Mac業界の最新動向はもちろん、読者の皆様にいち早くお伝えしたい重要な情報、
日々の取材活動や編集作業を通して感じた雑感などを読みやすいスタイルで提供します。

Mac Fan メールマガジン

掲載日:

Apple Intelligenceは期待はずれ? その“評判”を米国の調査から紐解こう。Appleが目指すのは“自然”な体験の拡張と向上

著者: 牧野武文

Apple Intelligenceは期待はずれ? その“評判”を米国の調査から紐解こう。Appleが目指すのは“自然”な体験の拡張と向上

4月からいよいよ待望のApple Intelligenceが日本でも使えるようになる。しかし、2024年10月から先行リリースされている北米英語圏では、評判が今ひとつともいわれる。

実際のところはどうなのか。アンケート調査から見えてきた、Apple Intelligenceの実力を解説していこう。

Apple Intelligenceがまもなく日本でも! アンケート結果から、既存ユーザの“反応”を見ていこう

いよいよ2025年4月から、日本でもApple Intelligenceが使えるようになる。期待に胸を膨らませている方も多いだろう。

Apple Intelligenceは、すでに2024年10月から、米国などの英語圏ではリリースされている。しかし、その評判は今ひとつという報道を耳にし、テンションが下がっている方もいるかもしれない。Appleの株価が年末から年明けにかけて下落した理由として、「Apple Intelligenceの期待外れ」が原因だという報道があったほどだ。

いったいApple Intelligenceの評価はどうなのだろうか。

米国のスマートフォン買取ビジネスを手掛けるSellCell.comが、Apple IntelligenceとサムスンのGalaxy AIについて1000人規模のアンケート調査を行っている。その結果をご紹介し、米国のユーザがApple Intelligenceにどのような感想を持っているのかをご紹介したい。

iPhoneユーザはApple Intelligenceに無関心? 利用者は約40%しかいない

まず驚くのが、Apple Intelligenceへの無関心ぶりだ。Apple Intelligence対応iPhoneの所有者への「Apple Intelligenceをすでに使いましたか?」という問いに、「使いました」と回答したユーザは41.6%しかいなかった。

6割弱の人がiOS18.1にアップデートしていないか、していてもApple Intelligenceを積極的には使っていないことになる。

Apple Intelligenceを使っていると回答したのはわずか41.6%。参照●「iPhone vs Samsung AI User Survey」

米国では10月28日からiOS 18.1のアップデートが始まり、この調査は11月28日から12月6日までの間に行われた。つまり、1カ月経っても使っていない人が半数以上いたことになる。

意外に、米国のiPhoneユーザはApple Intelligenceに関心がないのかもしれない。

Apple Intelligenceに価値を感じたのは、わずか20%という結果。これ、大丈夫か…?

そして、驚いたのが、すでにApple Intelligenceを使った経験がある422人に対して、「Apple IntelligenceはiPhoneの体験に価値をもたらしましたか?」と尋ねた結果では、64.7%の人が「価値を感じない」と回答している。

Apple IntelligenceがiPhoneの体験に価値をもたらしたか、という質問。64.7%の人が価値を感じないと回答している。参照●「iPhone vs Samsung AI User Survey」

「価値がある」「ある程度ある」というポジティブな評価は、合わせても19.4%でしかない。

ただし、「スマートフォンを購入するとき、AI機能は機種選定に重要ですか?」という問いには、「重要」「重要だが最優先ではない」を合わせて47.6%と半数近くになった。

スマートフォンを購入するとき、AI機能は重要な決定要因になるかという質問。47.6%の人が重要だと回答している。参照●「iPhone vs Samsung AI User Survey」

つまり、ある程度AI機能には期待をしているものの、現在のApple Intelligenceには物足りなさを感じているということなのだろう。

根強い“AI全般”に対する拒否感。Apple Intelligenceは、まだ始まったばかりだ

「なぜApple Intelligenceを使わないのか」と尋ねた結果では、「最新iOSにアップデートしてない」は除外して考えるとしても、「役に立つとは感じない」という回答がもっとも多かった。

Apple Intelligenceを使わない理由を複数回答で尋ねると、「アップデートしていない」を除いて考えると、「役に立つとは感じない」がもっとも多い回答になった。参照●「iPhone vs Samsung AI User Survey」

また、「AIの正確さを信頼していない」「プライバシーとセキュリティが気になる」「AIを使うことに倫理的な抵抗がある」「AIに頼りすぎるのが心配」という、Apple Intelligence以前のAI全般に対する拒否感を挙げた人も少数だがいた。

米国は世界でもっともAIの開発が進む先進国である。一方、あるいは先進国だからこそ、AIに対する拒否感を持つ人も多い。「人間の仕事が奪われる」だけでなく「人間性を失わせる」として、AIや自動運転に対して反対運動を起こしている人たちもいる。

「役に立つとは感じない」という回答は、しかたのないところもあるかもしれない。なぜなら、Apple Intelligenceはまだ始まったばかりで、利用できる機能はさほど多くはないのだ。

まさに“インテリジェンス”な構造。新機能の追加はかなり期待できそうだ

Apple Intelligenceは、非常に賢い構造になっている。

元になる基礎モデルがあり、アダプタと呼ばれる小さなモデルによって、各機能が実現されている。なお、この小さなモデルは、基礎モデルの重みづけを変える役割を担っている。つまり、AIモデルはひとつでありながら、アダプタで変化をつけることで「要約」「校正」「メール返信」などの機能を実現しているのだ。

このアダプタが追加されることで、Apple Intelligenceの機能はどんどん増えていく。現状は、まだこのアダプタが十分に用意されているとはいえない。そのため、多くの人に刺さるような機能が実現できていないのだと思われる。

今後、継続的にアダプタは追加されていき、さまざまな機能が実現されていくことだろう。このあたりは、今後に期待をしたい。

どんな機能が人気? はたまた不人気? ユーザの声を聞いてみよう

では、その中でもどのような機能に人気があるのだろうか。

人気機能

使っている人に複数回答で尋ねた結果、もっとも人気が高いのは「Writing Tools」となった。

Writing Toolsは、メッセージ、メモ、メールなどで文章を校正してくれたり、読みやすくしてくれる機能だ。

その次に人気の「Notification Summaries」は、プッシュ通知の内容を1つにまとめてくれる。そして、ほぼ同じ程度に人気だったのが「Priority Messages」。これは、メールなどで緊急性の高いメッセージを強調表示し、内容のまとめを表示してくれるというもの。

「Clean Up in Photos」は、写真の中の不要な物体を消せる機能だ。これはすでに日本でも「クリーンアップ」として提供されている

「Smart Replay」は、メールやメッセージなどで返信を書く際、適切な返答を提案してくれる。また「Natural Language Search」は、「写真」アプリで言葉で写真を検索できる機能だ。

“不人気”機能

以下はあまり人気がなかった機能だ。

「Transcription Summaries」は、録音や電話を音声認識してテキストにしてくれるもの。すでに日本でも、電話の留守番電話機能やメモ帳の録音機能に搭載されている。

「Memory Movie」は、写真やビデオから新たなビデオを生成してくれる。「AI-Enhanced Siri」は、AIによるSiriの拡張で、話題を記憶してくれるため対話が可能になるというものだ。

“気がつく”機能が人気な傾向。つまり、Apple Intelligenceは“日常の操作”に溶け込んでいる?

この人気順を見ると、ある面白いことに気がつく。それは、普段iPhoneを使っていて“遭遇する”Apple Intelligence機能に人気があるということだ。

Writing Toolsはメッセージを書くとき、Notification Summariesはプッシュ通知を見るとき、Smart Replayは返信をするときに自然に遭遇し、Apple Intelligenceの機能に気がつき、便利に感じている。

一方、わざわざ探して使わなければならないTranscription SummariesやMemory Movieはあまり人気がない。存在していることに気がつかないのかもしれない。

これはAppleの試みが成功している証ではないかと思える。

Apple Intelligenceは、派手な生成AI機能をAppleデバイスに持ち込むことは目指していない。普段と同じように使っていながら、ごく自然にAIの助けを借りて、ユーザ体験を拡張したり向上させることが目的だ。そのため、AIアプリを入れるのではなく、iOSやiPadOS、macOSに組み込む形での開発が行われている。

今、評価が低く、期待外れとも言われているのは、ユーザが派手でインパクトのある機能を期待したこととの落差によるものではないだろうか。

AppleがApple Intelligenceで実現したいこと。“成功の証”はどこにある?

Apple Intelligenceは、今までのAppleデバイスのユーザ体験は変えずに、その質をあげていくことを目的にしている。今後も、アダプタが開発され続け、Apple Intelligenceの機能は静かに増えていく。そしていつの間にか、Appleデバイスを手放すことができなくなっている。そのような技術だ。

いわば、「いつものAppleデバイスの使い勝手、それこそが成功の証」なのだ。2025年4月になっても、Appleデバイスの使い勝手は何も変わらない。しかし、確実に体験の質はあがる。

Apple Intelligenceは、“静かに私たちの生活に入ってくるもの”のようだ。

おすすめの記事

著者プロフィール

牧野武文

牧野武文

フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。

この著者の記事一覧