憧れの「開けゴマ」
小さなビルの同じフロア、隣り合わせの部屋に私の事務所と自宅がある。なので出勤は一歩。毎朝、自宅の玄関のドアを開けて一歩外に出たら、次は事務所のドアを開けるだけ。これで出社完了だ。そのわずか10秒ほどの間に、自宅の玄関ドアのロックを外して鍵を閉め、事務所の鍵を開けてロックするという儀式を毎朝夕に繰り返している。当然ながら自宅と事務所の鍵は違うので2本の鍵を手にしてだ。ここは何とか文明の利器を使ってスマートに処理したい…。こうして私のスマートロック導入計画がスタートした。
どの製品にしようかいろいろ迷った結果、株式会社WiLとソニーの共同出資で設立した「キュリオ(Qrio)」のスマートロックを選んだ。キュリオは既存のサムターンに被せるタイプの後付け式スマートロックなので、工事や鍵の交換が必要ない。しかも価格は2万円以下。フルカバーではなくL型なので、サムターン周りの形状にも柔軟に対処できる点も決め手となった。
製品が到着したのでさっそく取り付け、設定してみた。ワクワクしながらアプリを起ちあげ、iPhoneの画面を指でスッと撫でる。一拍置いたあとに、“ピピッ、ジーガチャン”という音とともにサムターンが回転して鍵がかかった。次は解錠。同じように“ピピッ、ジーガチャン”。う~ん、なんか思っていたのと微妙に違う…。なんだろうこの違和感。数日使ってみて、ようやくその原因がわかってきた。
正直に白状しよう。鍵を開けるだけなら、従来の物理的な鍵を使ったほうが断然スピーディだ。なぜなら今までは、ポケットから鍵を取り出す→鍵穴に差し込む→回す、という動作だけで済んだ。しかし、スマートロックはiPhoneを取り出す→アプリを起動→接続を待つ(ここに関しては改善中とのこと)→アプリを操作→サムターンが回転するのを待つ、といったように手間も時間もかかる。サポートが遅れている“手ぶらで解錠機能”が使えるようになれば多少は改善されるだろうが、それでもサッと鍵を取り出して解錠したほうが早い。
洗練されたパッケージも印象的な「Qrio Smart Lock」。設置の前に、まずは専用アプリをダウンロードしてアカウント登録とオーナー登録をしよう。サムターンを回す部分は、形状に合わせてS/M/Lの3種類のホルダーをつけて噛み合わせる。付属品のプレートで高さの調節もできるので、さまざまドアに対応可能だ。【価格】1万9440円 【URL】http://qrio.me/smartlock/
シェアできる利便性
だからといって「なんだ、スマートロックってダメじゃん」と判断するのはあまりに早急すぎる。そもそも既存のサムターンを回して施錠/解錠するのだから、物理的な鍵のほうがスピーディなのはわかりきっていたこと。スマートロックの利点はそこではない。むしろ別のところにあるはずだ。直接キュリオに行って話を聞いてみた。
対応してくれたのは事業開発部マネージャの高橋諒氏。スマートロックの本質は単なる施錠/解錠ではなく、鍵をシェアできるという点にある、と力強く説明してくれた。いわれてみれば思い当たることがある。これまで自分が不在のときに信頼できる相手が来所する際は、あらかじめ相手に鍵を預けて事務所に入ってもらっていた。この「前もって鍵を渡しておく」というのが非常に面倒だったのだ。ところが、スマートロックなら鍵を相手にシェアするだけで済む。鍵のシェアと聞くと不安になるが、鍵データそのものを実際に渡しているのではなく、解錠のための証明書を発行するだけなので安全だ。また、日付や時間を限定できるので、「今日だけ有効な鍵」だったり「毎週水曜日の10時から12時の間だけ有効な鍵」といったシェアも可能だ。インターネットを介した遠隔操作ができない仕様なので、外部から不正アクセスされる危険も少ない。
国内にはキュリオのほかにも「アケルン(Akerun)」や「ニンジャロック(Ninja Lock)」といったスマートロックもある。それぞれ一長一短があるので、私のようにスマートロック導入計画を企てているなら比較してみることをオススメする。
【NewsEye】
スマートロックはホームセキュリティとしてだけではなく、訪問介護や家事代行、宅配、不動産の内見などの事業にも導入され始めている。相手に合い鍵を渡す手間を省くことができ、利用する時間や曜日を限定することが可能なスマートロックならではといえるだろう。