新型アップルTVは、製品が出荷される前から、日本未上陸のセットトップボックスを含めた激しい競争にさらされている。また、力を入れるゲーム分野では、ゲームコンソールとの戦いも待っている。はたして、アップルに勝機はあるのだろうか?
アップルTVの強みと弱み
アップルには強固なブランド力とエコシステムがあり、すでに同社のサービスで揃えたコンテンツを持つ数多くのユーザを抱えている。そうしたユーザにとって、アップルTVは、コンテンツをリビングで再生したり、大型ディスプレイを購入しなくてもMacBookを大画面で使うための、理想的なソリューションだといえる。
また、ゲームとアプリに関しては、すでにiOS向けの作品をリリースしているサードパーティによる、Siriリモート対応のための移植がスムースに進んでラインアップが拡充していけば、これもほかのセットトップボックスを寄せつけない強みになるはずだ。と同時に、中・長期的にはアップルTVならではの特徴を活かした独自のアプリの充実をどこまで図れるかも重要な課題になってくる。
そして、ハードとOSの開発を統合的に行うことで実現されたスムースなナビゲーション操作や機器間およびアイクラウド連係は、これまでのアップル製品もそうであったように、スペックや数字に表れない部分で消費者を惹きつけるだろう。ただし、そのためには潜在的なユーザが購入前にアップルTVを体験してもらえる機会作りが重要であり、アップル・ストアやストア・イン・ストアの果たす役割は大きい。
一方で、アマゾンのようにEコマースによってユーザの囲い込みを行っている企業が、プライム会員制度と抱き合わせでビデオコンテンツサービスを実質無料提供してくることはアップルにも想定外だったものと思われる。
アマゾンのプライムビデオでは、すでに日本の一部のテレビ番組の見逃し配信や、国内外のコンテンツの独占先行配信などに力を入れているので、もしアマゾンがプライムビデオのアプリをアップルTV向けにリリースしない場合には、アップルも同レベルのラインアップを揃えることが急務となりそうだ。
豊富なiOSゲームアプリが移植されることによって、アップルTVはソニーやマイクロソフト、任天堂といった大手メーカーに匹敵するプラットフォームをテレビに持ち込むことになる。同時に、リビングで腰を据えて楽しむものとして、アップルTVならではのゲームコンテンツを拡充できるかどうかも重要な課題だ。
豊富なラインアップを揃えるアマゾン・プライム・ビデオ。アップルTVでも同レベルのコンテンツを提供できるかどうかが鍵になるかもしれない。
【URL】https://www.amazon.co.jp/b/ref=nav__aiv_piv?ie=UTF8&node=3535604051
まだ見ぬ可能性にも期待
このようにアップルTVは、サポートする個々のコンテンツジャンルでは、ライバルに差をつけられているところもあるが、1台ですべてをカバーできる総合力では優位に立っている。したがって、いろいろなコンテンツを楽しみたいという人や、家族それぞれの興味が多方面にわたるような場合、そしてもちろん、すでにいくつかのアップル製品を使っていてそのエコシステムに満足しており、複数の機器間の連係をスムースに行いたいというユーザであれば、迷うことなく購入して良いだろう。
それとは逆に、興味の対象が映画だけとか、ゲームだけにあるという場合には、それぞれの強みを持つプラットフォームを選択するのも1つの考えといえる。
そのうえで、最後にアップルTVの将来的な展開と希望について語っておきたい。今できることだけでなく、今後の可能性に満ちた製品か否かも、勝算と無縁ではないからだ。
たとえば、フェイスタイムやスカイプへの対応。もしかすると幻となったディスプレイ付きのアップルTVには、フェイスタイムカメラが内蔵されていた可能性もある。リビングに置かれたホームハブ的な製品であれば、そうしたビデオチャット機能に対応してもおかしくないだろう。
セットトップボックスタイプのアップルTVにカメラ機能はないものの、公式にはメンテナンス用とされている背面のUSB−Cポートを使えば、外付けアクセサリとして付加することができそうだ。あるいは、ビデオチャット用のカメラ機能付きのリモコンを、純正オプションとして用意するような方法もあるかもしれない。
こうしたアップデートが、たとえば、アップルTVのホームハブ宣言のタイミングで行われていけば、話題作りという点でも申し分ないといえる。
また、サービス面では、アップル・ミュージックの動画バージョンとして「アップル・ムービー」とでも呼ぶべき購読型のビデオストリーミングサービスが登場する可能性がある。実際にアップル社内では進行中のプロジェクトだという話もあり、それが現実化するのも時間の問題と思われる。
ちなみに、アメリカの3大TVネットワークであるABC、NBC、CBSや日本のテレビ東京は、無料のiOS向け視聴用アプリをリリースしている。もっとも進歩的なABCの場合には、普通のテレビと同様に広告付きかつ放送時間にリアルタイムで視聴できたり、人気番組のすべての回を自由に再生できたりする。ほかはまだ制約があるものの、同様の方向に向かいつつある流れを感じる。
このように、すべてのテレビ局がtvOS向けのアプリをリリースしてリアルタイム&ライブラリ視聴を実現するとき、アップルTVは、本当の意味でテレビを置き換える存在になるだろう。
アップル・ミュージックの次は、独自の動画ストリーミングサービスに取り組む可能性もあるアップル。アップルTVというハード面だけでなく、ソフト面でも「テレビ」の在り方を大きく変えようとしているのではないだろうか。
ライバルとなるべき他社製品との比較
アップルは、ジョブズ時代にもそうだったが、決してすべての製品ジャンルで、業界初のプロダクトを発売してきたわけではない。ただ、その中でベストなものを作ろうとしているだけだ。アップルTVも同様で、同種の製品は以前からあり、今も競合製品が存在する。ここでは、日本でのライバルとの簡単な仕様の比較を行ってみた。
家電業界からリリースされている、いわゆるスマートテレビは、ほとんどが多機能リモコンで操作され、ユーザインターフェイスも洗練されておらず、専用コンテンツやアプリの配信サービスもないという状態で、アップルTVの相手にはなりえない。
現実的にアップルTVの日本での最大のライバルになるのは、アマゾン・ファイアTV(Amazon Fire TV)だろう。これは、アンドロイドベースのファイアOSを搭載するセットトップボックスで、4K出力をサポートし、アマゾン・プライム会員であればプライムビデオのラインアップを実質無料で視聴できるのが強みだ。ただし、4Kテレビの普及状況から見ればアップルTVの1080pHD出力はデータ量も少なく現実的で、もしアマゾンがプライムビデオアプリを出せば、同じコンテンツが利用できるはずである。
ファイアTVはアップルTVよりも先に初代モデル(日本未発売)でボイスコントロールを実現し、現行モデルではアシスタント機能も備えるが、Siriのほうがインテリジェントで再生中の動画に関する情報取得やコントロール性に優れる。また、ファイアTVもゲーム対応だが、別売りのコントローラが必要なうえ、アンドロイド版からの移植なのでユーザ体験的には目新しいところはない。
一方、ファイアTVが有利なのは1万2980円という価格で、アップルTV(原稿執筆の時点では国内価格未定)は32GBモデルでも149ドルであることから、ファイアTVより高くなることは確実だ。
新型アップルTVとほぼ同時期に日本国内でリリースされる予定のアマゾン・ファイアTV。日本での最大のライバルになりそうだ。