略提携を行った。