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Vision Proに採用された「Optic ID」とは? 虹彩認証が空間コンピュータに最適な理由

著者: 今井隆

Vision Proに採用された「Optic ID」とは? 虹彩認証が空間コンピュータに最適な理由

2023年6月のWWDC23で発表された空間コンピュータ「Apple Vision Pro」には、従来の指紋認証技術「Touch ID」や顔認証技術「Face ID」に代わって、ユーザの目の虹彩を使った生体認証技術「Optic ID」が採用されている。ここではOptic IDの仕組みについて解説していこう。

Vision Proの「Optic ID」ってどんな技術?

人間の目は白目と呼ばれる表面の膜状の「強膜」と、黒目と呼ばれるレンズ状の「角膜」で構成されており、さらに角膜は中心部の「瞳孔」とそれを取り巻く「虹彩」で構成されている。虹彩には周りの明るさに合わせて瞳孔の大きさを調整する役割があり、瞳孔の直径を2〜6ミリメートル程度の範囲で変化可能だ。

虹彩は瞳の色を決める部分で、そこに含まれるメラニン色素の量によって茶、青、緑、灰など多彩な色彩を持つ。さらにその模様は一人ひとり微妙に異なっていて、たとえ一卵性双生児であっても同じ虹彩のパターンを持つことはないとされる。

虹彩とは人の黒目(角膜)の中の瞳孔を取り巻く色の付いた薄い膜のこと。虹彩が周りの明るさに応じて伸び縮みすることで瞳孔のサイズが変わり、絞りの役割を果たす。その模様は一人ひとり固有のパターンを持ち、生涯不変とされている。

この唯一無二の虹彩模様を利用して生体認証を行うのが、「Optic ID」に代表される虹彩認証技術だ。

虹彩認証では角膜を含む目全体を高解像度カメラで撮影し、その画像をデジタル変換したうえで虹彩部分だけのデータを抽出する。さらにそのデータに数学的処理を行うことで個人に固有な特徴データ(テンプレート)を取り出し、このデータを使って個人の特定(認証)を行う。

Optic IDは、カメラで捉えた虹彩のイメージをそのまま使用するのではなく、線形フィルタを用いたテクスチャ解析により、その特徴データのみを抽出し、その情報はセキュリティサブシステムであるSecure Enclaveに保管される。

虹彩認証の特徴は、指の怪我や酷使による変形などによって影響を受けやすい指紋認証などと異なり、生涯を通じて変化が少ない(同一性が保たれる)部位による認証であること、非接触のため衛生面で優れた方式であること、認証に要する時間が短いこと、誤認識率(別人と認識される確率)が極めて低いことなどがある。

一方で顔の向きや視線の方向、外来光など、環境の影響を受けやすいという欠点もある。

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虹彩認証をVision Proに導入した理由

虹彩認証は、今までもさまざまな用途で個人認証の手段として使用されてきた。たとえば、オランダやイギリス、アラブ首長国連邦では出入国管理や国境審査に虹彩認証技術が使われている。

2015年には一部のAndroidスマートフォンの生体認証機能として搭載されたが、現在ではこの方式を採用するモデルはない。さまざまな環境下で使用されるスマートフォンでは、周辺光の影響や逆光などでロック解除ができないケースがあることや、センサ類などの搭載部品のコストの高さなどが原因とされている。

一方でApple・Vision Proは顔に直接装着するデバイスのため、周辺光などといった環境の影響をほとんど受けない。

さらに、Vision Proにはアイトラッキングのために、光源となる多数の近赤外線LEDや目の周辺を撮影する4つの赤外線カメラなど、虹彩を高解像度で撮影するために必要となるセンサ類がすでに完備されている。このため虹彩認証技術「Optic ID」は、まさにVision Proにとって最適な生体認証技術だと言えるだろう。

Apple初の空間コンピュータApple Vision Proは利用者の頭部に直接装着するゴーグル構造のため、ユーザの姿勢や顔の向き、瞳に映り込む外来光や環境光などの影響を受けないことから、虹彩認証に最適な条件が揃っている。 写真●Apple
Apple Vision Proのディスプレイ周辺には、高精度なアイトラッキングを実現するための、多数の近赤外LEDと左右計4個の赤外カメラが搭載されている。Optic IDはこれらの光源とカメラを使って、高精度な生体認証を高速に行うことができる。
YouTubeで公開されているWWDC23の基調講演の動画。

※この記事は『Mac Fan』2023年10月号に掲載されたものです。

著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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