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【CHAPTER 3_3】未来を拓くアップルTVイノベーションの全貌●Apple TVはテレビを変えるのか??

著者: 大谷和利

【CHAPTER 3_3】未来を拓くアップルTVイノベーションの全貌●Apple TVはテレビを変えるのか??

【Innovation 3】Siriがナビゲートする動画の視聴体験

アップルTVのキャッチフレーズの1つにある「未体験のテレビ体験」。これは、「未体験の番組・映画体験」と言い替えることもできるだろう。かつて、インターネットと検索エンジンが情報を探すという行為を一変させたように、第4世代のアップルTVは、映像を探して観るという体験を根底から変えようとしている。そこで実現される動画サービスについて見ていこう。

観たい映像への最短手順

パーソナルコンピュータの思想的な父といわれるコンピュータ科学者のアラン・ケイは、メディアと人の関係性を分析し、双方性が増してユーザの自由度が上がるほど人間はそのメディアに惹きつけられると論じた。

たとえば、生で演じられる演劇は、演者と鑑賞者が同じ場を共有し、目の前で劇が進行するが、上演場所と時刻が決まっているので、鑑賞者の都合がつかなければ観られない。

これに対して映画は、決まった上映時刻に映画館に行く必要があるものの、その選択肢は多く、演劇よりも楽に鑑賞できる。

さらに、テレビは、どこかに移動することなく、自宅でチャンネルを合わせるだけで鑑賞できる。また、放送時刻は決まっているが、録画装置との組み合わせでタイムシフト視聴なども可能だ。ただし、観たい映画や番組がいつも放送されているわけではないので、その点を改善したオンデマンド系の動画サービスが普及してきたのである。

こうして、私たちは自由度の高い映像視聴環境を、テクノロジーの発展とともに手に入れてきたわけだが、今度は無数の作品の中から希望のものを選び出すのに手間がかかるという、贅沢な悩みを抱えることになった。

その結果、多くの動画サービスでは、視聴者にそれなりの操作を強いるインターフェイスを、当たり前のものとして採用するようになってしまった。ハード/ソフトキーボードや多機能リモコンを使った検索語の直接入力、階層化されたジャンル分けによるナビゲーションなどだ。どれだけ緻密に細分化した階層構造で動画を分類できるかが、サービスの使いやすさにつながると誤解されていた部分もある。

しかし、実際に動画を観たいと思う人の最優先事項は、まさに観たい動画そのものであって、そこに辿り着く手順ではない。従来のナビゲーションの考え方では、的確な選択肢を与えようとすればするほど、かえって手順が増えるといった矛盾が生じる本末転倒なところもあった。

これを根本から見直し、映画通に相談するように希望を伝えるという最短手順で観たい動画を呼び出せるのが、新しいアップルTVが実現した、これからの動画視聴スタイルなのである。

サービス横断的な検索

具体的には、映画のタイトルを直接Siriに伝えて再生できるのはもちろんだが、「何か新しい映画が観たい」とか「ロマンチックなムービーが観たい」といった漠然とした希望でもよい。その結果リストに対して、「アニメーションで」とか「評価の高いものだけ」のような絞り込みも行える。もはや、リモコンもメニューも見る必要はない。

そして、もう1つ特徴的なことは、アップルTVのSiri検索が、iTunesストアなど単一のサービス内だけでなく、複数の動画サービスに対して横断的に働くという点だ。つまり、もしiTunesストアにリストアップされていない映画やテレビ番組があっても、ネットフリックスやフールー、HBO、ショータイムといったほかのサービスが提供していれば、Siriが表示してくれるのである。そして、比較して安く提供しているサービスがあるならそれを選択する、というようなことも可能になる。

このようにアップルTVは、Siriの搭載により、簡単で素早く、ときにお得な動画視聴を実現する、もっとも進んだ環境へと進化を遂げたのだ。

クロスサービス検索が可能

アップルTVでは、観たいコンテンツをどのサービスから再生できるか考えなくてもいい。SiriはiTunesやフールーなどの主要なサービス全体からコンテンツを横断的に検索して、その結果を表示する。また、サブスクリプションの場合は未契約でも検索結果に表示され、その場で契約を開始することもできるようだ。

賢く、柔軟な絞り込み検索

Siriはコンテンツのタイトル名だけでなく、そこに含まれるメタ(付加)情報を使って検索が可能だ。ジャンルや役名、出演者、監督、公開年、カスタマーレビューの評価などさまざまな条件からコンテンツを表示し、さらに条件を絞っていきながら観たいものを選ぶといったあいまい検索ができる。

 

【Innovation 4】リビングのゲームを革新する

アップルTVの公式ページで紹介されている特徴の1番目は映画などのエンターテインメントだが、2番目にアピールされているのがアプリ、特にゲーム系のアプリだ。iOSデバイスでカジュアルなモバイルゲームの市場を一変させたアップルは、再びアップルTVで、いわゆるゲームコンソール(ゲーム専用機)の領域に踏み込みつつある。そこではどんな戦いが待っているのだろうか?

専用機並みの高性能CPU

第4世代のアップルTVに組み込まれたA8プロセッサは、iPadミニ4と同じであり、iPadエア2が搭載するA8Xプロセッサと比べてグラフィックス性能がやや劣るが、セットトップボックスとしてはトップクラスのものといえる。

ここまで高性能なCPUを搭載したのも、ひとえにアプリ、中でもゲームアプリを快適に動かすためと考えられる。ほかのゲームコンソールと比較した場合、CPU単体だとソニーのプレイステーション3並み、周辺回路も併せたトータルなハードウェア性能ではプレイステーション2程度の性能にあたるというのが、大方の見方である。

もちろん、ゲームの評価は単純にマシンの性能だけで決まるわけではない。開発にかけられるコストや開発の難易度など、さまざまな要素に左右される。

コスト面では、カジュアルゲーム主体のiOSデバイス向けのゲームでは販売価格との兼ね合いもあって、専用機向けのゲームのような作り込みはしにくいとの意見もある。だがゲーム専用機の場合には、限られたリソースを使ってマシンの限界性能を引き出そうとすると開発のハードルが一気に上がる傾向が見られる。つまり、ある種の職人技がなければハードを使いこなせないため、一般的なアプリ開発にも使われて十分にこなれた純正の開発環境が用意されているアップルTVのほうが、一定の水準までの作り込みがかえって楽に行える可能性は高い。

ゲームリモコン対応の本気度

また、アップルはアップルTVで、コントローラの面からもゲームに適した環境を整えてきた。まず、標準のSiriリモートには加速度センサとジャイロスコープが組み込まれ、握って武器のように使ったり、横倒しにしてシンプルなゲームリモコンとしても利用できるようなデザインになっている。そのため、専用アクセサリとして、充電用のライトニングポートに取り付けるリストストラップも用意された。

さらにアップルTVは、MFi認定を受けたサードパーティ製のワイヤレスゲームコントローラなどにも対応しており、高度なテクニックを要するゲームもサポートできるように考えられている。

メタルによる優れた表現力

実は、少し前までiOSデバイス向けのゲーム開発では、汎用のグラフィックAPIであるOpenGL ESを利用することのボトルネックが発生していた。しかし、A7チップ以降はメタル(Metal)というアップル純正の専用グラフィックAPIが用意されたことで、一気に表現力や3DCGの緻密さ、物理シミュレーションの精度が高まった。

アップルTVもメタルをサポートしており、テレビの大画面と相まって、迫力あるゲーム画面を味わえることは間違いない。

いずれにしてもアップルTVの場合には、対象ユーザをコアなゲーマーには設定しておらず、ファミリー層を含む広い層を狙っている。したがってゲームアプリも、少なくとも当初は無料か安価な値段で入手でき、気軽に遊べるような種類のものが多くリリースされて、ゲーム消費の裾野を拡大するだろう。

ただし、iOSデバイスとは違い、通勤通学の空き時間に楽しむのではなく、リビングで腰を据えて遊ぶ時間を確保できるため、その中から、高価でもじっくり楽しめるタイプのゲームが育っていくものと思われる。

続々登場するゲームコントローラ

アップルTVと同時に発表されるのは、スティールシリーズの「ニンバス」だが、これ以外にもMFi認証の取れたゲームコントローラが利用可能だと謳っている。ロジクールやマッドキャッツ、ホリなどからすでにリリースされているiOS用ゲームコントローラも利用できるだろう。

メタルで広がる表現の可能性

メタルは、業界標準的な汎用規格のOpenGL ESを置き換える、アップル純正のグラフィックAPIだ。アップルTVのA8プロセッサにも対応し、処理によって異なるものの、数パーセントから3倍ものパフォーマンス向上が期待される。また、OpenGL ESのような移植性がないことから、開発者の囲い込みにも有利に働く。